信託型従業員持ち株制度とは? わかりやすく解説

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信託型従業員持ち株制度

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/29 21:39 UTC 版)

信託型従業員持ち株制度(しんたくがたじゅうぎょういんもちかぶせいど)は、従業員持株会[1]という既存の集団的株式投資スキームを用い、従前の従業員持株会では市場から定期的に株式の買付けを行っていたものを、3年から5年程度の一定期間について会社が用意する信託や中間法人などのビークルからの買付けに切り替えるスキームである。


  1. ^ 従業員が、被雇用会社株式を定期的に購入するときに、会社が奨励金等を補給して中長期的な資産形成を支援する制度。通例は民法に基づいて設立される投資組合により、給与もしくは賞与から天引きされた社員一人ひとりの投資金額をまとめ、一括して被雇用会社株式を購入する仕組みであり、社員の資産形成を支援する制度として、日本の上場企業等の多くが導入している。企業にとっての導入メリットとして、福利厚生制度を充実させることにより従業員の会社に対しての忠誠心が高まること、従業員購入株式の議決権を取りまとめて会社に都合よく行使できること、株主構成を安定させて将来的な敵対的買収者に対する抑止力や安定的な株価形成が期待されることなどがあげられている。
  2. ^ 借り入れの返済は従業員の責任ではなく、会社の責任であることから、会社が実質的にビークルまたはスキームを支配しているといえ、このような資金による株式の取得は自己株式の取得にあたり、会社がスキームに対して新株発行や自己株式の処分を行うと、仮装払込みにあたるとする考え方がある。このため、会計処理ではスキーム保有株式は会社の自己株式とし、資本の払込みの効力を認めていない。
  3. ^ 従業員持株会制度自体を、従業員の選択による自社株式報酬制度と解釈すれば、自社株式報酬制度に加入する従業員のみを対象とするSARs(Stock Appreciation Rights:株式増加参加権)の一種と考えることができるが、この解釈に立てば、従業員持株会を利用した自社株式保有スキームは、会社によるヘッジ手段といえる。このスキームは大手信託銀行のほとんどが取り扱っているが、従業員持株会の買い付け先を市場から会社の用意する株式プールに変更させることと、従業員に自社株式の値上がり益の還元を期待させて、従業員持株会からの脱退や株式の引き出しを抑制し、あわよくば従前以上に会社株式を購入させることを目的とする、会社自身による自社株式投資スキームといえる。
  4. ^ このスキームは、証券会社など複数の金融機関が取り扱っている。信託期間が短く一時的な株式の受け皿として利用されるほか、株価下落時には会社がスキーム損失の補填義務を負う。また、議決権の有無は明確でなく、受益者も従業員持株会であると考えられるため、信託に対する従業員の権利保護は図られていない。
  5. ^ ネクシィーズ,『シンセティックESOP』の導入に関するお知らせ” (2006年4月13日). 2010年3月17日閲覧。
  6. ^ 最初の導入事例であるネクシィーズのケースを見てみると、 2006年9月に、76,935株、@10,315、793,559,000円で十数年分を設定したとされており、以後、~2007年3月末71,239株(高値12,200、安値7,000)~2007年9月末64,684株、(高値7,340、安値3,850)~2008年3月末、55,641株、(高値5,560、安値4,040)~2008年9月末、44,637株、(高値4,800、安値2,640)、~2008年12月末33,383株、(高値2,875、安値1,412)~2009年3月末19,372株、(高値2,115、安値1,545)~2009年6月末12,538株、(高値4,010、安値1,909)~2009年9月末 9,070株(7,425との記載もあり)、(高値3,690、安値3,000)~2009年12月末1,159株、(高値3,440、安値2,100)と推移していることから、2010年初にはスキームが終了したものと見られ、設定以降、従業員持株会が毎月同額を買い付けたものとして試算すると、スキームは5.5億円程度の債務超過、従業員は3億円弱の払込み総額に対して25%程度の含み損を抱えているものと考えられる。なお、括弧内当該期間中の株価はYahooファイナンスから、各時期の株数残高は当社有価証券報告書または四半期報告書より取得した。但し、その後の四半期報告書においても中間法人からの株式処分が行われている旨の記述がみられ、同スキームで自己株式を再取得してスキームを継続している可能性もある。
  7. ^ 導入済み企業で株価が大幅に値上がりしているものも数社あるが、導入後一年以上経過したもののほとんどのケースで株価が下落しており、保証履行が発生する可能性がある。株価が大幅に下落しているケースも目立ち、広島ガスは25%程度、大同メタル工業は4億円程度の設定金額に対して1億7641万9千円(2009年12月末現在、当社四半期報告書より)の損失を抱えて、スキームが予定より早く終了する可能性が高い模様である。全日本空輸も一年半が経過しているが、スキームでの株式買い付け期間中は株価が高く推移したものの、その直後に公募増資を行うなど、売却開始以降は株価が低迷していることから、既に20億円程度の債務超過状態が生じているものと見られる。他にレオパレス21も1年程度しか経過していないが、導入後に株価が急落しており、23億円程度の債務超過に陥っているものと見られる。東急電鉄、カッパ・クリエイトなども株価は低迷傾向にある。一方、これらの会社の従業員持株会参加者は、従来どおり時価で買い付けを継続しているだけであるため、会社からの報奨金等を含めると、損失の度合いはそれほど大きくないか、むしろ損失となっていない場合もあると見られる。
  8. ^ スキームのために、会社が従業員個人の承諾なく個人財産である従業員持株会への将来の出資金を流用する結果となる点に問題があると指摘する向きもある。また、米国ESOPでは禁止されている、従業員の株式取得資金負担が行われているが、従業員が負担する場合については、金融商品取引法・金融商品販売法上の無届(非開示)勧誘の問題があるものとされる。
  9. ^ 資本主義が私有財産制の維持と自由、民主主義において運営されるために必要な資本所有の広範な分散を、労働分配によって実現すること。ESOP参照。
  10. ^ ESOPは、雇用者会社による労働分配としての株式給付スキームであり、従業員の財産拠出による株式購入を否定する。(米国においては、従業員が株式購入資金を負担する場合には、証券法上の勧誘にあたり、投資者保護の観点から問題があるものとされている。)この点では、401(k)プランによる自社株式投資枠とも異なっている。また、従業員の資本形成のため、退職給付を前提とし、在職期間中の間の中途処分、換金等を制限している。
  11. ^ 唯一考えられる共通点は、レバレッジドESOPが会社の年金給付債務を担保として、信託が借入によって将来給付資産の先行買付けをすることができることから、信託が借入を行う点であるが、信託借入自体はESOPに限られたものではない。また、ノンレバレッジドESOPは言葉通り信託借入を用いない形態である。このように見ると、ESOPではなく「レバレッジド従業員持株会」と呼ぶのが妥当と考えられる。
  12. ^ 信託管理人は会社によって選任されるため、議決権をパススルーするESOPに比べて透明性に劣る。
  13. ^ 期間中の株価が一定以上上昇し、従業員持株会による加重平均買付価格が信託設定時の株価を上回っていれば、従業員持株会による買付株式数が減少するため、信託期間終了時に株式の残余が生じる。これを会社が受け取ることは、スキーム設定時から自己株式取得を予約していたのと同じことになるため、この残余の株式については信託が市場等で売却した後、この売却代金から信託報酬等を差引いた残余の金銭を、持株会の会員などに福利厚生費として分配するとするものが大半である。但し、会計処理上は資本取引である自己株式処分差額であり、税務上も損金には算入できないものとみられる。
  14. ^ 株式購入資金は信託の借入によるが、通常、株式のみを責任限定財産とするノンリコース借入を行うことはできず、従業員の将来の買付け資金を担保とする借入もできないため、借入には会社の保証が不可欠である。このため、信託は財務的に会社に支配されており、また、信託株式の実質的な所有者は会社であると考えられる。このため、信託株式は会社の自己株式と考えられ、配当金の支払い不能、議決権の消滅が推察されるが、結論については司法判断を待つほかはない。そのため、実際に議決権についての争いがある会社が採用することは、困難であると考えられる。
  15. ^ 例えば、全日本空輸のケースでは、信託による買付開始後から株価が上昇し始め、買付終了までこの前後1年に渡る高値が維持されている。さらに、買付終了直後に公募増資公表・実施し、株価が急落した後に低迷を続けている。このような状況にあっては、会社が決算期末での株価維持や高値での公募増資実施を画策するなど株価形成に何らかの意図を持ってこのようなスキームを導入したと見られかねず、経営陣はあまりに不用意な導入決定であったと株主から指摘されても文句は言えないであろう。このように、このスキームについては、経営陣は痛くもない腹を探られないよう慎重に導入時期を検討すべきであるといえよう。
  16. ^ 米国では、このような情報開示を伴わない連続的な投資勧誘は、証券法上の問題があり違法であるとしている。
  17. ^ 山崎元「山崎元のマネー経済の歩き方-従業員持ち株制度の弊害」DIAMOND ONLINEを参照” (2009年10月26日). 2010年3月17日閲覧。
  18. ^ 従業員持株会制度は、給与天引きによる自社株購入を通例とすることから、従業員の自主的な株式報酬化の選択とみることができる。


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