家制度 廃止された理由等

家制度

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/12 16:35 UTC 版)

廃止された理由等

前述のように、物理的な懲罰権を持たず、離籍を覚悟されれば婚姻・縁組・居所移転を阻止できないという意味では、戸主権の実効性は脆弱であった[12]

しかし、立法者が楽観視して設けた離籍権は意外の弊害を生じた。条文上行使の方法に制限が無かったため、扶養義務免除など不正の利益を得るためや、嫌がらせ目的による行使が相次いだのである。そこで早くから判例は権利濫用法理を発達させ、恣意的な離籍を無効にする努力を講じており、戸主権を必要とする社会的実態の欠如が古くから指摘され続けてきた[13]

そこで早くも大正時代には法律上の家族制度緩和論が支配的となり[14][15]、離籍権行使に裁判所の許可を要するとの改正[16]が昭和16年に成立。保守派からの反対論は特に出なかった[17]

戦後には家制度が憲法24条等に反するとして、「日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律」(昭和22年法律第74号、昭和22年4月19日施行)により、日本国憲法の施行(1947年5月3日)を以って廃止された。牧野英一らの強い主張もあり「家族の扶養義務」などの形で一部残されたが(民法877条)、戦後の改正民法が当時の社会事実としての家制度や、道徳上の家庭生活を否定し積極的に破壊する趣旨に出たわけではなく、法律上の家制度を廃止することで道徳・人情・経済に委ねた趣旨を表すものであり、同時施行された家事審判法(2013年廃止)の第1条が「家庭の平和と健全な親族共同生活の維持を図ることを目的とする」としていたのと同趣旨だとも説明されている[18]。一方で、法律上の家制度が解体された以上、道徳上のそれも解体されるべきという主張も、主に進歩派を自認する論者によって有力に唱えられている[19]


注釈

  1. ^ 旧民法が効力を持っていた戦前期(及び2021年現在でも各家庭・地域によっては)「家系の祭祀」を継ぐことが名誉ある責務と考えていたため、この規定が定められていた。

出典

  1. ^ 中村清彦「我国の家政と民法(三)」『日本之法律』4巻8号、博文館、1892年
  2. ^ 村上一博「『日本之法律』にみる法典論争関係記事(4)」『法律論叢』第81巻第6号、明治大学法律研究所、2009年3月、289-350頁、ISSN 03895947NAID 120001941063 
  3. ^ 岩田新『親族相続法綱要』(同文館、1926年)59-61頁
  4. ^ 宇野文重「明治民法起草委員の「家」と戸主権理解 : 富井と梅の「親族編」の議論から」『法政研究』第74巻第3号、九州大学法政学会、2007年12月、523-591頁、doi:10.15017/8837ISSN 03872882NAID 120000984402 
  5. ^ 朝鮮民事令第11条
  6. ^ 韓国における戸主制度廃止と家族法改正 - 立命館大学
  7. ^ 梅謙次郎『民法要義 巻之四親族法』和佛法律学校、1902年、50、111頁
  8. ^ 法典調査會『法典調査會民法議事速記録第四拾参巻』174丁
  9. ^ 栗原るみ「ジェンダーの日本近現代史(3)」『行政社会論集』22巻2号、福島大学行政社会学会、2009年、90頁
  10. ^ 平野義太郎『日本資本主義の機構と法律』明善書房、1948年、52-53頁
  11. ^ 梅謙次郎『民法要義 巻之四親族法』和仏法律学校、1902年、35-36頁
  12. ^ 我妻榮『民法研究VII 親族・相続』有斐閣、1969年、131頁、中村敏子『女性差別はどう作られてきたか』集英社、2021年、125頁
  13. ^ 杉之原舜一『親族法の研究』日本評論社、1940年、3-8頁
  14. ^ 我妻栄遠藤浩川井健補訂)『民法案内1私法の道しるべ』(勁草書房、2005年)103-104頁, isbn 978-4326498444
  15. ^ 山本起世子「民法改正にみる家族制度の変化 : 1920年代~40年代」(PDF)『園田学園女子大学論文集』第47号、園田学園女子大学、2013年1月、119-132頁、NAID 110009534405 
  16. ^ 民法中改正法律(昭和16年3月3日法律第21号)
  17. ^ 我妻榮『民法研究VII 親族・相続』有斐閣、1969年、149頁
  18. ^ 穂積重遠『百萬人の法律学』(思索社、1950年)112頁
  19. ^ 我妻榮編『戦後における民法改正の経過』日本評論新社、1956年、42頁
  20. ^ 「夫婦同姓も中絶禁止もその価値観を他人に強制することではない」、iRonna、2015年12月16日
  21. ^ a b 「時代遅れの戸籍制度」、週刊金曜日、第838号、2011年3月11日


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