売買
『ウィッティントンと猫』(イギリス昔話) 猫が存在しないため鼠の害に悩むムーア人の国を、イギリス船が訪れる。船にはウィッティントンの飼い猫が1匹乗っており、非常な高値で売れる。貧しかったウィッティントンは大金を得て紳士となり、後に3度ロンドン市長になる。
『火焔太鼓』(落語) 道具屋の男が1分(いちぶ)で仕入れてきた古い火焔太鼓が、思いがけず大名家に3百両で売れる。気を良くした男が「音の出るものは儲かるから、今度は半鐘を仕入れよう」と言うと、女房が反対する。「半鐘? いけないよ。おじゃんになる」。
『今昔物語集』巻26-16 鎮西貞重の従者が、上京の折、淀で玉を水干1領の価で買った。博多へ戻ってから唐人に玉を見せると、唐人は驚き、貞重が質に入れた太刀10本と引き換えに、強引に玉を請い取った〔*『宇治拾遺物語』巻14-6に類話〕。
『太平広記』巻403所引『原化記』 魏生という男が、岸辺で拾った掌大の石をたわむれに胡人らに見せると、胡人らは驚き「この宝を売ってくれ」と請う。魏生が大言したつもりで「百万」と言うと、胡人らは「宝を軽んずるか」と怒って千万で買い取り、「これは宝母というものだ」と教えた〔*『長安の春』(石田幹之助)が、この種の説話を胡人買宝譚と名づけ、類話を多く載せている〕。
『清兵衛と瓢箪』(志賀直哉) 瓢箪好きの小学生・清兵衛が、形の良い瓢箪を町で見つけ、10銭で買う。清兵衛は瓢箪を学校へ持ち込んで、修身の授業中に机の下で磨く。教員がそれを見つけ、怒って瓢箪を取り上げる。教員は瓢箪を、学校の老小使に与える。2ヵ月ほどして小使が瓢箪を骨董屋へ売りに行くと、50円の高値で売れた。それは4ヵ月分の給料に相当したので、小使は喜んだ。しかし後に骨董屋は、瓢箪を地方の豪家に6百円で売りつけた。
『門』(夏目漱石)6・9 宗助夫婦は、父親の記念(かたみ)である抱一(ほういつ)の屏風を、金に換えようと考える。古道具屋は最初6円の値をつけるが、2人が売らずにいると、何度かやって来てしだいに値をつりあげ、とうとう屏風は35円で売れた。後に宗助は、家主の坂井の家を訪れ、坂井がその屏風を古道具屋から80円で買ったことを知った。
『丹下左膳餘話・百萬両の壺』(山中貞雄) 柳生源三郎の持つ「こけ猿の壺」には、百萬両のありかを記した絵図面が塗り込められていた。そうとは知らず源三郎の妻は、壺を屑屋に10文で売る。屑屋はそれを、長屋の少年安(やす)に、金魚を飼う壺として与える。安は孤児なので、丹下左膳とその愛人お藤が世話をしている。源三郎は、壺を捜して江戸の町を毎日歩き回るうち、お藤の営む射的場で働く娘と仲良くなる。やがて源三郎は、射的場にある壺が「こけ猿の壺」だと知るが、壺を得てしまえば外出する口実がなくなるので、妻には内緒にして、「これからも壺を捜す名目で、射的場の娘に逢いに来よう」と考える。
*アラジンの妻は、魔法のランプを、それとは知らずに普通のランプと交換してしまう→〔妻〕2の『千一夜物語』「アラジンと魔法のランプの物語」マルドリュス版第765~766夜。
★3a.安茶碗を高価なものと早合点したことがきっかけで、本当に高価な茶碗になる。
『はてなの茶碗』(落語) 骨董屋・茶金が、茶店で手にした茶碗をながめて「はてな」と首をかしげる。これを見た男が、「由緒ある茶碗だろう」と早合点し、その茶碗を茶店から買い取って茶金のもとへ売りに行く。茶金は「あれはヒビもないのに水が漏るので不思議だったから」と訳を話しつつ、男を気の毒に思い3両を渡す。茶金が関白鷹司公にこの話をすると、帝の耳に入り、帝が「面白き茶碗である」と仰せられて、茶碗の箱に万葉仮名で「はてな」と記す。これでただの安茶碗が大変な値打ち物になり、鴻池善右衛門が千両で買い取った。
★3b.無価値なものを高価なもののように思わせ、金をだまし取る。
『豚の教え』(O・ヘンリー) 詐欺師ジェフは田舎者テイタムを新しい相棒として、一儲けするために西部へ行く。ところがテイタムには豚を盗む奇癖があり、ある夜、彼は汚い子豚をどこからか盗んで来る。翌朝ジェフは、「サーカスの学者豚が盗まれた。豚が戻れば賞金5千ドル」との新聞広告を見る。ジェフは賞金5千ドルの独り占めをたくらみ、テイタムに8百ドルを渡して豚を譲り受ける。しかし新聞広告は、まったくのデタラメだった。テイタムは嘘の広告を出してジェフをだまし、8百ドルを得て姿をくらましたのだった。
*架空の3百万円を当てにして、80万円を失う→〔結婚〕8の『支払いすぎた縁談』(松本清張)。
*手付金10両にだまされて、40両を失う→〔共謀〕2の『ぐるでだます』(昔話)。
『今昔物語集』巻16-37 生侍(なまさぶらひ)が、何もすることがないままに、清水寺への千度詣でを2度行なった。その後しばらくして生侍は、双六の勝負をしてさんざんに負けた。彼は支払うべきものを持たなかったので、双六の相手に、2千度詣での功徳を譲る。生侍はまもなく思いがけぬ不幸にみまわれ、相手の男は運が開け富貴の身となった〔*『宇治拾遺物語』巻6-4に類話〕。
『沙石集』巻9-23 南都の某寺の僧は耳たぶが厚く、いわゆる福耳だった。貧乏な僧が「その耳を買おう」と言って、福耳の僧に5百文を渡した。人相見に占ってもらうと、貧乏な僧は福耳を買ったために、来年の春頃から福運が巡って来るだろう、と言われた。一方、耳を売った僧は、その後ずっと不遇だった。
『死せる魂』(ゴーゴリ) 農奴が死んだ場合、数年ごとに行われる戸籍調査の時期までは、生前と同様に地主は人頭税を払い続けねばならない。詐欺師チチコフがこれに目をつけ、地主たちには不要な、死んだ農奴の戸籍を買い集める。彼は、大勢の農奴を所有しているように見せかけ、それを担保にして、国家から大金を借りようとしたのだった。
『戦国策』第29「燕(1)」453 王が千金で千里の馬を求める。臣下が捜しに出かけるが、千里の馬が死んでいたので、その首を5百金で買って来る。王が怒ると、臣下は「死馬でさえ5百金で買うのだから、世間の人は競って王様に馬を売りに来るでしょう」と言う。果たして、1年もせぬうちに千里の馬が何頭も手に入った。
『幽霊はここにいる』(安部公房) 詐欺師が、死者の生前の写真を買い集める。その用途は、「死んで幽霊になると過去を忘れるので、写真をもとに、幽霊たちに帰るべき家を教える」というものだった。それを知った死者の遺族たちは、幽霊に帰って来られては困るので、写真を高い値段で買い戻す。詐欺師は大儲けする。
★6.だんだん安くなる物。
『瓶の小鬼』(スティーヴンソン) 何でも願いを叶えてくれる小鬼の入った瓶は、買った時よりも安い値段で誰かに転売しないと、持ち主は死後地獄に堕ちる。瓶を持つケアーウェとコクーアの夫婦は互いに相手を救うべく、ひそかに人を雇って瓶を安く買い取らせ、それを自分がさらに安く買う。しかし最後に、2サンチームで瓶を買った酔っぱらいが転売を拒否して持ち去り、夫婦は地獄堕ちを免れる。
★7.無意味な売買。
『花見酒』(落語) 酒好きの2人が、花見客に酒を売って稼ごうと、酒樽を担って出かける。途中で1人が酒の匂いに我慢できず、つり銭用に持って来た銭1貫を相棒に払って1杯飲む。相棒も飲みたくなり、今受け取った1貫を払って1杯飲む。2人は交互に1貫をやったり取ったりしながら酒を飲み尽くし、酒が全部売れたのに売上金が1貫しかないことに驚く。
★8a.いかさまの売買。いったん買った商品をすぐ別の商品に買い換え、売り手を混乱させて、目的の商品を正価の半額で手に入れる。
『壺算』(落語) 客が瀬戸物屋から3円の壺を買って行くが、すぐ引き返して来て、6円の大きな壺に買い換える。「先ほど3円払った。今この3円の壺を返す。あわせて6円だ」と言って、6円の大きな壺を持って行く。瀬戸物屋は「どうも計算があいません」と首をかしげる。客は「それがこちらの思う壺だ」と言う。
『ドラえもん』(藤子・F・不二雄)「世の中うそだらけ」 のび太が、百円のアイスクリームと50円のアイスクリームを持っている。ジャイアンが50円のアイスをのび太から買うが、「やはり百円のにする」と言い、「はじめに50円払った。今50円のアイスを返す。合わせて百円分渡した」と説明して、百円のアイスを持って行く。
★8b.上記と同様の方法を用い、商品を半額ではなく、無料で手に入れる。
『ナスレッディン・ホジャ物語』「ホジャ奇行談」 ホジャが市場で下袴を買おうとして考え直し、「下袴はやめて、代わりに法衣を買おう」と言い、下袴を店の主人に返す。主人が法衣をホジャに渡して、代金を請求すると、ホジャは「法衣の代わりに下袴を返したじゃないか」と言う。主人が「それなら下袴の代金を」と言うと、ホジャは「買いもせぬ下袴の代金を払えと言うのか」と怒る。
『ぺてん師と空気男』(江戸川乱歩)9「ジョークと犯罪」 男がバーで煙草を注文し、匂いを嗅いで「気に入らない」と言って返し、代わりに同額のブランディを飲む。バーテンが代金を請求すると、男は「煙草を返して、代わりにブランディを貰った」と言う。バーテンが「では煙草の代金を」と言うと、男は「煙草は返した。買いもしない物の代金は払えぬ」と答える〔*ぺてん師伊東が、「ポオの著作から」と言って語る物語〕。
『知恵のある人たち』(グリム)KHM104 牛買いが百姓のおかみさんから、牝牛3頭を2百ターレルで買う。牛買いは「代金は後で届ける」と言って、牛を連れて行こうとするが、おかみさんは承知しない。そこで牛買いは「代金を届けるまで、3頭のうちの1頭をここに抵当として預けておこう」と提案する。おかみさんは納得し、牛買いは牛2頭を引いて去って行く。
『日本永代蔵』巻2-1「世界の借家(かしや)大将」 藤市(ふぢいち。=藤屋市兵衛)は合理主義にもとづく倹約によって、一代で大金持ちになった。夏になると村人が、初茄子を「1つで2文、2つだと3文」と値段をつけて、売りに来る。誰もが2つ買うのに、藤市だけは1つを2文で買って、「あとの1文で、盛りの時には大きな茄子が買える」と言った。
*虫歯1本で2文、2本だと3文→〔歯〕7の『沙石集』巻8-5。
『スーフィーの物語』22「誓い」 男が「悩み事が解決したら家を売り、それで得た金を貧しい人に与えよう」と誓った。やがて悩み事は解決し、男は誓いを実行せねばならなくなる。男は家に猫1匹をつけて分売不可とし、家は銀貨1枚、猫は銀貨1万枚と、価格設定をする。ある人が家と猫を買い、男は銀貨1万と1枚を得る。男は、猫の代金(銀貨1万枚)を自分のものにし、家の代金(銀貨1枚)を乞食に与えた。
『東海道中膝栗毛』(十返舎一九)4編下「岡崎」 餅屋が「名物のさとう餅、3文。うづらやき(=焼き餅)、3文」と売り声をあげる。喜多八が「うづらやきの3文は高いから、2文にまけろ。その代わり、さとう餅を4文で買ってやる」と言う。どちらにしても合計6文だから、餅屋は承知する。喜多八は煙草入れから2文取り出し、「さとう餅も買おうと思ったが、銭がない」と言って、うづらやきを2文で買って行く。
『千両みかん』(落語) 商家の若旦那が病気になり、夏の盛りに「みかんが食べたい」と言う。主人の命令で番頭が町中を捜し、みかん1つを千両で買って来る。若旦那は10袋のうちの7袋を食べて元気になり、残り3袋を「父母と番頭に」と言って渡す。番頭は「3袋で3百両。一生働いてもこんな大金は得られない」と考え、みかん3袋を持って姿をくらます。
売買と同じ種類の言葉
品詞の分類
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