便所
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世界の便所
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便器の方式が「こしかけ式」なのか「しゃがみ式」なのかは、国や地域でも異なり(おまけに時代でも異なり)、同一地域でも家庭用なのか公衆用なのかでも異なる。
また便所でのプライバシーをどの程度重視するかは、文化ごとに大きく異なる。完全個室方式 / 半個室方式 / 全く仕切りのない方式(女性でも隣の人が用をたす姿がまる見えの方式) などさまざまである。
米国では公衆トイレを完全に密室にすることは犯罪の温床となると考えられ、強く忌避される。ドアも完全に視線を遮るものではなく、足の部分は外部から見える形式のものが多い。ロシアではソチ五輪の時、選手村のトイレは(女性用も)まったく仕切りのないトイレが設置されており、(ロシア以外の国で)話題となった。世界各国からは、「日本人は排泄をする姿を他人に見られることを極度に嫌うのだが、入浴を見られることに抵抗を感じない(奇妙な)国民である」と言われていて、日本人のトイレに関する感覚が世界の標準ではない。世界各地のトイレの多様性や、プライバシーの扱いについての違いなどについては『世界のしゃがみ方』という本[15] にも解説されている。
用を足した後の肛門の洗浄には便所紙(トイレットペーパー)を用いず水洗する習慣を持つ国もある。そのような便所は、写真のインドやトルコのように、個室内に蛇口があり手桶が用意されているか、水洗の貯水槽に小型のハンドシャワーが取り付けられており、自分で狙いを定め洗浄する。水を用いる地域は気温の高い場所であることが多い。
中国
中国の便所(厠所もしくは洗手間という)でよく連想されるのが俗に「ニーハオトイレ」と呼ばれる仕切り無しの共同便所である。これは公衆便所と勘違いされるが、純粋な公衆便所は少数で、多くは自宅に便所を持たない住民が共用する便所である。大都市部ではやや少なくなってきたが、地方都市や農村などではまだまだ多く見られる形式である。 近年は外国人観光客対策や衛生上の問題などから、個室タイプの水洗式便所が推進されている。
大便器(多くは四角い穴か長い溝のみ)の間は一応仕切り板で仕切られていても、仕切りの高さは1mほどの場合が多い。扉は無い場合が多く、あっても仕切りの高さかそれ以下である。また、その仕切りさえ存在しない完全オープンタイプで、四角い穴や長い溝だけが存在するというものも多く、用便中の姿が他の利用者に丸見えである。
トルコ
「トルコ式」という言葉があることからもわかるように、トルコにおいて大便器は和式便器同様のまたがり式である。ただし日本のものとは異なり、いわゆる金隠しがない。また、一部外国人向けのものを除いて、用を足した後との肛門の洗浄には、便所に備え付けの取手付きの小型のコップ型容器に入った水と左手を用いるため、便所紙(トイレットペーパー)の設置がない。また、便所内には肛門の洗浄及び便器の洗浄に用いる水を供給するために、専用の蛇口とプラスチック製等のコップ型容器が用意されていることが一般的である。
ほとんどの便所は水洗式であるが、一部の便所を除いてフラッシュやタンクなどによる水洗は行わず、肛門を洗浄するためのコップ型容器に水を貯めて便器内に流すことにより便器内の便などを流す。このため排水口の穴や穴の近くに大便を落下させないと、水で流すことが困難になる。また、便所紙(トイレットペーパー)を流すことは出来ないが、トルコ人の多くは紙などで水洗浄後の臀部をふき取ることはしない。これは上達すれば驚くほど少ない水量で洗浄が可能であることによるものであるが、このこともあり個室内に便所紙(トイレットペーパー)などを捨てるためのゴミ箱の設置がないことが多い。外国人などが便所紙(トイレットペーパー)で肛門を拭いた場合は使用後の紙を個室外のゴミ箱に捨てに行くことが必要となる。
肛門を手で洗浄する方法は痔になり難いと言われている。この方式はインドにおいても普及している。肛門を洗う左手は不浄の手と見なされ、食品を扱ったり、握手をしたりすることはない。外国人が宿泊するホテルの客室内の便所は洋式であることが多い。
トルコ人も外国人も宿泊するホテルは客室内の便所は洋式であるが、ロビーなどの便所はトルコ式も併設することが多い。紙で拭くよりも水で洗浄するほうが清潔と考えるトルコ人の中には、客室の便所は専ら小用のみに使用し、大便はロビー等のトルコ式便所を使用することがある。
男性用小便器のほうは、日本や欧米のものと形状はほとんど変わりがないが、設置位置が極めて高いことが多い。背の低い人は背伸びをする必要があるほどで、大きさも少し小さいものが多い。一部の小便器は小児のために低い位置に取り付けらけることもある。これは、高い位置に設置しておくと、利用者が小便器に接近して正確に用を足さないと、自らの衣服を汚す恐れがあるため、結果的に小便器の周辺への小便の垂れなどを防止でき、清掃の回数が減らすことが出来るメリットがある。
トルコにおいては、一般に公衆便所は有料であり、2009年現在のイスタンブールにおける公衆便所使用料金は0.5 - 1トルコリラである。また、地域に限らずジャーミー(camii:モスク)の便所が公衆便所として有料で使用できることが多い。そのため、遠くからでもよく見えるジャーミーのミナレットを目標とすると、多くの場合は付属の公衆便所に到達できる。
これらの便所では、手を拭くための紙が使用後無料で渡されることもある。また、素手で肛門を洗浄することが一般的なために、有料の便所のほぼ全ての手洗い場には石鹸が設置されている。さらにサービスの良い一部の便所ではコロンヤ(kolonya:トルコ式のコロンのこと。レモンの香りのするものが大半で、約80パーセントのアルコールと香料からできており、消毒効果がある。)を手に振りかけてくれる場合もあり、希望した場合のみコロンヤを提供してくれる便所もある。トルコ式便所は、西ヨーロッパでも、田舎等の便所ではよく見られる。
また、エジプト、ヨルダン、モロッコなどアラブ世界や、タイなど東南アジアにおける便所も、上記のトルコの便所とほぼ同様の形態ならびに状況であり、街中の公衆便所は原則として有料である。外国人向けの高級なホテルの内部における便所は、日本の洋式便所とほぼ同様の形態であるが、日本のような温水洗浄便座は高級ホテルにおいてもみられない。
ヨーロッパ
ローマ帝国の滅亡後、インフラが劣化した中世ヨーロッパの都市では、部屋の中の出窓のように拡張された一角で、目隠しのついたてなどした中でおまるを使い、排泄物は、「水!気をつけて」の声を出してから、窓から通りに投げ捨てられた。そのため、路地の汚物で衣裳の裾が汚れないよう、オーバーシューズやハイヒールが発明され、街頭から建物の中に入るのに段差をつけたりといったしきたりが始まったと言われている。
貴族の館、フランスのヴェルサイユ宮殿などでは便所がなく、広大な庭園のバラ園など花壇が用足しの場所であったという。貴族の女性の大きなフレアの広がりのあるスカートは、そのまましゃがんで、他人から見られることなく、用を済ませるための工夫でもあったという。「ちょっと花を摘みに」という女性の、用足しの言い訳(隠語)は、ここから由来している。
こうした不衛生きわまる社会的インフラの不幸な結果が、コレラの大流行である。以後、公衆衛生学の発展と共に、こうした実情は徐々に改善されていった。
ヨーロッパでは、幾多の戦乱による被災を免れた築2〜3百年の建物(もっと古いものも多い)が現役として使われているが、便所が各家庭に普及したのはほんの百年ぐらい前なので、古い建物の便所は階段の下や物置の一角などの隙間に設置され狭苦しく感じるものも多い。
スウェーデン
スウェーデンでは、いわゆるジェンダー問題への対応などもあり(各国のジェンダー・ギャップ指数の調査では常に3 - 5位前後のトップグループを保っている)、2010年ごろから公共施設のトイレを男女共用の個室に一本化する改装が進められている[16]。
アメリカ合衆国
男子小便器は床置き型はほとんどなく、壁掛け型が大多数である。大便器は、個室の扉が小さく、膝のあたりまでしかないため、足元は完全に外から見える。洗面台には必ずと言っていいほどペーパータオルが備えられている。その反面、ハンドドライヤーは従来はあまり普及しておらず、備えられている所でも自ら手でボタン(大きいのでひじで押せるものが一般)を押して作動させる所がほとんどである。大規模な便所や公衆便所でも外側出入口に扉がある事が多い。そして、出入口外側には冷水機が備えられている所が非常に多い。日本以外の他国と同様、温水洗浄便座は高級ホテルですら見られない。
インド
インドに多くの信者を有するヒンドゥー教の思想の一つには、排泄物は不浄であり住居から離さなければならないというものがある。このため農村部には便所そのものが無い家が多く、2015年の国際連合児童基金の調査によれば、人口約13億人のうち、5億2,300万人が屋外排泄しているものと推計している[17]。インドのナレンドラ・モディ首相は、2019年までに約1億2,000万世帯へ便所を新設することを目指す「きれいなインド」キャンペーンを行っている[18]。このように屋外で排泄された糞尿や河川や井戸水を汚染し、乳幼児の病死など深刻な被害をもたらしている[19]。
日本
日本の便所は大きく分けて3つに分類される。そのうち最も古くからあるものはしゃがんで用を足すもので、和式(わしき)と呼ばれる。第二次世界大戦後には西ヨーロッパから座って用を足す便器(洋式(ようしき)と呼ばれている)や男性用小便器が輸入され、一般的になった。
また、これらの便器には、それぞれ水が流れるタイプと流れないタイプがあり、大便器に関しては便器に水が流れるものは水洗式便所、流れないものは落下式便所(ボットン便所)と呼ばれる。
なお、便器(トイレ)にはJIS規格によりその大きさ(長さ、深さ、幅など)が定められているが、かなり前に制定された大きさであるため現在の日本人の体格からして以下に示すような問題がある。なお、和式便器はJISの規格から既に外れている。
- 洋式便器:JISの標準サイズでは、長さが短く、陰茎の大きい男性が使うと陰茎が便器に触れ(先割れ便座の場合や丸便座の場合便座に陰茎が当たる)、非常に不衛生で性病などの感染症に感染する危険がある。そのため、現在は標準サイズより4cm程便座が大きい、エロンゲートサイズがほとんどとなっている。
- 和式便器:長さが短く、性器が金隠しに当たらないようにしゃがむと糞が便器の後ろあるいは便器の縁に落ちてしまう。また金隠しの高さが低すぎるため女性が使用すると尿が金隠しに当たることがある。長さを標準サイズよりも5cm程度長くしたエロンゲートサイズもあり、鉄道車両では昔から度々設置されてきた(国鉄分割民営化以降は、新幹線や特急車両へは洋式トイレ設置が圧倒的に多くなり、一般車両においても2000年台後半からは洋式トイレの設置がほとんどとなっている)が、そもそも和式便器そのものが減少しつつあるためあまり見かけられない。
- 男性用小便器:近寄らないと外に漏れる事が有る、漏れると次の人が遠くから小便をする、さらに漏れやすくなるの悪循環が有る。
言語社会学の鈴木孝夫『鈴木孝夫の曼荼羅的世界 言語生態学への歴程』冨山房インターナショナル のビートたけしとの対談によれば、「日本人は一つのことをやる時に、時間が多層的であり、また感覚も多層的なんです」「便所に花を飾る発想があるのは日本だけですよ」と指摘している。
アフリカの途上国
下水道の整備がままならない途上国では、都市部でも素掘りの落下式便所を共同利用する形態が一般的である[20]。スラムなど極端な地域では、汚物を袋に入れて屋外に投げ飛ばすフライング・トイレットが行われている。いずれにせよ雨期には汚物が溢れ、衛生状態が悪化する問題に直面する[21][22]。
注釈
出典
- ^ ブリタニカ国際大百科事典、大項目事典。「便所」
- ^ 直接の意味は「洗う場所」。語源はラテン語の動詞「lavare 洗う」から派生した「lavatorium 洗うための場所」。そのままの意味で中期英語にlavatoryとして導入され、そのまま文字通りの意味で使われていたのだが、19世紀になって便所を指すために用いられるようになった。21世期になっても継続して人類はトイレを使用している。[1]
- ^ a b 山海敏弘「建築物における節水化技術の効用」 (PDF) 環境省
- ^ 世界大百科事典 第二版
- ^ a b c d 高橋邦夫、酒井 彰、保坂公人、高村 哲「6.エコサン・トイレの便益評価への方向性 バングラデシュ農村地域におけるエコサン・トイレの導入効果と便益評価」 (PDF) JCA-NET
- ^ a b c 大浜 庄司『完全図解 空調・給排水衛生設備の基礎知識早わかり』2014年、98頁
- ^ a b c 大浜 庄司『完全図解 空調・給排水衛生設備の基礎知識早わかり』2014年、125頁
- ^ 大浜 庄司『完全図解 空調・給排水衛生設備の基礎知識早わかり』2014年、127頁
- ^ TOTOホームページ「TOTOきっず」 「女の人も立っておしっこ?男女兼用の小便器“サニスタンド”」
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o 日本環境整備教育センター「浄化槽読本 変化する時代の生活排水処理の切り札」 (PDF) 日本環境整備教育センター
- ^ a b 日本トイレ協会「途上国のトイレ・環境改善支援事例集第2集」 (PDF) JICA-Net
- ^ a b 日本トイレ協会「途上国のトイレ・環境改善支援事例集第2集」 (PDF) JICA-Net
- ^ ベトナム国浄化槽維持・管理技術の導入による生活排水処理水準の向上に向けた案件化調査業務完了報告書 (PDF) 独立行政法人国際協力機構
- ^ “油脂の塊「ファットバーグ」がロンドンの下水管をつまらせる”. GIZMODE (2017年10月1日). 2021年5月2日閲覧。
- ^ ヨコタ村上孝之著『世界のしゃがみ方』平凡社新書、2015、ISBN 978-4582857887
- ^ 森山茜 (2017年8月31日). “スウェーデン、ストックホルム ── 男女共用を可能にする国民性”. LIXILビジネス情報. LIXIL. 2021年7月20日閲覧。
- ^ 女性に危険が迫る「インドのトイレ事情」「ハフィントンポスト」2021年10月12日閲覧
- ^ 「家から離せ」ヒンドゥーの教え トイレが遠いインド 朝日新聞(2017年11月27日)2017年12月3日閲覧
- ^ 【特派員発】インド・ガダワリ村 森浩/7%経済成長の裏 5億人が屋外排泄/トイレ設置進むも ヒンズー教壁高く『産経新聞』朝刊2018年7月6日(国際面)2018年9月26日閲覧。
- ^ “トイレ先進国・日本 23億の“トイレ難民”救え!”. 読売新聞 (2018年10月31日). 2018年12月29日閲覧。
- ^ “途上国が抱えるトイレ不足・非衛生的トイレという問題~ハード面からの解決案~”. ATONE (2014年2月10日). 2018年12月29日閲覧。
- ^ “劣悪トイレ事情の改善に挑む ケニアで進めるリクシルの“水なしトイレ””. ダイヤモンドオンライン (2013年7月5日). 2018年12月29日閲覧。
- ^ 「京都交通 長距離路線バスのトイレ付車両を増備」『バスラマ・インターナショナル』No. 2、ぽると出版、1990年10月、pp. 90、ISBN 4-938677-02-4。
- ^ “変わる高速バストイレ事情 「なし車」から「付き車」への動き 着替えられる広いトイレ”. 乗りものニュース. メディア・ヴァーグ (2020年3月7日). 2022年4月9日閲覧。
- ^ “宇宙情報センター / SPACE INFORMATION CENTER :トイレ”. 宇宙情報センター / SPACE INFORMATION CENTER. JAXA. 2020年7月2日閲覧。
- ^ “宇宙ではどうやってお風呂やトイレに入るのですか?”. ファン!ファン!JAXA!. JAXA. 2020年7月2日閲覧。
- ^ 日本語大切に!便所→トイレの呼称変更に荒川区議会紛糾?(アーカイブ) - zakzak記事。2018年5月20日閲覧。
- ^ 神戸市:神戸市 : 震災資料室 災害時の便所機能の確保[リンク切れ]
- ^ 災害トイレ情報ネットワーク NPO法人日本トイレ研究所 Japan Toilet Labo.
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