イル=ド=フランスでのゴシック建築の発展
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「ゴシック建築」の記事における「イル=ド=フランスでのゴシック建築の発展」の解説
1130年、サン=ドニ修道院のシュジェール院長が、修道院付属聖堂(現在は大聖堂)の改築工事を始めた。現在、3つの広間を納めた前廊(西正面)と聖歌隊席を含めた一部が現存している。最初に多数の巡礼者のための大きな入り口が造られたが、これは円柱を束ねた支持柱に支えられた尖頭リブ・ヴォールトが空間を分節しており、これがノルマンディーの後期ロマネスクをゴシック建築に発展させたものになっている。1140年に着工し1144年に完成した内陣は、後の大改修のためあまり残っていないが、放射状の祭室と方形の祭室を有するシュヴェで、前廊と同じく革新的なものだったらしい。しかし、サン=ドニ修道院付属聖堂はあまりにも早熟した建築であり、12世紀後期になるまで比較的小規模な教会でひっそりと真似られるだけであった。 サン=ドニと同じ頃(1130年頃から1164年)に建設されたサンスのサンテティエンヌ大聖堂は、周歩廊があるものの袖廊はなく、立面の強弱というロマネス建築特有の構成を持っている。ただし、六分ヴォールトと3層にわかれた身廊立面はゴシック建築の要素を持っており、これは以後のゴシック建築に影響を及ぼした。 12世紀後半になると、ブルゴーニュとノルマンディーでは活発な建設活動が行われ、初期ゴシック建築の発展を促したが、これは個々の独自性やロマネスク建築の伝統を阻害するものではなかった。ノワイヨンのノートルダム大聖堂、サンリスのノートルダム大聖堂(16世紀の改築により当時の造形はあまり残っていない)、トゥルネーのノートルダム大聖堂、サン・ジェルメール・ド・フリなどは、それぞれロマネスク建築特有の構成を持つもの、あるいは逆にその伝統的形態を全く失ったものもある。 これら初期ゴシックの教会堂で創建当時のまま残っているものはひとつもないが、12世紀後期の状態を比較的よく保存しているのは、ノワイヨンのノートルダム大聖堂、そしてランのノートルダム大聖堂、パリのノートルダム大聖堂である。 ノワイヨン大聖堂は第一次世界大戦の後に大改装されたが、初期ゴシックの構成を最もよく残している。平面はロマネスク建築の伝統を色濃く残しているが、身廊立面には初期ゴシック建築の特徴である、アーケード、ギャラリー、トリフォリウム、クリアストーリという4層構造がみられる。この手法によって、壁面から重苦しい感じが取り払われ、ロマネスク建築とは異なった趣を見せている。 ランのノートルダム大聖堂は、ノワイヨン大聖堂の影響を受けたもので、中央部にトゥール・ランテルヌ(光塔)を頂く点はロマネスク建築の影響を残しているものの、身廊部分は強弱を繰り返すパターンが全く見られなくなり、全ての柱が円柱に変わっている。袖廊には、ロマネスク建築では滅多に採用されなかった円形窓が採光用として用いられており、これが13世紀ゴシック建築の特色となる「ばら窓」の発展の第一段階となった。ラン大聖堂は初期ゴシック建築のまぎれもない傑作で、その形態は ロレーヌやラインラント地方に広がり、以後数十年に渡って影響を与え続け、後にシャルトルのノートルダム大聖堂に引き継がれた。 パリのノートルダム大聖堂は、しばしば初期ゴシック建築の最高傑作であるとされる。この建築物は高い背を持つため、構造の観点からベイ(格間)が細分化されており、またクリアストーリ(高窓)が高い位置にあるため、下部構造によって採光が不足しているという欠点があった。しかし、平面は二重の側廊を持つという特殊な形状で、さらに、はじめから薄い壁を意識して設計されたらしく、上部のヴォールト構造を支えつつ周歩廊と側廊を跨ぐ控え壁を建設するためにフライング・バットレス(飛び梁)を採用したほか、クリアストーリ下のトリフォリウムにあたる位置に円形窓を配置するなど、かなり野心的な設計が行われていた。後の改装によって証明できるものが失われてしまったため、当時のフライング・バットレスがどのように架けられていたかは必ずしも明確ではないが、この形態はすぐに決定的なものとなり、やがてパリ司教区ではこの聖堂に影響を受けた教会堂が建設された。 イル=ド=フランスとその周辺部の初期ゴシック建築は、シャンパーニュに広がった。シャロン=アン=シャンパーニュのノートルダム=アン=ヴォー聖堂とランスのサン・レミ大聖堂の後陣は、初期ゴシック建築の最終的な完成形態で、両者ともに後陣の立面は4層構造で、大きな開口を取ることによって鳥籠のような線的で軽快な構造となっている。シャンパーニュでは、他にソワッソン大聖堂の袖廊がこれと全く同じ構成を有している。
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