儒教
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概要
定義
中国やその周辺の東アジア諸国で信仰・研究されていた宗教、または学問。一般に孔子が創始者と目されるが、古代から伝わる神話や制度や当時の習俗などの集合体である。孔子以後は経書の解釈を行う学問など、または、社会規範や習俗として行われた。
略史
アニミズムやシャーマニズムを背景に成立し、東周・春秋時代に魯の孔子やその後の儒者によって自覚された。主な教義として、堯舜・文武周公の古の聖賢の政治を理想として[1]「周礼」を復活させることや、家族や君臣の秩序を守ることなどが挙げられる(#教義・学説を見よ)。孔子やその弟子たちの教団は儒家と呼ばれ、諸子百家の一つに数えられる。また、儒教を自らの行為規範にしようと、儒教を学んだり、研究したりする人のことを儒学者、儒者、儒生などと呼ぶ[注釈 1]。孟子は徳によって天下を治め(王道政治)、武力による覇道を批判し、禅譲と放伐により歴史が推移してきたとする徳治主義を主張した。時の為政者に法家、老荘思想や道教などが信仰されたこともあり、儒教は弾圧されることもあったが、前漢になると保護され、新・後漢で国教とされた。唐代には仏教が広く信仰され、再び影を潜めた。宋代には朱子学が起こり、より哲学的な宋明理学体系が生み出された。朱子学は政治と密接な関係を持ち、「修己治人」(有徳者が為政者となる)や「修身・斉家・治国・平天下」(自分・家・地方を治め得る人物が天下を握る)「経世済民」(世を治め人々を救う)といった教えがあり、科挙受験のために必要不可欠となった。
教典
六経
儒教の経典は『易』・『書』・『詩』・『礼』・『楽』・『春秋』の六芸(六経)である。
春秋時代になり、『詩』・『書』・『春秋』の三経の上に、『礼』・『楽』の二経が加わり、五経になったといわれる。
『詩』・『書』・『礼』・『楽』の四教については「春秋を教うるに礼楽を以てし、冬夏は教うるに詩書を以てす」、『礼記·王制』における「王制に曰く、楽正、四術を崇び四教を立つ。先王の『詩』・『書』・『礼』・『楽』に順いて以て士を
孔子は老聃に次のようにいったとされる。孔子は詩書礼楽の四教で弟子を教えたが、三千人の弟子の中で六芸に通じたのは72人のみであった[2]。
漢の武帝のとき、賢良文学の士で挙げられた董仲舒は儒学を正統の学問として五経博士を設置することを献策した。霊帝のとき、諸儒を集めて五経の文字を校訂、太学の門外に石経を立てた。このとき作られた熹平石経は183年(光和6年)に完成し、『易経』『儀礼』『尚書』『春秋』『公羊』『魯詩』『論語』の七経からなった。
経 | 伝 | 記 | 注疏 |
---|---|---|---|
易経 | 周易正義 | ||
尚書 | 尚書孔安伝 | 尚書正義 | |
詩経 | 毛詩 | 毛詩正義 | |
楽経 | |||
儀礼 | 礼記 | 儀礼注疏、礼記注疏 | |
周礼 | 周礼注疏 | ||
春秋 | 春秋公羊伝 | 春秋公羊伝注疏 | |
春秋左氏伝 | 春秋左氏伝注疏 | ||
春秋穀梁伝 | 春秋穀梁伝注疏 | ||
論語 | 論語注疏 | ||
孝経 | 孝経注疏 | ||
孟子 | 孟子注疏 | ||
爾雅 | 爾雅注疏 |
四書
宋代に朱熹が『礼記』のうち2篇を「大学」「中庸」として独立させ、「論語」、「孟子」に並ぶ「四書」の中に取りいれた。「学問は、必ず「大学」を先とし、次に「論語」、次に「孟子」次に「中庸」を学ぶ」。これを道統説という。
朱熹は、「『大学』の内容は順序・次第があり纏まっていて理解し易いのに対し、『論語』は充実しているが纏りが無く最初に読むのは難しい。『孟子』は人心を感激・発奮させるが教えとしては孔子から抜きん出ておらず、『中庸』は読みにくいので3書を読んでからにすると良い」と説く[3]
教義・学説
儒教は、五常(仁・義・礼・智・信)という徳性を拡充することにより五倫(父子・君臣・夫婦・長幼・朋友)関係を維持することを教える。
- 仁
- 人を思い遣る事。白川静『孔子伝』によれば、「狩衣姿も凛々しい若者の頼もしさをいう語」。「説文解字」は「親」に通じると述べている。
- 「論語」の中では、さまざまな説明がなされている。孔子は仁を最高の徳目としていた。
- 義
- 利欲に囚われず、すべきことをすること。
- 礼
- 仁を具体的な行動として、表したもの。もともとは宗教儀礼でのタブーや伝統的な習慣・制度を意味していた。のちに、人間の上下関係で守るべきことを意味するようになった。
- 智
- ただ学問に励むだけでなく道徳的認識判断力であることともされている[4]。智は『論語』では知と表記され意味としては聡明、明智などの意味がある[5]。
- 信
- 言明を違えないこと、真実を告げること、約束を守ること、誠実であること。
この他にも、忠義、孝、悌という教えもある[6]。
注釈
出典
- ^ 『礼記・中庸』
- ^ 荘子天運篇
- ^ 朱子・語類巻14より。これは即ち、四書の読み順まで記している。(儒教の世界観においては)天から与えられた至徳を明らかにする事、知を致し物に格る。中こそは天下の大本であり、和こそは天下の達道である。中と和を極致に達せしめた時、天地の秩序は定まり、万物は生成発展する。儒教の目的とその目的達成への目標が掲げられたのが「三綱領」・「八条目」であり、朱熹は道統論を唱え自らの「学」の正当性を主張した。堯舜孔孟に「御目にはかかわらずとも、あの道理が心へ来れば道統、朱子の理与心と云はるるが大切の事なり。孟子の後あとの賑かな漢の経術に斯く云は見て取たるに極まる。偖、文章は下卑たこと。孟子と文選幷べたときに、文の上では腕押しなり(=孟子を文選の上位に置く事は愚かしき事)。韓氏が見て、孟子の後道を得たもの無し、と。そこで程子のみ来て、非是蹈襲前人云々なり。道統は中庸の心法、それは大学の事。其致知がすま子ば道統は得られぬ。」
- ^ 土田健次郎『儒教入門』(新)東京大学出版会、2011年12月19日、29頁。ISBN 978-4-13-013150-6。
- ^ 孔祥林『図説孔子』(新)科学出版社〈国書刊行会〉、2014年12月22日、113頁。ISBN 978-4-336-05848-5。
- ^ 高畑常信『中国思想の理想と現実』(新)木耳社、2014年10月6日、31頁。ISBN 978-4-8393-7187-6。
- ^ 『周礼・春官宗伯』
- ^ 論語 衛霊公第十五 10
- ^ 『論語』の泰伯篇
- ^ 『易経 下繫辭傳』 Archived 2012年3月13日, at the Wayback Machine.
- ^ 胡適論文「説儒」(1924年)
- ^ 白川「孔子伝」
- ^ 『史記』孔子世家
- ^ a b 『世界哲学史2』(ちくま新書、2020年)119-121ページ
- ^ a b 『世界哲学史2』121-123ページ
- ^ 湯浅邦弘『概説中国思想史』(新)ミネルヴァ書房〈ミネルヴァ書房〉、2010年、87頁。ISBN 978-4-623-05820-4。
- ^ 吾妻重二『宋代思想の研究』(新)関西大学出版部〈遊文舎〉、2009年3月18日、72頁。ISBN 978-4-87354-468-7。
- ^ 湯浅邦弘『概説中国思想史』(新)ミネルヴァ書房〈ミネルヴァ書房〉、2010年10月25日、116頁。ISBN 978-4-623-05820-4。
- ^ 湯浅邦弘『概説中国思想史』(新)ミネルヴァ書房〈ミネルヴァ書房〉、2010年10月25日、264頁。ISBN 978-4-623-05820-4。
- ^ 園田茂人 『不平等国家 中国--自己否定した社会主義のゆくえ』 中央公論新社、2008年5月25日、177-178頁。ISBN 9784121019509
- ^ What can we learn from Confucianism? Daniel A Bell guardian.co.uk, Sunday 26 July 2009]。 2006年の記事
- ^ 黄俊傑; 阮金山 (2009). “〈越南儒學資料簡介〉” (中国語). 《台灣東亞文明研究學刊》 12: 221-226. オリジナルの2014-10-21時点におけるアーカイブ。 2019年3月3日閲覧。.
- ^ 朱子学の伝統は現代社会の危機を救える | ハフポスト LIFE
- ^ 子安室邦 1993「儒教にとっての近代J 『季刊 日本思想史』 41号
- ^ 奥谷 浩一「丸山眞男の日本思想史論の問題点」『札幌学院大学総合研究所紀要』p.63
- ^ 永井 和「戦後マルクス主義のアジア認識」
- ^ 吉本隆明の183講演 - ほぼ日刊イトイ新聞 〈アジア的〉ということ
- ^ a b c 大橋松行「東アジアにおける近代化と儒教倫理」『佛教大学総合研究所紀要』第6号、佛教大学総合研究所、1999年3月、79-89頁、ISSN 1340-5942、NAID 120007022442。
- ^ 「中世ジャップランド」と「ヘル朝鮮」──SMAPとJYJで繋がった日韓のネットスラングの共通性(松谷創一郎) - 個人 - Yahoo!ニュース
- ^ 湯浅赳男『面白いほどよくわかる 世界の哲学・思想のすべて』日本文芸社、平成17年2月1日改訂第1版、ISBN 4-537-11501-7、p72
- ^ 加地伸行 『沈黙の宗教-儒教』 筑摩書房〈ちくまライブラリー〉/ 改訂版・ちくま学芸文庫、2011年
- ^ 孔子まつる那覇の施設 使用料免除は憲法違反 最高裁大法廷 | 憲法 | NHKニュース
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