『ウユーン』
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「イブン・アビー・ウサイビア」の記事における「『ウユーン』」の解説
イブン・アビー・ウサイビアの著作の中では、『ウユーン』と略称される著作が最も重要である。これは400人ほどの医師や科学者の伝記を集めたもので、正式な題名は Uyūn al-anbāʼ fī ṭabaqāt al-aṭibbā ( عيون الأنباء في طبقات الأطباء, littéralement Vies de médecins ou Sources d'informations sur les classes de médecins)という。 伝記が書かれた人物のうち、380人ほどが医師であり、残りはイスラーム科学の科学者(数学、物理、天文学、哲学等)である。イブン・アビー・ウサイビアは本書を1242年にダマスクスで書き上げ、1245年あるいは1246年に出版した。 『ウユーン』は15章に分かれる。1: 医学の起源。2: 最初期の医者。3: ギリシアの医者。4: ヒッポクラテスとその同時代人。5: ガレノスとその同時代人。6: アレクサンドリアの医者。7: 預言者の時代の医者。8: アッバース朝初期のシリアの医者。9: 翻訳者たち。10-15: その他の世界各地(イラク、ペルシア、インド、マグリブとアンダルス、エジプト、シリア)の医者。 『ウユーン』は医学史(médico-historique: history of medicine とはニュアンスが異なる)という新しい学問分野を創造した。『ウユーン』は重要な医師たちの生涯に関する客観的な叙述と書誌情報のみからなり、この点で、対象人物の模範性を強調し顕彰する従来のハギオグラフィックな伝記とは異なる。イブン・アビー・ウサイビアは、学者たちの思想とその著作についてより深く知ること、ただそれだけのために彼らの生涯に関心を持った。『ウユーン』はまた、広範囲にも通時的にも名高い医師たちを対象としており、広い範囲の世界を視野に入れた最初の医学史研究でもある。 『ウユーン』には同時代のシリアとエジプトの医学者にそれぞれ1章ずつ割り当てられているにもかかわらず、研究仲間のイブン・ナフィースについての言及がない。イブン・アビー・ウサイビアとイブン・ナフィースの間に、対抗心か、さらに言えば個人的な敵意のようなものが存在したのかもしれない, 。 ヨーロッパ世界の医者について、このようなアプローチで伝記を書く試みは、ルネサンス期の人文学者(ユマニスト)の登場を待たなければならない。15世紀のジョヴァンニ・トルテッリが著した伝記が同様のアプローチで書かれた、ヨーロッパにおける最初の医学史列伝である。
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