その他の留意事項
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/04/14 09:54 UTC 版)
「信託型従業員持ち株制度」の記事における「その他の留意事項」の解説
スキームの設定に際して、会社が信託に対して自己株式の処分を行うケースがある。この場合、スキーム開始後に株価が下落した場合には、この補填を会社が約束しているため、自己株式処分価格を事後的に引き下げたのと同じ結果となる。このことからこのような自己株式の処分が公正な処分に当たるかどうか疑わしい場合があると指摘されている。 同様に、新株発行を検討する場合には、会社が補償する借入金が新株払込金に充当されることとなるため、見せ金増資ではないかとの指摘もある。(実際の払い込みは、従業員持株会を通じた従業員の買い付け時点となるため、実質的には分割払い込みと同様となる。但し、払い込み未達分は会社自身が払い込むこととなるため、やはり不公正発行の疑いを生じる。) 市場から買い付ける場合には、自己株式取得手続きの潜脱である可能性が高いほか、本来であれば数年に及ぶ買付株式を一気に取得することとなるため、作為的相場形成に利用される危険性も指摘されている。 一方、従業員の側からみると、市場買付けを信託からの買付けに変更するだけであれば経済的なメリットは生じない。また、株価が下落しても以前と変わらず買い下がっていくだけであるため、損失回避のメリットもない。株価が一定以上上昇した場合に限り、スキーム設定時に比べて買付単価が上昇した分の一定部分が還元される可能性があるのに過ぎない。むしろ、株価上昇分の還元以外は従業員にとっては既存の従業員持株会と変わらないものであり、そもそも従業員の資金拠出を前提とする自社株購入勧誘スキームであることから、従業員持株会への新規加入等によって実質的な労働分配は減少する。従業員が株価上昇メリットを享受したい場合には、スキームの存続期間中は従業員持株会から脱退することができないため、投資判断に対する誤った誘因となる危険性がある点に注意が必要である。 このように見ていけば、従業員持株会活用スキームの導入のねらいは、ESOPのような従業員と会社、株主と従業員との関係を明らかにして、労働インセンティブの創造と資本の再分配を狙うものではなく、会社経営者に都合の良い株式プールを一時的に作り上げるか、処分先に困っている自己株式の都合の良い処分先を従業員持株会に求めるものである以外の説明は困難であるということができる。むしろ、従業員持株会は、一般的に株価上昇時には単元株の引き出し売却が起き易いため、これを抑制する効果を会社側が期待しているものと考えられる。また、ESOPとは異なり、従業員の個人財産の拠出による会社株式購入であるため、仮に会社が破綻した場合であっても従業員に対する保護は一切なされない。 この一方で大企業の経営側としては、多くの場合に従業員(正社員)に給料を払い過ぎていると感じており、自社株購入させることで実質的な給料の返納を期待できるか、或いは自社株を購入しない者はロイヤリティー不足として排斥する口実となることから、雇用・待遇調整の手段として選好されているとの声が聞かれる。 このようないくつかの点から、ESOPとは正反対の、従業員の管理抑圧効果を狙っているものということができるものであり、かつてこのスキームを日本版ESOPと称する向きが存在したが、現状ではまったく別種のスキームとしての理解が進んでいる。 なお、先行してこのスキームを導入したケースでは、そこそこの株価パフォーマンスを示す会社がある一方で、相当の損失を被る可能性のある会社が続出しているものとみられる。新規に導入を検討する場合には、導入時の株価が底値近辺であり、損失発生のおそれが少ないことを取締役が疎明できるようにする必要があるものと考えられる。
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