クリフォード代数 Cℓ3,0(R) の偶部分としての四元数体
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/15 05:35 UTC 版)
「四元数」の記事における「クリフォード代数 Cℓ3,0(R) の偶部分としての四元数体」の解説
幾何学的計算に対する四元数の有用性は、四元数体をクリフォード代数 Cℓ3,0(R) の偶部分 Cℓ+3,0(R) と同一視することによって、他の次元にも一般化することができる。これは基本基底元 σ1, σ2, σ3 から構成される結合的多重ベクトル環で、基底元は σ 1 2 = σ 2 2 = σ 3 2 = 1 , {\displaystyle {\sigma _{1}}^{2}={\sigma _{2}}^{2}={\sigma _{3}}^{2}=1,} σ i σ j = − σ j σ i ( j ≠ i ) {\displaystyle \sigma _{i}\sigma _{j}=-\sigma _{j}\sigma _{i}\qquad (j\neq i)} なる積の規則に従う。これらの基本基底元が三次元空間のベクトルを表すものとすれば、ベクトル r の単位ベクトル w に直交する平面に関する鏡映 (reflection) が r ′ = − w r w {\displaystyle r'=-wrw} で表され、二つの鏡映の合成はそれぞれの鏡映に対する平面同士のなす角の二倍の回転角をもつ回転を与えることから、 r ″ = σ 2 σ 1 r σ 1 σ 2 {\displaystyle r''=\sigma _{2}\sigma _{1}\,r\,\sigma _{1}\sigma _{2}} は σ1 と σ2 とを含む平面における 180° 回転が対応する。これは四元数の対応する公式 r ″ = − k r k {\displaystyle r''=-\mathbf {k} r\mathbf {k} } とよく似ているが、実はこの二つは同一視できる。それには k = σ 2 σ 1 , i = σ 3 σ 2 , j = σ 1 σ 3 {\displaystyle \mathbf {k} =\sigma _{2}\sigma _{1},\mathbf {i} =\sigma _{3}\sigma _{2},\mathbf {j} =\sigma _{1}\sigma _{3}} と同一視して、かつこれがハミルトンの関係式 i 2 = j 2 = k 2 = i j k = − 1 {\displaystyle \mathbf {i} ^{2}=\mathbf {j} ^{2}=\mathbf {k} ^{2}=\mathbf {i} \mathbf {j} \mathbf {k} =-1} を保つことを確認すればよい。この描像において、四元数はベクトルではなく二重ベクトル (bivector) に対応する(これは一次元的な「向き」ではなくて、特定の二次元平面に付随する向きと大きさを持った量である)。また、複素数との関係もより明らかになる。つまり、二次元ではそれぞれ σ1 と σ2 の方向を持つ二つのベクトルに対して、ただ一つの基底二重ベクトル元 σ1σ2 が存在するから、虚数単位は一つだけしかないが、ベクトルの方向が三つある三次元では、三つの二重ベクトル基底 σ1σ2, σ2σ3, σ3σ1 が存在して、三つの虚数単位を持つ。 この理由付けはさらに拡張することができて、クリフォード代数 Cℓ4,0(R) においては、基本となるベクトルが相異なる四つの方向を持つから、従って平面を張る線型独立な組は六種類であり、二重ベクトル基底元は六つ存在する。このような空間において、回転子 (rotor) と呼ばれるそのような四元数の拡張を用いた回転は、斉次座標系を用いた応用において非常に有効である。しかし、三次元の場合に限っては、基底二重ベクトルの数と基底ベクトルの数が一致し、各二重ベクトルを擬ベクトルと同一視することができる。 ドルストらはこの広い設定において四元数の占める優位性を以下のように同定した: 回転子は幾何代数において自然であり何の不思議もないし、それが含む二重鏡映の情報を容易に理解できる。 幾何代数において、回転子とそれが作用する対象は同じ空間に属する。これにより表現を変える必要がなくなり、かつ新しいデータ構造や(四元数に関する線型代数学を要求する)方法を考える必要もなくなる。 回転子はベクトル元や他の四元数だけでなく、直線や平面、円、半直線など、この代数の任意の元に普遍的に適用可能である。 ユークリッド幾何の共形モデルにおいて、回転子はこの代数の一つの元で回転、平行移動、拡大縮小を行ることができて、任意の元に普遍的に作用する。特にこれは、四元数の場合はその軸が原点を通るものに限られるのに対して、回転子は任意の軸の周りでの回転を表現できることを意味する。 回転子の示す変換は、特に直接的に解釈することができる。 クリフォード代数のさらに詳細な幾何学的描像は幾何代数(英語版)の項を参照せよ。
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