老子化胡経とは? わかりやすく解説

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ろうしけこきょう 【老子化胡経】

中国で、後漢末から三国時代にかけて仏教広く民間流布し始めると、道教の人たちは仏教下位置こうとして、老子仏教教えたとする偽経作ったその偽経西晋代の作)。これに対して仏教側も老子釈迦弟子であるとする偽経老子大権菩薩経』を作って対抗した。六六八総章一)年、唐の高宗宮中両者対決させたところ、道教側が負けたので、『老子化胡経』は焼棄を命ぜられた。今はペリオ敦煌から発見の残巻があるのみ。→ 禁書

老子化胡経

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/03 13:33 UTC 版)

老子化胡経』(ろうしかこきょう、ろうしけこきょう)は、魏晋南北朝時代中国の書物。老子インド胡人教化仏教を創始したとする「老子化胡説中国語版」を代表する書物。

中国土着宗教である道教と外来宗教である仏教の対立により、道教側から生まれたのが『老子化胡経』で、仏教側からは「偽経」とされてきた。

最初に『老子化胡経』が撰述されたのは西暦300年ごろ[1]西晋で、撰者は道士王浮とされる。のち徐々に増補された[2]

大正蔵第54巻[3]外教部)に第1巻および第10巻が収められている[4]。『老子化胡経』は唐代元代に禁書・焚書とされ残存していないと思われていたが、これは1908年ポール・ペリオによってパリにもたらされた敦煌文献中の残簡である[5]

歴史

道仏二教は絶えず争いつつ、因果錯綜の間にそれぞれ発達したとされている[6]

仏教が中国に伝来した時期は諸説あって定まっていないが、有力なものとして西暦270年ごろ撰述の『魏略』西戎伝、臨兒国条の記事(『魏志』巻30所引)[7]を根拠とする道教研究者である窪徳忠の、紀元前後説が有力とされる[8][9]。一つの教義体系として整理することが不可能とされる道教の方は、中国の土着信仰から発展したが故に教義などが複雑で多岐にわたり、どうにか把握が可能と見做される部分は、伝来した仏教の普及との葛藤から推移した相状の一面と見なされる[10]

老子は、古来謎とされる人物であり、紀元前90年ごろ成立の『史記』「老子伝[11]」の記述が甚だしく不明瞭であることが後人の憶説を縦ならしめた一端であり、化胡説生成の間接の助縁となったとされている[12]。『史記』には、老子が去ってのちその終わる所なし、とのみ記述されている。西暦270年ごろ成立の『魏略』には化胡説が現れており[13]、老子が胡人に仏教を教えたとされている。

また西暦445年ごろ成立の范曄後漢書』「郎顗(ろうぎ)襄楷(じょうかい)列傳」中には、老子が釈迦になったのだという、襄楷の奏上が記されている [14]。 『魏略』は現存史料のなかで老子化胡説を記す最古の資料であり、『後漢書』がこれに次ぐものとされている[15][16]

この流れの中で西暦300年ごろ、『老子化胡経』が撰述された。撰者は道士王浮とされている。王浮の詳細は不明であるが、梁慧皎撰『高僧伝』「帛遠伝」中に王浮について記載がある[17]。またほぼ同じ記事が僧祐『出三蔵記集』にある[18]。 柴田宣勝は高麗版と対校した宋・元・明版3本には『出三藏記集帛遠傳』の記述がないことから、『高僧伝』を王浮偽作説初出とし、高麗版が逆に加筆したと推定している[19]

王懸河修『三洞珠囊中国語版』巻9(西暦680年ごろ)の「老子化西胡品」に鬼谷先生撰『文始先生无上真人關令内傳』と『老子化胡經』が収録されている[20]。この品の結句に「化胡經乃有二卷,不同。今會其異同,録此文出也。」とあるので、この2編はいずれも『老子化胡経』のテキストであり、吉岡義豊は、この時代に雑多にあった『老子化胡経』の中から王懸河が選び収録したものと推定している。さらにこの2編のテキストを比較分析し、共通する部分は初期のものが伝承されている可能性を示唆している[21]

脚注

  1. ^ 以下、この記事の資料の成立年代は、吉岡義豊『老子化胡経の原初形態について』智山学報 1974年 23.24巻 p.379-410 pdf p.398-399 に掲載された<老子化胡思想関係資料略年表>を適用する。
  2. ^ 老子化胡経』 - コトバンク
  3. ^ SATデータベース(No. 2139) in Vol. 54
  4. ^ これらはそれぞれ別の経題で、前者は『老子西昇化胡経』、後者は『老子化胡経玄○』と題されている。
  5. ^ 平井俊榮『高僧伝の注釈的研究(5)』駒澤大学仏教学部研究紀要53 1995.03 p.350-333 pdf p.335
  6. ^ 真宗大谷派の学僧である常盤大定による『漢明求法説の研究』東洋学報 10巻 1号 p.1-49 1920-05 pdf p.1-2
  7. ^ 「昔、漢 哀帝元寿元年(BC2)、博士弟子(はくしていし)景盧が大月氏王の使者の伊存から浮屠(ブッダの音写)経を口受(授の誤写説あり)された。」(昔漢哀帝元壽元年,博士弟子景盧受大月氏王使伊存口受浮屠經)『魏略』西戎伝、臨兒国条
  8. ^ 『中国における仏教と道教』駒澤大学佛教学部論集 17 236-, 1986-10 |pdf p.236
  9. ^ 定方晟『月氏の伊存について』印度學佛教學研究 1982年 31巻 1号 p. 25-30 pdf
  10. ^ 吉岡義豊『初唐における佛道論爭の一資料-道教義樞の成立について-』印度學佛教學研究 1956年 4巻 1号 p.58-66 pdf P.65上
  11. ^ 老子、道徳を修む。其の学は自ずから隠れて名無きを務めと為す。周に居ること之を久しくして、周の衰を見、乃ち遂に去る。に至りて、関令の尹喜曰く、「子将に隠れんとす。彊て我が為に書を著せ」是に於いて老子廼ち書上下篇を著し、道徳の意五千余言を言て去る。其の終る所知る莫し。(老子韓非列傳第三:老子修道德,其學以自隱無名為務。居周久之,見周之衰,乃遂去。至關,關令尹喜曰:「子將隱矣,彊為我著書」於是老子廼著書上下篇,言道德之意五千餘言而去,莫知其所終。)
  12. ^ 名畑應順*『老子化胡説の由来』佛教研究5巻 3-4号 p.117 - 133 1924年 pdf p.119
  13. ^ 次のように述べられている。「浮屠の載する所、中国の老子経と相い出入す。蓋し以為く『老子西のかた関を出で、西域を過ぎて天竺に之き胡に教う』と」(浮屠所載與中国老子経相出入。蓋以為老子西出関過西域之天竺教胡)『魏略』「西戎伝」、臨兒國(ルンビニ)の条。
  14. ^ 「或いは曰く、『老子夷狄に入りて、浮屠と為る』と」(襄楷上書曰の条:或言老子入夷狄為浮屠)
  15. ^ 重松俊章『魏略の佛傳に關する二三の問題と老子化胡説の由來』 史淵 18巻 p.1-25 1938-04-30 九州帝国大学法文学部 pdf p.17-18
  16. ^ 中国語版ウィキソースに本記事に関連した原文があります:後漢書/卷30下
  17. ^ 高僧傳卷第一 梁會稽嘉祥寺沙門釋慧皎撰 帛遠傳「後少時有一人。姓李名通。死而更蘇云。見祖法師在閻羅王處爲王講首楞嚴經云。講竟應往忉利天。又見祭酒王浮。一云道士基公次被鎖械。求祖懺悔。昔祖平素之日與浮毎爭邪正。浮屡屈既瞋不自忍。乃作老子化胡經。以誣謗佛法。殃有所歸故死方思悔。孫綽道賢論以法祖匹嵇康。」(T2059_.50.0327b16 - b23)
  18. ^ 出三藏記集傳下卷第十五 梁建初寺沙門釋僧祐撰 法祖(帛遠)法師傳第一「後少時有一人。姓李名通死而更蘇云。見祖法師在閻羅王處爲王講首楞嚴經 画像云。講竟應往忉利天。又見祭酒王浮。一云道士基公。次被鎖械。求祖懺悔。昔祖平素之日。與浮毎爭邪正。浮屡屈。既意不自忍。乃作老子化胡經以誣謗佛法。殃有所歸。故死方思悔孫綽道賢論。以法祖疋稽康。」(T2145_.55.0107b29 w- c06)
  19. ^ 平井俊榮『高僧伝の注釈的研究(5)』駒澤大学仏教学部研究紀要53 1995.03 p.350-333 pdf p.339
  20. ^ Webサイト『中國哲學書電子化計劃』[1]
  21. ^ 吉岡義豊『老子化胡経の原初形態について(梶芳光運博士古稀記念論文集 佛教と哲学)』智山学報1974年 23.24巻 p.379-410 [ https://doi.org/10.18963/chisangakuho.23.24.0_379 pdf]


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