地対空ミサイル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/23 22:52 UTC 版)
短距離防空ミサイル
短距離防空(SHORAD:Short Range Air Defense)システムは、最大射程が10キロメートル程度の防空システムである。師団あるいは旅団の野戦防空に用いられるほか、海空軍でも、地上の重要施設の防衛に用いる。かつては大口径の高射砲(M51 75mm高射砲など)が使用されていたが、現在、陸戦分野においては、地対空ミサイル(短SAM)によってほぼ完全に置き換えられている[注 1]。
多くが自走式となっており、いくつかの機種では、管制装置と発射装置を同じ車両に搭載することで、展開と撤収を迅速に行なえるように配慮している。これは、頻繁に移動する野戦部隊に随伴して、防空援護を提供するためのものである。
代表的な機種
- 81式短距離地対空誘導弾(SAM-1 ショートアロー)
- 11式短距離地対空誘導弾
- 57E6(SA-22 グレイハウンド)
近距離防空ミサイル
近距離防空(VSHORAD:Very Short Range Air Defense)システムは、最大射程が5キロメートル程度の防空システムである。SHORADシステムを補完して師団あるいは旅団の野戦防空システムに参加するほか、大隊以下の階梯で、自衛防空手段としても用いられる。
射程が短いかわりに、即応性や機動性に優れたものとされている。VSHORADとしては、従来、高射機関砲が使われてきたが、現在では、携帯式防空ミサイルシステム(MANPADS)、およびそれを車載式・固定式としたシステムが広く配備されるようになっている。ただし、至近距離での即応性という点で、地対空ミサイル・システムには大きな問題があることから、これらを補完するかたちで、高射機関砲もなお運用が継続されている。
車載式/固定式
これらの多くは、肩撃ち式の携帯式防空ミサイルシステム(MANPADS)を改良・転用したものである。しかし、携帯性ゆえにMANPADSの性能を制約することになっている電力供給やシステム連接の問題などを解決したものであるため、事実上、別のシステムとして捉えられるべきものとなっている。つまり、電力は車両側から供給できるので、はるかに安定した動作が可能になっているほか、より高度な射撃管制装置とネットワーク連接が可能であるので、効率的な射撃が可能である。
代表的な機種
- FB-6A(HN-6の車載版)
- CQW-2(QW-2の車載版)
- FLV-1/FLG-1(QW-3の車載版)
- FL-2000(V)(QW-3の車載版)
- TD-2000/TD-2000B(QW-4の車載版)
携帯式
携帯式防空ミサイルシステム(MANPADS)は、1960年代後半より配備されはじめた、比較的新しいテクノロジーである。
MANPADSのコンセプトは、第二次世界大戦末期にドイツ国防軍が開発したフリーガーファウストにおいて既に見られるが、これは、その後も高速化を続ける航空機に対処できなかった。アメリカ陸軍は1948年より、フリーガーファウストを含めた数機種を検討したが、いずれも不十分な防空効果しか得られないことから、独自の開発を決定、コンベア社による10年におよぶ基礎研究ののち、1959年より開発プロジェクトが開始された。これによって開発されたのが世界初のMANPADSであるFIM-43 レッドアイである。また、ソ連でも1959年頃から同様の研究が行なわれており、これは9K32 ストレラ2(SA-7 グレイル)として配備された。これらの第1世代MANPADSは、いずれも単純な赤外線誘導を採用していた。ただし、イギリスの第1世代MANPADSであるブローパイプ(en)では手動指令照準線一致誘導方式(MCLOS)が使われている。
その後、第2世代のMANPADSの開発が開始された。これらは、シーカーの冷却や2波長光波誘導などの採用により攻撃可能範囲を増大させており、アメリカではFIM-92 スティンガー、ソ連では9K34 ストレラ3(SA-14 グレムリン)が配備された。また、日本の91式携帯地対空誘導弾では、さらに先進的な画像誘導方式が採用されている。一方、イギリスは第2世代のジャベリンではより自動化された無線式SACLOS誘導、第3世代のスターバーストではレーザーSACLOS方式を採用しており、スウェーデンのRBS 70でも同様にレーザー誘導が選択された。
第1世代MANPADSは、ベトナム戦争の頃より実戦投入されたが、比較的容易に回避されることから、VSHORADとしては、高射砲の補完の域を出なかった。その後、アフガニスタン紛争で第2世代MANPADSであるスティンガーが実戦投入されて大きな戦果をあげた(#1980年代以降も参照)ことから注目を集め、世界的に普及するようになった。
しかしその後、ソビエト連邦の崩壊やMANPADSの普及により、MANPADSがテロに利用される恐れが増大した。1994年にはルワンダ政府専用機のダッソー ファルコン 50がMANPADSによって撃墜され、ルワンダ大統領ジュベナール・ハビャリマナと便乗していたブルンジ大統領シプリアン・ンタリャミラが共に死亡する事件が発生し(ハビャリマナとンタリャミラ両大統領暗殺事件)、この事件を直接のきっかけとしてルワンダ虐殺が引き起こされた。また、2002年には、エル・アル航空機が9K32で攻撃されるという事件が発生した(エル・アル航空機は赤外線シーカーへの欺瞞装置を備えていたため、この攻撃は失敗した; 英語版記事)。これを受けて、2003年の第29回主要国首脳会議において、「交通保安及び携帯式地対空ミサイル(MANPADS)の管理強化」に関する行動計画が採択された。
代表的な機種
- 91式携帯地対空誘導弾(SAM-2 ハンドアロー)
- HN-5(紅纓5; ロシア製9K32の中国版)
- HN-6(紅纓6/飛弩6)
- FN-16(飛弩16)
- QW-1(前衛-1から始まるシリーズ、QW-1M/1A/11/11G/18)
- QW-2(2波長光波誘導)
- QW-3(レーザー誘導)
- QW-4(熱画像誘導)
- 9K32 ストレラ2(SA-7 グレイル)
- 9K34 ストレラ3(SA-14 グレムリン)
- 9K310 イグラ-1(SA-16 ギムレット)
- 9K38 イグラ(SA-18 グロース)
脚注
注釈
- ^ 海戦分野においては、対水上火力を兼任させるた め、依然として大部分の戦闘艦に57-76mmの両用砲が搭載されている。
出典
- ^ 「地上攻撃適さない防空ミサイルで標的外れ市民被害か」NHK(2022年7月22日)2022年11月10日閲覧
- ^ 北ミサイル 地対空と判明「旧ソ連開発SA5」韓国が残骸分析『東京新聞』朝刊2022年11月10日(国際面)同日閲覧
- ^ “焦点:サウジ防空システムに欠陥、ドローン攻撃に無防備”. ロイター (2019年9月19日). 2021年10月20日閲覧。
- ^ “自治州巡る戦闘でドローン猛威、衝撃受けるロシア…「看板商品」防空ミサイル網が突破される”. 読売新聞 (2021年12月21日). 2021年10月20日閲覧。
- 1 地対空ミサイルとは
- 2 地対空ミサイルの概要
- 3 短距離防空ミサイル
- 4 参考文献
- 地対空ミサイルのページへのリンク