糖尿病性神経障害 糖尿病性筋萎縮症

糖尿病性神経障害

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/29 21:21 UTC 版)

糖尿病性筋萎縮症

糖尿病性神経障害の中に急性または亜急性の経過で臀部や大腿部などの下肢近位部に筋力低下と筋萎縮が出現する病態に遭遇する。この病態を糖尿病性筋萎縮症といい、Thomasの分類では下肢近位ニューロパチーと明記されている。日本では全糖尿病症例の約1.7%に認められ男性に多いと報告される稀な病態である。

概要

中高年の2型糖尿病患者に体重減少を伴って急性もしくは亜急性の経過で発症し、下肢近位筋群を中心に非対称の筋力低下および筋萎縮を認めることに加えて、同部位に強い疼痛を認めることが多い糖尿病性筋萎縮症と発症と糖尿病罹患年数、血糖コントロールは関連が乏しい。治療後有痛性神経障害の合併、糖尿病性躯幹神経障害の合併の報告がある[5]。基本的には単相性の経過で自然寛解することが多いが、遷延した治療経過を示すことが多く、後遺症を残すことも多い。特に筋力低下は経過中高度であることが多く、強い疼痛も加わって多くの症例で自立歩行が困難になる。疼痛や筋力低下以外にも約半数で起立性低血圧、性機能障害、膀胱直腸障害などの自律神経障害を認める。

病態

糖尿病性筋萎縮症は臀部や大腿部などの下肢近位筋群や傍脊柱筋の急性神経原性変化を特徴として、腰仙骨神経根・神経叢を主たる責任病巣とするため糖尿病性腰仙部神経根叢障害(diabetic lumbosacral radiculoplexus neuropathy;DLRPN)と呼ばれることがある。DyckらはDLRPN症例の腓腹神経生検を詳細に検討した結果、神経上膜の血管周囲に単球を主体とした炎症細胞浸潤、血管壁の炎症、血管周囲のヘモジデリン沈着、血管新生を認め、細動静脈・毛細血管を中心に存在する血管炎に伴う神経虚血がDLRPNの原因であると報告している[6]。また、DLRPN症例に対するステロイド、免疫抑制薬、免疫グロブリン療法の有効性が報告されている[7]ことから血管炎の原因として何らかの免疫異常が関与しているものと考えられる。DLRPNは他の糖尿病性ニューロパチーの他の病態と明らかに異なりひとつの独立した神経疾患という意見もある。

治療

血糖コントロールと疼痛管理と免疫療法が検討される。

血糖管理
高血糖管理は全身管理上重要であるが、治療後有痛性神経障害の合併をふせぐため急激な血糖管理は避けることが望ましい。
疼痛管理
有痛性神経障害の治療に準じる。
免疫療法
ステロイド免疫抑制薬血漿交換、免疫グロブリン療法いずれも有用と考えられている。しかし全ての症例に免疫療法が奏効するわけではない[8]

  1. ^ 糖尿病合併症 p103 ISBN 9784521733760
  2. ^ Diabetes. 1997 46 Suppl 2 S54-7. PMID 9285500
  3. ^ 本当に明日から使える漢方シリーズ2 フローチャート漢方薬治療 ISBN 9784880028231
  4. ^ Lancet. 2005 365 1259-1270. PMID 15811460
  5. ^ Muscle Nerve. 2002 25 477-491. PMID 11932965
  6. ^ Muscle Nerve. 2002 25 477-491. PMID 11932965
  7. ^ Arch Neurol. 1995 52 1053-1061. PMID 7487556
  8. ^ Acta Neurol Scand. 2003 107 299-301. PMID 12675705
  9. ^ a b 永井知代子、舞踏運動とバリズム 日本内科学会雑誌 Vol.93 (2004) No.8 P.1545-1550, doi:10.2169/naika.93.1545
  10. ^ 西尾真也、山谷洋子、尾本貴志 ほか、インスリン導入後の比較的急速な血糖改善に伴って発症し,長期にわたりフォローアップした糖尿病性舞踏病の1例 糖尿病 Vol.58 (2015) No.6 p.413-418, doi:10.11213/tonyobyo.58.413
  11. ^ 末丸大悟、石塚高広、橋田哲 ほか、典型的画像所見を伴わない糖尿病性舞踏病を呈した83歳の高齢発症1型糖尿病の1例 2015年 58巻 6号 p.407-412, doi:10.11213/tonyobyo.58.407





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