儒教 歴史(近現代)

儒教

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/13 03:24 UTC 版)

歴史(近現代)

中華民国時代

孔教運動

康有為

変法自強運動を進める康有為は、『孔子改制考』を著して孔子を受命改制者として顕彰し、儒教をヨーロッパ風の国家宗教として再解釈した「孔教」を提唱した。康有為の孔教運動は年号紀年を廃して孔子紀年を用いることを主張するなど従来の体制を脅かし、清朝から危険視されて『孔子改制考』は発禁処分を受けた。変法派のなかでも孔教運動は受け入れられず、これが変法運動挫折の一因となる。しかし、辛亥革命が起こると、康有為は上海に孔教会を設立して布教に努め、孔教を中華民国の国教にする運動を展開した。彼らの運動は信仰の自由を掲げる反対派と衝突し、憲法起草を巡って大きな政治問題となった。その後、1917年張勲清帝復辟のクーデターに関与したため、孔教会はその名声を失った。康有為が唱える孔子教運動には、弟子の陳煥章が積極的に賛同し、中国・アメリカで活動した。この他に賛同した著名人として厳復がいる。

新文化運動

1910年代後半になると、争いを繰り返す政治に絶望した知識人たちは、文学や学問といった文化による啓蒙活動で社会改革を目指そうとする新文化運動を興した。雑誌『新青年』を主宰する陳独秀・呉虞・魯迅らは「孔家店打倒」をスローガンに家父長制的な宗法制度や男尊女卑の思想をもつ儒教を排斥しようとした。一方、雑誌『学衡』を主宰する柳詒徴・呉宓・梅光迪・胡先驌ら学衡派は、儒学を中心とする中国伝統文化を近代的に転換させることによって中西を融通する新文化を構築することを主張している。

清末から隆盛した今文学派による古典批判の方法論は古籍に対する弁偽の風潮を興し、1927年顧頡剛を始めとする疑古派が経書や古史の偽作を論ずる『古史弁』を創刊した。顧頡剛は「薪を積んでいくと、後から載せたものほど上に来る」という比喩のもと、古史伝承は累層的に古いものほど新しく作られたという説を主張し、堯・舜・禹を中国史の黄金時代とする儒教的歴史観に染まっていた知識人に大きな衝撃を与えた。さらに銭玄同六経周公と無関係であるばかりでなく孔子とも無関係である論じ、孔子と六経の関係は完全に否定されるに到った。

中華人民共和国時代

マルクス主義無神論を掲げる中華人民共和国が成立すると、「儒教は革命に対する反動である」として弾圧の対象とされた。特に文化大革命期には、批林批孔運動として徹底弾圧された。多くの学者は海外に逃れ、中国に留まった熊十力は激しい迫害を受け自殺したといわれる。儒教思想が、社会主義共和制の根幹を成すマルクス主義とは相容れない存在と捉えられていたためとされる。なお毛沢東は『三国志』を愛読し、曹操をとりわけ好んだといわれるが、曹操は三国時代当時に官僚化していた儒者および儒教を痛烈に批判している。

再評価と「儒教社会主義」

だが、21世紀に入ると儒教は弾圧の対象から保護の対象となり再評価されつつある。

孔子を、その思想を別論として、国際的に著名な教育者と評価し、2004年、中国国外の大学などの教育機関と提携し、中国語や中国文化の教育及び宣伝、中国との友好関係醸成を目的に設立した公的機関を孔子学院と名付け世界展開を進めている。また、2005年以降、孔子の生誕を祝う祝典が国家行事として執り行われ、論語を積極的に学校授業に取り入れるようになるなど儒教の再評価が進んでいる。文化大革命期に徹底的に破壊された儒教関連の史跡及び施設も近年になって修復作業が急速に行われている。

ほかにも改革開放が進む中で儒学や老荘思想など広く中国の古典を元にした解釈学である国学が「中華民族の優秀な道徳倫理」として再評価されるようになり国学から市場経済に不可欠な商業道徳を学ぼうという機運が生まれている。国家幹部は儒教を真剣に学ぶべきだという議論も生まれている[20]

ダニエル・A・ベル(Daniel A Bell)北京清華大学哲学教授によれば、近年、中国共産党は「儒教社会主義」または新儒教主義(宋の時代にもあった)を唱えている[21]


注釈

  1. ^ なお儒教を宗教として信仰せずに儒教を研究する学者は、「儒学者」といわずに、「儒教研究者」と呼ぶべきとする見方もある[要出典]。ただし京都大学教授の吉川幸次郎や、評論家の呉智英は、自らを儒者であると主張し、儒教の立場からさまざまな立論を行っている。

出典

  1. ^ 『礼記・中庸』
  2. ^ 荘子天運篇
  3. ^ 朱子・語類巻14より。これは即ち、四書の読み順まで記している。(儒教の世界観においては)天から与えられた至徳を明らかにする事、知を致し物に格る。中こそは天下の大本であり、和こそは天下の達道である。中と和を極致に達せしめた時、天地の秩序は定まり、万物は生成発展する。儒教の目的とその目的達成への目標が掲げられたのが「三綱領」・「八条目」であり、朱熹は道統論を唱え自らの「学」の正当性を主張した。堯舜孔孟に「御目にはかかわらずとも、あの道理が心へ来れば道統、朱子の理与心と云はるるが大切の事なり。孟子の後あとの賑かな漢の経術に斯く云は見て取たるに極まる。偖、文章は下卑たこと。孟子と文選幷べたときに、文の上では腕押しなり(=孟子を文選の上位に置く事は愚かしき事)。韓氏が見て、孟子の後道を得たもの無し、と。そこで程子のみ来て、非是蹈襲前人云々なり。道統は中庸の心法、それは大学の事。其致知がすま子ば道統は得られぬ。」
  4. ^ 土田健次郎『儒教入門』(新)東京大学出版会、2011年12月19日、29頁。ISBN 978-4-13-013150-6 
  5. ^ 孔祥林『図説孔子』(新)科学出版社〈国書刊行会〉、2014年12月22日、113頁。ISBN 978-4-336-05848-5 
  6. ^ 高畑常信『中国思想の理想と現実』(新)木耳社、2014年10月6日、31頁。ISBN 978-4-8393-7187-6 
  7. ^ 『周礼・春官宗伯』
  8. ^ 論語 衛霊公第十五 10
  9. ^ 『論語』の泰伯篇
  10. ^ 『易経 下繫辭傳』 Archived 2012年3月13日, at the Wayback Machine.
  11. ^ 胡適論文「説儒」(1924年
  12. ^ 白川「孔子伝」
  13. ^ 史記』孔子世家
  14. ^ a b 『世界哲学史2』(ちくま新書、2020年)119-121ページ
  15. ^ a b 『世界哲学史2』121-123ページ
  16. ^ 湯浅邦弘『概説中国思想史』(新)ミネルヴァ書房〈ミネルヴァ書房〉、2010年、87頁。ISBN 978-4-623-05820-4 
  17. ^ 吾妻重二『宋代思想の研究』(新)関西大学出版部〈遊文舎〉、2009年3月18日、72頁。ISBN 978-4-87354-468-7 
  18. ^ 湯浅邦弘『概説中国思想史』(新)ミネルヴァ書房〈ミネルヴァ書房〉、2010年10月25日、116頁。ISBN 978-4-623-05820-4 
  19. ^ 湯浅邦弘『概説中国思想史』(新)ミネルヴァ書房〈ミネルヴァ書房〉、2010年10月25日、264頁。ISBN 978-4-623-05820-4 
  20. ^ 園田茂人 『不平等国家 中国--自己否定した社会主義のゆくえ』 中央公論新社、2008年5月25日、177-178頁。ISBN 9784121019509
  21. ^ What can we learn from Confucianism? Daniel A Bell guardian.co.uk, Sunday 26 July 2009]。 2006年の記事
  22. ^ 黄俊傑; 阮金山 (2009). “〈越南儒學資料簡介〉” (中国語). 《台灣東亞文明研究學刊》 12: 221-226. オリジナルの2014-10-21時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20141021124223/http://www.eastasia.ntu.edu.tw/member/eastasia/temp/6-2/6-2-9.pdf 2019年3月3日閲覧。. 
  23. ^ 朱子学の伝統は現代社会の危機を救える | ハフポスト LIFE
  24. ^ 子安室邦 1993「儒教にとっての近代J 『季刊 日本思想史』 41号
  25. ^ 奥谷 浩一「丸山眞男の日本思想史論の問題点」『札幌学院大学総合研究所紀要』p.63
  26. ^ 永井 和「戦後マルクス主義のアジア認識
  27. ^ 吉本隆明の183講演 - ほぼ日刊イトイ新聞 〈アジア的〉ということ
  28. ^ a b c 大橋松行「東アジアにおける近代化と儒教倫理」『佛教大学総合研究所紀要』第6号、佛教大学総合研究所、1999年3月、79-89頁、ISSN 1340-5942NAID 120007022442 
  29. ^ 「中世ジャップランド」と「ヘル朝鮮」──SMAPとJYJで繋がった日韓のネットスラングの共通性(松谷創一郎) - 個人 - Yahoo!ニュース
  30. ^ 湯浅赳男『面白いほどよくわかる 世界の哲学・思想のすべて』日本文芸社、平成17年2月1日改訂第1版、ISBN 4-537-11501-7、p72
  31. ^ 加地伸行 『沈黙の宗教-儒教』 筑摩書房〈ちくまライブラリー〉/ 改訂版・ちくま学芸文庫、2011年
  32. ^ 孔子まつる那覇の施設 使用料免除は憲法違反 最高裁大法廷 | 憲法 | NHKニュース






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