化学物質 化学元素

化学物質

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/14 00:52 UTC 版)

化学元素

天然の硫黄結晶。硫黄は元素状硫黄として、硫化物硫酸塩鉱物として、また硫化水素として天然に存在する。

化学元素chemical element、元素)は特定の種類の原子から構成される化学物質であるため、化学反応によって分解したり、別の元素に変換することはできないが、原子核反応によって別の元素に変換することはできる。これは、ある元素のサンプルに含まれる原子はすべて同じ数の陽子を持つが、中性子の数が異なる同位体である可能性があるためである。

2019年現在、既知の元素は118種類あり、そのうち約80種類は安定元素で、放射性崩壊によって他の元素に変化することはない。元素の中には、複数の化学物質(同素体)で存在するものがある。たとえば、酸素は二原子酸素(O2)としても、オゾン(O3)としても存在する。元素の過半数は金属に分類される。金属は、など、特徴的な光沢を持つ元素である。典型的な金属は電気や熱をよく伝導し、展性延性がある[11]炭素窒素酸素など約14-21種類の元素は非金属に分類される[12]。非金属は前述のような金属的な性質は持たないが、電気陰性度が高く、陰イオンを形成する傾向がある。ケイ素のような特定の元素は、金属に似ていることもあれば、非金属に似ていることもあり、半金属元素(メタロイド)と呼ばれている。

化合物

フェリシアン化カリウムは、カリウム、鉄、炭素、窒素の化合物である。シアン化物陰イオンを含むが、それを放出することはなく、毒性を示さない。

化合物とは、特定の原子イオンの集合から構成される化学物質である。2種類以上の元素が化学反応によって1つの物質に結合したものが化合物である。すべての化合物は物質であるが、すべての物質が化合物というわけではない。

化合物には、原子どうしが結合して分子を形成しているものと、原子、分子、またはイオンが結晶格子を形成した結晶がある。炭素原子と水素原子を主な成分とする化合物を有機化合物といい、それ以外は無機化合物という。炭素と金属の結合を含む化合物は有機金属化合物という。

各原子が電子を共有する化合物は共有結合化合物という。逆電荷を帯びたイオンどうしからなる化合物はイオン化合物またはという。

配位錯体(はいいさくたい)は、共有結合やイオン結合がなくても、配位結合によって物質が結合している化合物である。配位錯体は、単純な混合物とは異なる、明確な性質を持つ物質である。典型的には、銅イオンなどの金属が中心にあり、アンモニア分子の窒素や水中の水分子の酸素のような非金属原子が金属中心に配位結合を形成する(例:硫酸テトラアンミン銅(II)水和物英語版、[Cu(NH3)4]SO4·H2O)。この金属を「金属中心」といい、配位する物質は「配位子」(リガンド)という。しかし、三フッ化ホウ素エーテラート英語版 BF3OEt2 の例に示されるように、中心が金属である必要はなく、ここでは強ルイス酸性であるが、非金属のホウ素中心が「金属」の役割を果たす。配位子が複数の原子で金属中心と結合している場合、その錯体はキレートと呼ばれる。

有機化学では、同じ組成と分子量を持ちつつ、互いに異なる化合物が存在することがある。一般にこれらを異性体という。通常、異性体どうしの化学的性質はほぼ異なり、多くの場合、自発的な相互変換をすることなしに単離することができる。グルコースフルクトースは、よく比較される例で、前者はアルデヒド、後者はケトンである。これらの相互変換には、酵素または酸塩基触媒のいずれかが必要である。

ただし、互変異性体は例外で、異性化は通常の条件下で自発的に起こるため、たとえ純粋な物質を分光学的に同定し、特殊な条件下で単離できたとしても、互変異性体を分離することはできない。一般的な例はグルコースで、グルコースには鎖状体と環状体がある。グルコースは自発的にヘミアセタール体に環化するため、純粋な開鎖型グルコースを製造することはできない。

物質と混合物

クランベリーガラス英語版は均質に見えるが、実際にはガラスと直径約40 nmのコロイド金粒子からなる混合物(mixture)であり、赤色を呈する。

すべての物質はさまざまな元素や化合物から構成されているが、それらはしばしば緊密に混ざり合っている。混合物には複数の化学物質が含まれており、その組成は一定ではない。原理的には、純粋に機械的な処理によって構成物質に分離することができる。バター土壌木材は混合物の一般的な例である。

灰色の金属鉄と黄色の硫黄はどちらも化学元素であり、任意の割合で混合して黄灰色の混合物を作ることができる。このとき化学的な反応は起こらず、磁石を使用して鉄を硫黄から引き離すなどの機械的な処理によって硫黄と鉄を分離できることから、この物質が混合物であると見分けることができる。

一方、鉄と硫黄を一定の割合(硫黄1原子に対して鉄1原子、または重量比で硫黄32グラム(1モル)に対して鉄56グラム(1モル))で一緒に加熱すると化学反応が起こり、化学式 FeS で表される硫化鉄(II)という化合物が新たに生成する。生じた化合物は化学物質のすべての性質を備えており、混合物ではない。硫化鉄(II)は融点溶解度など独自の特性を持っており、2つの元素を通常の機械的な処理で分離することはできない。この化合物中には金属鉄が存在しないため、磁石で鉄を回収することはできない。


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