ドリトル先生シリーズ
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シリーズ各巻
シリーズは全12冊と番外編2冊。挿絵も作者であるロフティングの自筆画が使われている(日本では岩波書店版のみ)。また、日本語版の表題は原則として岩波書店版に準じる。刊行年は米国(1 - 9巻と番外編はF・A・ストークス社、10 - 12巻はJ・B・リッピンコット社)とイギリス(全巻ともジョナサン・ケープ社)の原書、日本語訳(主に岩波書店)の初刊についてそれぞれ記述する。
- 第1巻『ドリトル先生アフリカゆき』
- The Story of Doctor Dolittle
- 発行年: / 1922年 / 1941年(白林少年館)
- 第2巻『ドリトル先生航海記』
- The Voyages of Doctor Dolittle
- 発行年: 1922年 / 1923年 / 1952年(講談社・世界名作全集)
- 第2回ニューベリー賞受賞。
- 第3巻『ドリトル先生の郵便局』
- Doctor Dolittle's Post Office
- 発行年: 1923年 / 1924年 / 1952年(岩波少年文庫)
- 第4巻『ドリトル先生のサーカス』
- Doctor Dolittle's Circus
- 発行年: 1924年 / 1925年 / 1952年(岩波少年文庫)
- 第5巻『ドリトル先生の動物園』
- Doctor Dolittle's Zoo
- 発行年: 1925年 / 1926年 / 1961年(岩波書店・全集)
- 第6巻『ドリトル先生のキャラバン』
- Doctor Dolittle's Caravan
- 発行年: 1926年 / 1927年 / 1953年(岩波少年文庫)
- 第7巻『ドリトル先生と月からの使い』
- Doctor Dolittle's Garden
- 発行年: 1927年 / 1928年 / 1962年(岩波書店・全集)
- 第8巻『ドリトル先生月へゆく』
- Doctor Dolittle in the Moon
- 発行年: 1928年 / 1929年 / 1955年(岩波少年文庫)
- 第9巻『ドリトル先生月から帰る』
- Doctor Dolittle's Return
- 発行年: 1933年 / 1933年 / 1962年(岩波書店・全集)
- 第10巻『ドリトル先生と秘密の湖』
- Doctor Dolittle and the Secret Lake
- 発行年: 1948年 / 1949年 / 1961年(岩波書店・全集)
- 第11巻『ドリトル先生と緑のカナリア』
- Doctor Dolittle and the Green Canary
- 発行年: 1950年 / 1951年 / 1961年(岩波書店・全集)
- 遺稿を夫人とその妹が整理して刊行された。
- 第12巻『ドリトル先生の楽しい家』
- Doctor Dolittle's Puddleby Adventures
- 発行年: 1952年 / 1953年 / 1962年(岩波書店・全集)
- 短編集。前巻と同様、遺稿を夫人とその妹が整理して刊行された。
- 番外編『ガブガブの本』
- Gub-Gub's Book, An Encyclopaedia of Food
- 発行年: 1932年 / 1932年 / 2002年(国書刊行会)
上記の他、誕生日に合わせて1日ごとにイラストと『月から帰る』までの本編中の台詞を添えた"Doctor Dolittle’s Birthday book"(ドリトル先生のバースデー・ブック)という本が1935年に刊行されているが、日本語訳は未刊行となっている。また、"Doctor Dolittle Meets a Londoner in Paris"(ドリトル先生、パリでロンドンっ子と出会う)という短編小説が1925年に発表されているが、岩波版では収録されず角川つばさ文庫版にのみ日本語訳が存在する。
原書は米国のリッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンス、イギリスのジョナサン・ケープとも絶版となっているがイギリスでは米国で絶版になっていた期間もPuffin Booksから刊行され、米国では1997年以降に問題とされた箇所を修正した改訂版がランダムハウス系列のRed FoxやYearling Booksから刊行されている。
日本語訳
日本における最初の翻訳は、大槻憲二が博文館の雑誌『少年世界』1925年1月号から12月号まで第2巻『航海記』を『ドーリットル博士の航海』の表題で連載したものであるが、単行本化はされなかった[12]。この連載では、小笠原寛二の挿画が使われている。
第二次世界大戦中に児童文学作家の石井桃子が、近所に住んでいた井伏鱒二に本作を薦め、井伏が石井の下訳を基に第1巻『アフリカゆき』を翻訳した。この訳は『ドリトル先生「アフリカ行き」』の表題で石井が設立した白林少年館から1941年に出版されたが、ほどなくして白林少年館は倒産してしまう。その後、講談社の雑誌『少年倶楽部』において『航海記』を『ドリトル先生船の旅』の表題で連載していた井伏は陸軍に徴用され、本書の翻訳は一時中断した。終戦後、帰国した井伏は引き続きシリーズ各巻の翻訳を継続し、1962年に全12巻の翻訳が完成した。井伏訳は児童文学作品であることを考慮し、全編にわたって読みやすい口語の文体を採用しており、名訳として評価が高い[18]。しかし翻訳作業が行われた時期が古いこともあり、トリュフを「松露」と訳すなど、現代においては馴染まない訳語を使っていることも多い。この井伏訳は岩波少年文庫と愛蔵版ハードカバー『ドリトル先生物語全集』として現在も版を重ねている。
2000年代までは井伏訳が唯一の全巻(番外編を除く)訳であったが、2008年に原作者・ロフティングの日本における著作権の保護期間が戦時加算分を含めて満了したことを受け、2011年5月より河合祥一郎の新訳版が角川つばさ文庫から順次、刊行されている[19]。河合訳では井伏訳の「オランダボウフウ」を原文通り「パースニップ」としたのを始め、井伏訳では、前述した「松露」のようにもっぱら意訳されていた、日本に馴染みの薄いイギリス風の料理や菓子、食材の名称を出来るだけ原文から忠実に訳し、あとがきで料理に関する解説を加えている点とポンドやシリング、ペニーなどの通貨単位を現代基準の日本円(概ね1ペニー=100円)に換算している点が特徴である。なお、前述の"Pushmi-pullyu"は井伏訳「オシツオサレツ」を踏襲せず「ボクコチキミアチ」と訳している。この新訳では岩波版と異なりロフティング自筆の挿画でなく、日本のイラストレーター・pattyが新規に描いたイラストを使用している。
河合訳以外で2008年以降に公表された新訳は、大半が第1巻『アフリカゆき』と第2巻『航海記』のもので、小林みき訳(ポプラポケット文庫)や[20]、麻野一哉訳などが存在する[21]。
なお、番外編『ガブガブの本』は、光吉夏弥が一部エピソードのみを抄訳した『たべものどろぼうと名たんてい』が1957年に光文社より刊行されたものの、岩波版には採録されず、『アフリカゆき』巻末の石井桃子による解説でも言及されていなかったが、2002年に南條竹則が全編を訳して国書刊行会より出版された。
2021年4月、福岡伸一による新解釈の連載小説「ドリトル先生ガラパゴスを救う」が朝日新聞朝刊教育面で開始された。スタビンズが「私の没後50年過ぎたら公開してよろしい」という遺言に基づいて公表した形を採っている[22]。
- ^ 1920年刊のシリーズ第1作『アフリカゆき』以降、全て米国で初刊のためアメリカ文学に分類される場合もあるが、ロフティングは米国へ移住した後も生涯にわたりイギリス国籍を保持し続けていた。
- ^ 『緑のカナリア』と『楽しい家』でオルガ・フリッカーは"Olga Michael"(オルガ・マイクル)のペンネームを用いている。
- ^ “特別展「Novelists and Newspapers: The Golden Age 1900-1939―新聞の中の文学:黄金時代1900-1939」”. 東京大学. 2020年1月13日閲覧。
- ^ 『岩波-ケンブリッジ 世界人名事典』(岩波書店, 1997年), p1267(「ロフティング」の項)。この間、番外編の『ガブガブの本』が1932年に刊行されている。
- ^ a b 米国における絶版の経緯については岩波書店版(1978年の改版以降)における石井桃子の解説に詳しい。
- ^ 『The White Man's Indian: Images of the American Indian from Columbus to the Present』(Robert F. BerkhoferVintage; 1st Vintage Books ed edition)
- ^ 初版 ISBN 0-397-30937-6 。1990年代にも何度かペーパーバック版が刊行されている。
- ^ 小林みき「ドリトル先生」(ポプラポケット文庫、2009年)訳者あとがき。
- ^ 朝日新聞、2002年2月4日付。
- ^ 南條「井伏鱒二との幸福な出会い」(『考える人』2010年冬号, p66-71)
- ^ 例えば、テレビドラマ化もされた日本の漫画『獣医ドリトル』(原作・夏緑、作画・ちくやまきよし)の主人公・鳥取(とっとり)健一は姓の「鳥取」が「ドリトル」とも訓読み可能なことと、獣医師として高い腕前を有することの二通りの意味から作中で「ドリトル」と呼ばれている。
- ^ a b 『図説 児童文学翻訳大事典』(大空社、2007年)3巻, p841。
- ^ 龍口直太郎編訳のニュー・メソッド英文対訳シリーズ『ドゥリトル先生物語』(評論社・1961年刊、原作は『アフリカゆき』)や、C・W・ニコルが脚色した『航海記』を原作とする絵本『ドゥリトル先生海をゆく』(ラボ教育センター・1977年刊)など。
- ^ 『郵便局』第2部1章。この州(シャイア)は架空の地名だが、やや綴りの異なるシュロップシャー(Shropshire)という州はイングランド中西部に実在する。
- ^ サラは後にディングル家へ嫁ぎ、第4巻「サーカス」で再登場する。
- ^ 『動物園』では先生が大学を卒業した際に、先生の母親が記念にカメオの肖像を作らせたことが僅かに述べられている。
- ^ 『ドリトル先生のサーカス』でその司会能力を天才と評されている
- ^ 東京書籍『児童文学事典』(1988年), p829-830の項目「ロフティング」や小学館『日本大百科全書』(1994年版)第12巻, p271の項目「ドリトル先生」(執筆者は児童文学作家・八木田宜子)など。
- ^ 編集・発行はアスキー・メディアワークス。
- ^ ポプラポケット文庫 世界の名作(427-1) ドリトル先生(ポプラ社)
- ^ 新訳ドリトル先生、電子書籍版無料公開中!」(NEWS本の雑誌)
- ^ ドリトル先生の新物語 生物学者・福岡伸一さんが連載で朝日新聞2021年3月13日
- ^ “www.nhk.or.jp”. 2023年12月5日閲覧。
- ^ ほか、井出涼太、森功至ら。
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