包丁
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/19 21:25 UTC 版)
構造
洋包丁は、全体が鋼で作られているもの(全鋼)と、鋼(刃物鋼)の両側面を軟鉄で挟んだ割込み(ないし三枚)構造のものが一般的である。和包丁は、軟鉄の地金と鋼を鍛接した二層構造の物が多い。二層構造の包丁は研ぐと地金の部分は白く曇るため「霞」と呼ばれる。一方で、鋼のみで作られた和包丁もある。焼き入れ時に峰側に"土置き”することでマルテンサイト変態を阻害して硬軟差をつけたものが「本焼き」と呼ばれるもので、高級品である。和包丁のなかでも菜切包丁のような両刃のものは洋包丁と同様に「割り込み」構造をもつ。
各部の名称
各部の名称は、日本語の場合、日本刀を始めとする古来の刀のそれとほとんどの部分で共通している、翻って言えば、全て一致するわけではない。
- 刀身(とうしん)
- 柄(ハンドル)でない部分。鋒(きっさき)から区(まち)までの部分。英語でいう "blade"。外来語でいう「ブレード/ブレイド」。【図説1】では「切っ先」から「マチ」までの部分。【図説2】では "Blade" の部分。
- 刃体(はたい)[29]
- 銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)における「刀剣類以外の刃物の刃の長さ」[29]。一般には「刃体長」ともいう。これに対して刀剣類の刃の長さは「刃渡/刃渡り(はわたり)」という[29]。
- 包丁の刃体(刃体長)は、鋒(きっさき)と、鋒に最も近い柄部の一点との水平直線距離である。【図説2】では、Aの一点と、Hがある位置との水平直線距離。この図で示してある "Blade" の幅と結果的に同じ長さになる。
- 刃渡/刃渡り(はわたり)[30][31]
- 銃刀法においては「刀剣類の刃の長さ」。槍を除く刀剣類の「刃長」と、槍の「穂長」との総称。
- 一般には「刃渡り」という語も包丁に対して用いられているが、上記のとおり、銃刀法の下では正しくない。ただし、時代劇や外国など銃刀法の法外で用いる分には「刃渡り」で問題ない。
- 区(まち)のある包丁の刃渡は、鋒(きっさき)と、区がある位置との水平直線距離。区の無い包丁の刃渡は、鋒と顎(あご)がある位置との水平直線距離。
- blade face(ブレードフェース、ブレイドフェイス)
- 刀身の面を意味する英語。
- 鋒/切先/切っ先(きっさき)
- 刃の先端。「鋒」の字義(原義)は「矛の先端」。英語名は "point(ポイント)"、"tip(チップ)"。【図説2】のA。
- 刃先(はさき)
- 出刃包丁の刀身のように反りのある場合は、刃線のうち、鋒(きっさき)から反りが無くなる箇所までの部分をいう。菜切包丁の刀身のように反りの無い場合は、刀身の長さと刃体(刃体長)と刃先の長さはおおよそ等しい。【図説2】のAとBあたり。
- 反り(そり)
- 刃線の中の曲線部。鋒(きっさき)から刃線全体の三分ぐらいまでに位置する場合が多い。【図説2】のB。
- 刃線(はせん)
- 刃の付いた側辺部分。
- 刃道(はみち)
- 刃線と同義。鋒(きっさき)から顎(あご)に至る切れる部分全体の名称。
- 刃中(はちゅう)
- 切断に使う部分。英語でいう "edge"、"cutting edge" 。外来語でいう「エッジ」「カッティングエッジ」。【図説2】のC。
- 刃元(はもと)
- 刃線のうち、柄に近い部分。英語でいう "heel(ヒール)"。【図説2】のD。
- 小刃(こば)、小刃止め
- 刃道際にわずかに付けられる角度の大きい斜辺。より小さく付けられるものを「糸刃」という。切れ味をあまり損なわず永切れする(切れ味が低下しにくいこと)ようにするために付ける。小刃を付けることを「小刃合わせ」「糸刃合わせ」という。
- 顎(あご)
- 柄から刃が出て突き出している部分。西洋刀剣用語では英語名で "choil(チョイル)"。日本語名を意訳した英語名は "chin(チン)"。【図説2】のH。
- 区(まち)
- 柄元と中子/茎(なかご)の境となる段。無い物もある。
- 刃区(はまち)
- 刃の付いた側の区。
- 棟区(むねまち)
- 棟(むね)ともいう峰/背(みね)の側(刃の付いていない側)の区。
- 峰/背(みね)
- 刃体のうち、刃の付いていない側辺の部分。「棟(むね)」ともいう。英語でいう "spine(スパイン)"。【図説2】のE。
- 大棟(おおむね)
- 峰/背(みね)の柄に近い部分。
- 平(ひら)
- 刃体の平面部分。切刃造りの包丁では表の峰から鎬(しのぎ)までの平面部分。英語名は日本語名を意訳した "flat(フラット)"。
- 切刃/切り刃(きりは)
- 切刃造りの包丁における鎬から刃線に至る傾斜した平面部分。
- 鎬筋(しのぎすじ;しのぎ筋)
- 平と切刃の境目の角になる筋。単に「鎬(しのぎ)」ともいう。
- 刃境(はさかい)
- 霞包丁に見られる地金と鋼の境目。日本刀の刃紋と混同されがちであるが、刃紋は土置きという方法によって生じる硬軟差によって現れる紋様であるのに対し、刃境の線は組み合わされた異種鋼の硬軟差によって生じる。本焼きの包丁に見られる紋様は日本刀と同様に土置きによって生じる刃紋である。
- 裏漉き(うらすき)
- 刃の裏側のえぐれ。裏漉きがあると、裏押を作る際に砥石にあたる面積が減るため研ぎやすい。また、裏が平面にならないので食材が貼り付きにくい。
- 裏押/裏押し(うらおし)
- 刃の裏側の、裏漉きの辺縁部分の平面。「刃裏(はうら)」ともいう。裏押を作る作業を指すこともある。
- 中子/茎(なかご)
- 柄の中に納まっている刃の根元部分。英語名は "tang(タング)"、"shank(シャンク)"。茎の裏表に板を張った造りで、柄の全体に茎が通る「本通し(フル・タング)」が強度・耐久性とも最も優れるが、現代の工業量産される包丁でも、相対的に高価な金属部を縮減するため、安価な包丁では背通し、半中子、和包丁に近い挿込型など茎を小さくした構造も多い。
- 中子尻/茎尻(なかごじり)
- 中子/茎の末端。
- finger guard(フィンガーガード)
- blade の基部と bolster の接点付近にあって、指が滑って刃に触れることの無いよう施された部分。【図説2】のGからHまでの部分。
- 桂(かつら)
- 刀における「鎺/鈨(はばき)」に相当する。中子/茎(なかご)を差し込む側の割れを防ぐために取り付けた輪っか(口輪)。英語でいうところの "bolster(ボルスター)"。ステンレス鋼や真鍮など金属製のものを口金(くちがね。英語名 "ferrule〈フェルール〉")、水牛の角で作られたものを角巻(つのまき)と呼ぶ。特注の高級品は銀や真珠貝を使用する場合もある一方、廉価な普及品では合成樹脂やエボナイト製が多く、「PC桂」「プラスチック桂」などと呼ぶ。なお、「桂」は当て字である。【図説2】のF。
- 柄(え)
- 手で握る部分。英語名は "handle"。外来語では「ハンドル」という。刀身と一体構造になっているタイプと、刀身と柄が別構造・別素材になっているタイプとに大別される。後者の場合、内部に中子/茎(なかご)を固定して納めている。分離構造の包丁であれば桂から柄尻までの部分が柄であり、一体構造の包丁でも同様の部分を指す。
- 柄尻(えじり)
- 柄の末端部。英語名は "handle end(ハンドル エンド)"。
- butt(バット)
- 柄の最末端を指す英語。対応する日本語名は確認できない。【図説2】のN。
- handle guard(ハンドルガード)
- 柄の末端部にある滑り防止用のわずかな突起を指す英語。それに由来する外来語「ハンドルガード」は通用しているかも知れない。【図説2】のM。
- 鋲(びょう)
- 中子/茎(なかご)を柄に固定するために打ち込まれる留め具。英語名は "rivet"。外来語では「リベット」。
- ディンプル
- 刃の表面に高さの低い凸面を複数施したもので、切った物が刀身にくっついてしまうのをかなり防ぐことができる。
- 鎚目(つちめ)
- 鍛造時に刃体表面を槌(ハンマー)で叩いた痕。ディンプルと同様の効果を持つ場合もある。21世紀前期前半の市場では見栄えを良くするデザインとしてわざと工作されているものが多くなった。
- 銘(めい)
- 英語名は「署名」を意する "signature(シグネチャー)"。製造責任者名や商標、ロゴタイプ、物品の所持者名など、固有名詞や固有の意匠を主とする特定の情報を刀身もしくは桂に刻む場合があり、それが製造責任者名や商標であれば保証書に等しい役割を果たしている場合がある。物品の所有者が替わり、購入時の情報を所有者側が失ってしまったとしても、銘を手掛かりに製造者や販売者を探し当てることも可能となる。和包丁は刀身に十分な厚さがあるものも多いので、そういったものに日本刀に施すのと同じ技術で銘を刻む。刻めるスペースも広いため、ロゴタイプ、商標、製造責任者名、所有者名などといった多くの情報を全て刻むことも珍しくない。一方、洋包丁の刀身は厚さが足りないため、桂に刻むこととなるが、スペースが無いので数文字しか刻めない。
刃の素材
- 炭素鋼
- 錆びやすく手入れに難があるが、切れ味に優れ、また、研ぎやすいため愛用者は多い。和包丁の素材としては日立金属の刃物用鋼材である安来鋼(白紙、青紙)が有名。「紙」とは、工場で鋼材の判別用に貼ったラベルの色による。
- ステンレス鋼
- 武生特殊鋼材のVG10鋼、日立金属の銀紙鋼など。ステンレスは錆びにくく手入れが簡単なため家庭用で普及した反面、鋼より切れ味が劣るため、業務用には敬遠されてきたが、近年[いつ?]は高性能なステンレス包丁も多い。
- ファインセラミックス
- 主にジルコニア系のファインセラミックスが使用される。錆びない。炭素鋼やステンレスより硬く、長期間切れ味が持続する。一方で、粘りが無いため、落とした時に割れたり欠けたりしやすい、研ぐことが困難、刃先をあまり鋭くできない、といった欠点がある。
柄
材質は、和包丁の場合、朴の木(ほおのき)が一般的であるが、ほかに桜材や紫檀、黒檀などもある。楕円や、利き手に応じて栗の実の形に削られるが、八角断面に成型される場合もある。洋包丁は合成樹脂や強化木製が多く、ローズウッドやマホガニー材のものもある。
桂の有るタイプと無いタイプがある。洋包丁では刀身と柄が一体構造となったものも多い。
鞘
和包丁は木製の鞘を用いる場合がある。鞘に収める場合は、刃を完全に乾燥させてからでないと、中で錆が進行する可能性がある。
注釈
出典
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