作曲姿勢と制作エピソード
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/16 02:12 UTC 版)
「映画音楽は映像・作劇に溶け込むことで、初めて効果を生み出せるもの」という信念に立ち、自分の音楽がいかに映画に貢献できるかということに徹底してこだわり続けた。そのため、画に合わせるために自曲をカットすることにも何ら躊躇はなく、しかし一方では「劇伴」という映画音楽を意味する業界用語に関しては「戦前から連なる映画音楽に対する差別用語」として激しく嫌悪し続け、「俺は劇の伴奏なんか一度たりとも書いたことはない!」、「劇伴なんて言葉を使う監督とは組みたくない」といった発言を多く残している。 映画音楽のサウンドトラック・アルバムが見直された1970年代後半になると、自作サントラを組曲に編曲したものをレコード用に書き下ろすことも多くなり、その代表が『あゝ野麦峠』『皇帝のいない八月 ~DER KAISER IST NICHT AM AUGUST~』である。これはレコードを通して映画や映画音楽に興味を持ってもらえたらという、自身の願いをこめたものでもあった。 黒澤明とは、『生きものの記録』の仕上げを担当したことを契機に、以後『赤ひげ』までコンビを組む。『蜘蛛巣城』では能楽を勉強してその要素を取り入れ、『隠し砦の三悪人』では軽快なマーチ「六郎太のテーマ」を作曲した。黒澤作品の音楽で最もよく知られる「ドーン、ドーン」という打楽器の音は、元々佐藤が作ったものであるが、『影武者』の池辺晋一郎、『乱』の武満徹がティンパニのみで表現したのに対し、佐藤のそれは和太鼓を交えるものであり、作品世界に奥行きを与えるものに仕上がっている。黒澤とは『影武者』のとき決裂したが、理由は黒澤の要望が「グリーグのペールギュントそっくりに作ってくれ」というものであり「いかに天才でも名曲そっくりで、それを超える作品は作れない」と断ったために起きた軋轢だった。 特撮作品も手がけており、中でも『日本沈没』はその「滅亡と復活」をテーマにしたサントラが知られている。本編に流れるのはジャズ・シンフォニーを基調にしたものであるが、その用法においては東京壊滅のシーンに「復活のテーマ」をぶつけるなど、従来の常識とは異なった曲付けをしている。 戦争映画では東宝の8・15シリーズを手がけているが、『沖縄決戦』では離島の集団自決シーンにわざと明るい音楽をあてて、曲の基本は沖縄古来の琉球音階に置くものの、三線など沖縄固有の楽器は用いず、オーケストラで演奏した。佐藤の戦争作品でもっとも有名で人気があるのは『日本海大海戦』の「日本海マーチ」であり、金管楽器と木管楽器が織り成す軽快な行進曲に男女混声合唱が加わるこの曲は、戦争音楽の傑作として知られている。 ゴジラシリーズでは、ゴジラを擬人化してその行動や感情を表現するという手法をとっていたが、佐藤自身は快調にはならなかったと評している。尊敬する伊福部に続き『ゴジラの逆襲』を担当できたことに感動したというが、その後のシリーズで佐藤調を確立することはできなかったと述懐している。 日本アカデミー賞の音楽部門は何度も受賞しており、中でも第1回の『幸福の黄色いハンカチ』は、叙情たっぷりに夫婦の愛を歌い上げる「勇作と光枝のテーマ」、ロードムービーにふさわしい軽快でリズミカルなサントラは佐藤の楽曲の代表といえる。 作曲手法については、まず脚本を読み、優れた脚本であれば、行間からすらすらと曲が聞こえてきて、悪い脚本だと何も聞こえず困ってしまったという。ラッシュは「何度も見ると印象が薄くなる」という理由で、1度だけ見て、そのときの印象を大切にして曲想を練り、監督との打ち合わせに臨んだという。基本的にジャズが曲調の基礎にあったが、その枠にとらわれず、ときにはシンセサイザーを使うなど革新的な一面もあった。予算が許す場合は大編成のシンフォニー風でまとめることも少なくなく、そのひとつ『皇帝のいない八月 ~DER KAISER IST NICHT AM AUGUST~』のプログラムでは、自分の育ったような地方都市では映画館がオーケストラ音楽に触れる貴重な場であったと記し、下記のコンサート活動にも通じる思いを語っている。 佐藤と組んだ監督の岡本喜八や福田純らは、佐藤の音楽について自身らの演出プランからは予想外のいい意味で思いがけないことが起こると語っていたという。 映画音楽専門の作曲家として、生涯に300を超える作品に携わったが、映画を通して管弦楽の響きに親しんで欲しいという思いもあり、郷里の留萌市をはじめ各地で映画音楽を中心としたコンサートを幾度も開いた。
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