リトアニア語 リトアニア語の概要

リトアニア語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/27 13:28 UTC 版)

リトアニア語
lietuvių kalba
発音 IPA: [lʲɪɛˈtʊvʲuː kɐɫˈbɐ]
話される国  リトアニア
ポーランド
 ベラルーシ
 ラトビア
ロシア
 エストニア
地域 北ヨーロッパ
話者数 280万(2021年)[1]
話者数の順位 100位以下
言語系統
表記体系 ラテン文字
公的地位
公用語  リトアニア
欧州連合
統制機関 国家リトアニア語委員会
言語コード
ISO 639-1 lt
ISO 639-2 lit
ISO 639-3 lit
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地理分布

リトアニア語は主にリトアニアで話されている。その他にもベラルーシラトビアポーランドカリーニングラード州ロシア)に住むリトアニア人の間でも話されており、またリトアニア系移民も含めると、アイスランドアイルランドアメリカ合衆国アルゼンチンイギリスウルグアイエストニアオーストラリアカナダスウェーデンスペインデンマークノルウェーブラジルフランスロシアでも話されている。

リトアニアでは、2,800,000人(2012年)がリトアニア語を母語としている。また2013年の統計によると、ポーランドにおいて5,050人の話者がいると報告されている[3]

公用語

リトアニア語はリトアニア共和国の公用語で、また欧州連合 (EU) の公用語でもある。

方言

リトアニア語の方言[4]。黄、赤、茶色はジェマイティヤ語、緑、青、紫色はアウクシュタイティヤ語。

リトアニア語には、主に内陸側のアウクシュタイティヤ方言(高地リトアニア語)と海岸側のジェマイティヤ方言(低地リトアニア語)の2つの主要な方言 (tarmės) がある。標準語とジェマイティヤ方言の違いは顕著である。現在のジェマイティヤ方言は13世紀から16世紀にクロニア語の影響を受けながら形成されていった。これらリトアニア語の方言はリトアニアの民族誌上の地方と強く関連している。

2つの方言は、さらにそれぞれ3つずつの下位方言 (patarmės) に分けられる。ジェマイティヤ方言には西部下位方言、北部下位方言および南部下位方言があり、アウクシュタイティヤ方言には西部下位方言、東部下位方言、および南部下位方言がある(東部と南部の下位方言はズーキヤ方言とも呼ばれる)。下位方言はさらに細かな話し言葉 (šnektos) に分けられる。

リトアニア語の標準語は西部アウクシュタイティヤ方言をもとにつくられているが、語彙などは他の方言からの影響も顕著である。

文字と発音

リトアニア語の表記には、以下の32文字からなるラテン文字を用いる。ダイアクリティカルマークの付いた9文字( ą 、č 、ę 、ė 、į 、š 、ų 、ū および ž )を含み、q 、w および x は含まない。ただし外国語の表記にはこれらが用いられることもある。

リトアニア語の辞書では、通常 c と d のあいだに č が、s と t のあいだに š が、z の次に ž がくるように並べられており、a と ą 、e と ę と ė 、i と į と y 、u と ų と ū はそれぞれ区別しない。 y が x と z のあいだではなく i や į と区別されずに並べられている点で、他のラテン文字を用いる言語とは異なる順序となっている。

基本的には1字1音であるが、dz 、dž および ch はそれぞれ2字で1音を表す。

また、母音字はもともとあった鼻母音( ą 、ę 、į および ų )が長母音に変化したため、現代では a および e がアクセントの関係で長母音化したときにそれぞれ ą 及び ę と同じ発音になり、y は į と、ū は ų とそれぞれ同じ発音になっている。

二重母音は基本的にai, au, ei, ie, ui, uoの六種が存在する。また、混合二重母音としてan, am, ar, al, en, em, er, el, in, im, ir, il, un, um, ur, ulが存在する。これらはいずれも一まとまりの音として扱われる。たとえば、tiltas 〈橋〉やžvirblis 〈雀〉の"il", "ir"の様に後ろに他の子音が続いているものは混合二重母音であるが、žilas 〈白髪の〉やkibiras 〈バケツ〉の"il", "ir"の様に後ろが母音であるものは混合二重母音にはあたらない。

アクセント

アクセントは単純な強弱(ストレス)アクセントではなく、声調(トーン)と呼ばれる音節内での音の高低に、音の強弱・長短、及び母音の質が関わった複雑なものとなっている。このため、リトアニア語が純粋な音調を持つ言語であると断言するには難がある[5]。リトアニア語の伝統的な辞書においては、アクセントを表すための記号としてグラーヴェアキュートチルダの三種類が用いられる。これらの記号は通常の正書法においては表記されないが、同じ表記でもアクセントが異なる語を区別する際には用いられる事がある(具体例: áukštas〈高い〉に対するaũkštas 〈階〉; mìnti〈踏む〉に対するmiñti〈覚えている〉)。 グラーヴェ、アキュート、チルダは基本的にはそれぞれ短アクセント、下降アクセント、上昇アクセントの三種類のアクセントに対応している。

  1. 短アクセント: 短母音に置かれる(例: pìktas〈腹を立てた〉; dùrys〈ドア〉)。なお、他の二種類のアクセントとの統一性から "trumpinė priegaidė"〈短音調〉という用語が用いられることがある。ただしこのアクセントは短すぎて聞き取りにくいながらも後述する下降アクセントか上昇アクセントが実態となっており、短音調と呼称するのは便宜的な側面が強い[6]
  2. 下降アクセントtvirtapradė priegaidė、直訳:「堅い始めの音調」): 長母音や二重母音に置かれる(例: áu)。 ただし混合二重母音in, im, ir, il, un, um, ur, ulの下降アクセントを表す際には、例外的に最初の母音をそれぞれì, ùで表す(具体例: 誤: ílgas, 正: ìlgas)。
  3. 上昇アクセントtvirtagalė priegaidė、直訳:「堅い終わりの音調」): 下降アクセントと同様、長母音および二重母音に置かれる(例: aũ)。

アクセント・タイプ

リトアニア語では名詞や形容詞が格変化する際にアクセントの位置や種類が変化する場合と変化しない場合とが存在する。この規則性を捉えるための概念が、アクセント・タイプkirčiuotė (lt)である。このアクセントの型は、大まかに4種類のものに分けられる。基本的には1つの語に対し1種類のアクセント・タイプが設定されているのが原則であるが、中にはáuksas〉の様に(1)と(3)の2通りの型を持つ語も存在する。 以下では、名詞とともに各アクセント・タイプの特徴を説明した後、形容詞のものについても触れていく事とする。

名詞
タイプ (1)

どの格変化でもアクセントの位置が変化しない。2音節の名詞であれば、最初の音節に必ず下降アクセントが来る(語例: dúona 〈パン〉, klė́tis 〈穀倉〉)。しかし、3音節以上の語であれば語末から3番目の音節以前に短アクセントや上昇アクセントが現れる場合もある(語例: ãdata 〈針〉, pìktžolė 〈雑草〉)。 なお、語尾が-aである名詞はこの(1)の型のもの以外は全て主格単数形の語尾に必ず短アクセントが来る。

タイプ (2)

大部分の格変化において語末から2番目の音節に短アクセントもしくは上昇アクセントが来る。この型の名詞のいずれにも共通する要素は、対格複数形および具格単数形において語尾に短アクセントが現れるという点である(語例: rą̃stas 〈丸太〉, ris 〈銅〉, rankà 〈手〉)。

タイプ (3)

上記2つの型に比べ、格変化した際に語尾にアクセントが現れる割合が多い。2音節の語であれば語頭に現れるのは下降アクセントである(語例: vasミヤマガラス〉、〈三月〉, arklỹs 〈馬〉, galvà 〈頭〉, gerklė̃ 〈喉〉, širdìs 〈心臓〉)。 また、3音節の名詞には(3a)と(3b)の区別が存在する。異なるのは、語頭にアクセントが来る場合には前者が下降アクセントを持ち、後者は短アクセントないし上昇アクセントを持つという点である(語例: áugalas (3a) 〈植物〉; ãmatas (3b) 〈手工芸〉)。(3a)および(3b)型名詞の中には主格単数形は2音節であるものの、格変化すると3音節に変わるものも含まれる(語例: vanduõ (3a) 〈水〉; vaidmuõ (3b) 〈役割〉, sesuõ (3b) 〈姉妹〉)。

タイプ (4)

(3)と同様、格変化形の語尾にアクセントが現れる割合が多い型であるが、更に(2)と同じく対格複数形と具格単数形の語尾には短アクセントが来る。2音節の語であれば、語頭に現れるのは短アクセントもしくは上昇アクセントである(語例: var̃das 〈名〉, spyglỹs 〈針葉樹の葉〉, šakà 〈枝〉, pilìs 〈城〉)。

形容詞

音節の数や語尾の形により、現れるアクセント・タイプの種類が異なってくる。

2音節

2音節の形容詞のアクセント・タイプは基本的に(3)および(4)の2種類に大別される(語例: šáltas (3) 〈冷たい〉, rūgštùs (3) 〈すっぱい〉; šil̃tas (4) 〈温かい〉, gudrùs (4) 〈利口な〉)。なお、語末が-usで且つ(3)に属する形容詞の中には、(1)の型で読まれるものも存在する(語例: áiškus 〈明らかな〉, lýgus 〈平等な〉)。

3音節以上

3音節以上の形容詞には(1)の型に属するものが多い(語例: raudónas 〈赤い〉)。語尾に-ingasを持つ形容詞もその大半が(1)型である(語例: išmintìngas 〈賢い〉, nuodìngas 〈有毒な〉)。-inisで終わる形容詞のアクセント・タイプは(1)か(2)である(語例: geležìnis (2) 〈鉄の〉)。しかし、3音節かつ-asで終わる形容詞には(3a)や(3b)に属するものが存在し、-usで終わるものには(4)の型に属するものが存在する(語例: įvairùs 〈様々な〉)。


  1. ^ 欧州委員会 (2021年12月). Europeans and their Languages - Special Eurobarometer (PDF) (Report). ここに挙げた数字は欧州委員会によって2005年11月、12月に実施された言語調査に基づいている。同調査は15歳以上のものを対象としており、当時のリトアニアの該当人口は2,803,661人で(12頁)、リトアニア母語話者率88%(2頁)より算出。Ethnologueのデータによれば全世界での話者人口は3,130,970人(1998年)となっている([1])参照。
  2. ^ Ethnologue.com, 閲覧日: 2018/05/07
  3. ^ Ethnologue.com, Also Spoken In:の項より。 閲覧日: 2018/05/07
  4. ^ Girdenis & Zinkevičius 1966.
  5. ^ 村田郁夫 1992, p. 762.
  6. ^ Laigonaitė 1958, pp. 82–83.
  7. ^ 小坂隆一 (2009年11月20日). “11月20日(金)”. ポルトガル駅カフェ. 2015年9月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年10月9日閲覧。
  8. ^ https://lrc.la.utexas.edu/eieol/litol/20#grammar_309
  9. ^ https://lrc.la.utexas.edu/eieol/litol/20#grammar_310
  10. ^ Ramonienė & Pribušauskaitė 2008, pp. 191, 313.
  11. ^ Valeckienė 1998, p. 146.
  12. ^ Ramonienė & Pribušauskaitė 2008, p. 191.
  13. ^ Ramonienė & Pribušauskaitė 2008, pp. 148, 313.
  14. ^ Kuri įvardžio „pats“ kilmininko forma taisyklinga: „paties“ ar „pačio“?
  15. ^ a b c Rimkutė 2011.
  16. ^ https://lrc.la.utexas.edu/eieol/litol/40#grammar_337
  17. ^ 櫻井映子 2007, p. 68.
  18. ^ a b 櫻井映子 2004, p. 130.
  19. ^ 櫻井映子 2004, p. 144.
  20. ^ Kristijonas Donelaitis. Metai.
  21. ^ a b Klimas 1987.
  22. ^ Vaičiulytė-Romančuk 2006, pp. 187–188.
  23. ^ 小坂隆一 (2009年6月19日). “6月19日(金)”. ポルトガル駅カフェ. 2016年3月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年10月9日閲覧。
  24. ^ アーカイブされたコピー”. 2012年2月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年2月6日閲覧。


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