ウイルス 発見

ウイルス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/21 17:04 UTC 版)

発見

粒子状物質の分類(マイクロメートル)

微生物学の歴史は、1674年オランダレーウェンフックが、顕微鏡観察によって細菌を見出したことに始まり、その後1860年にフランスのルイ・パスツール生物学醸造学における細菌の意義を、1876年ドイツロベルト・コッホが、医学における細菌の意義を明らかにしたことで大きく展開した。特にコッホが発見し提唱した「感染症病原性細菌によって起きる」という考えが医学に与えた影響は大きく、それ以降、感染症の原因は寄生虫を除いて、全て細菌によるものだと考えられていた。

1892年ロシアドミトリー・イワノフスキーは、タバコモザイク病の病原が細菌濾過器(当時は粘土素焼きしたもの)を通過しても感染性を失わないことを発見。それが細菌よりも微小な、光学顕微鏡では観察できない存在であることを報告した。しかし、病原体は細菌であるという考えを捨てきれなかった。またこの研究とは別に、1898年にドイツのフリードリヒ・レフラーパウル・フロッシュ口蹄疫の病原体の分離を試み、これが同様の存在であることを突き止め、「filterable virus(濾過性病原体)」と呼称した。同年にオランダのマルティヌス・ベイエリンクはイワノフスキーと同様の研究を行って、同じように見出された未知の性質を持つ病原体を「Contagium vivum fluidum(生命を持った感染性の液体)」と呼んだ。

レフラーは濾過性病原体を小さな細菌と考えていたが、ベイエリンクは分子であると考え、これが細胞に感染して増殖すると主張した。彼の主張はすぐには受け入れられなかったが、同様の性質をもった病原体やファージが発見されていくことで、一般にもウイルスの存在が信じられるようになった。その後、物理化学的な性質が徐々に解明され、ウイルスはタンパク質からできていると考えられた。

1935年アメリカ合衆国ウェンデル・スタンリーがタバコモザイクウイルスの結晶化に成功し、これによってウイルスは電子顕微鏡によって初めて可視化されることとなった[26]。また彼の発見したこの結晶は、感染能を持っていることを示し、化学物質のように結晶化できる生物の存在は生物学・科学界に衝撃を与えた。彼はこの業績により、1946年ノーベル化学賞を受賞した[27]

スタンリーは、ウイルスが自己触媒能を持つ巨大なタンパク質であるとしたが、翌年に少量のRNAが含まれることが示された。当時は遺伝子の正体は未解明であり、遺伝子タンパク質説が有力とされていた。当時は、病原体は能動的に病気を引き起こすと考えられていたので、分子ロボット(今で言うナノマシン)のようなもので、人が病気になるということに科学者たちは驚いた。それでも当時はまだ、病原体であるには細菌ほどの複雑な構造、少なくとも自己のタンパク質をコードする遺伝子ぐらいは、最低限持っていなくては病原体になりえない、と思われていた。

1952年に行われたハーシーとチェイスの実験は、バクテリオファージにおいてDNAが遺伝子の役割を持つことを明らかにし[28]、これを契機にウイルスの繁殖、ひいてはウイルスの性質そのものの研究が進むようになった。同時に、この実験は生物の遺伝子がDNAであることを示したものと解せられた。

その後の研究で、大きさやゲノム、遺伝子の数で一部の細菌を上回るウイルスも発見されるようになった。750nmというサイズから1992年に細菌と誤認された「ブラッドフォード球菌」は、電子顕微鏡による解析が進められて、2003年にウイルスだったと確認された(ミミウイルス)。2013年には長径1000nmのパンドラウイルス、翌2014年には長径1500nmの「ピソウイルス」が発見された[29](「巨大核質DNAウイルス」参照)。


注釈

  1. ^ 日本細菌学会が意訳。中国語に取り入れられ、現在でも使用されている。
  2. ^ 労働安全衛生規則(昭和四十七年労働省令第三十二号)第61条第1項第1号”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局. 2019年12月17日閲覧。に「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者」とあるが、この場合の伝染性疾患とは結核を指すとされている(労働安全衛生規則等の一部を改正する省令の施行について 平成12年3月30日・基発第207号より)。すなわち、この場合の病毒はウイルスではなく、細菌である結核菌を指す。

出典

  1. ^ Virus Taxonomy: 2021 Release”. International Committee on Taxonomy of Viruses (ICTV). 2022年4月19日閲覧。
  2. ^ 「国際ウイルス分類委員会の新しい分類体系(「ICTV New Taxonomy Release(2019)」)で提唱された目より上位の分類(2020年3月承認)」神谷茂 監修、錫谷達夫・松本哲哉 編『標準微生物学 第14版』付録:表 27-4、医学書院、2021年(2022年4月19日閲覧)
  3. ^ a b 辻野 2010, p. 63.
  4. ^ 森安史典『あなたの医学書 C型肝炎・肝がん』(誠文堂新光社、2009年)17ページ ISBN 978-4-416-80933-4
  5. ^ パトリック・フォルテ―ルはパスツール研究所及びパリ=サクレ大学名誉教授。インタビュー記事「ウイルスは生命体」『朝日新聞』GLOBE(朝刊別刷り)233号/2020年9月6日付【特集】世界はウイルスに満ちている(7面)による。
  6. ^ 中屋敷均 2016, p. 136-137.
  7. ^ a b c d e f g h i j k l 見えざるウイルスの世界 (PDF) 東京大学医学部東京大学医学部附属病院 健康と医学の博物館(2021年8月22日閲覧)
  8. ^ 山内一也:病気を引き起こすのは「氷山の一角」『朝日新聞』GLOBE(朝刊別刷り)233号/2020年9月6日付【特集】世界はウイルスに満ちている(3面)
  9. ^ 国際組織「生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム」(IPBES)による。【環境】パンデミックを防ぐため、世界的な自然保護政策を、報告書/哺乳類や鳥類に未知のウイルスは推定170万種、うち85万が人間に感染する恐れ ナショナルジオグラフィック日本語サイト(2020年11月4 日)2021年6月24日閲覧
  10. ^ Definition of "virus" > Translations for 'virus' (Collins English Dictionary)
  11. ^ William T. Stearn: Botanical Latin. History, Grammar, Syntax, Terminology and Vocabulary. Third edition, David & Charles, 1983. 「Virus: virus (s.n. II), gen. sing. viri, nom. pl. vira, gen. pl. vīrorum (to be distinguished from virorum, of men).」
  12. ^ Pons: virus
  13. ^ e.g. Michael Worboys: Cambridge History of Medicine: Spreading Germs: Disease Theories and Medical Practice in Britain, 1865-1900, Cambridge University Press, 2000, p. 204
  14. ^ e.g. Karsten Buschard & Rikke Thon: Diabetic Animal Models. In: Handbook of Laboratory Animal Science. Second Edition. Volume II: Animal Models, edited by Jann Hau & Gerald L. Van Hoosier Jr., CRC Press, 2003, p.163 & 166
  15. ^ 『文章表現辞典』(東京堂出版、1965年)p.48
  16. ^ 野田省吾「学術集談会演説要旨」『実験医学雑誌』1937年 21巻 4号 pp.385-388, doi:10.3412/jsb1917.21.4_38
  17. ^ 遠藤保太郎「植物のヷイラス病」『蠶絲學雜誌』7(3): 195-207(1935), hdl:10091/6066
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  20. ^ 田久保茂樹,川久保義典「家兎ニヨル發疹チフス病毒ノ實驗的研究」『細菌學雜誌』1930年 1930巻 416号 pp.643-652, doi:10.14828/jsb1895.1930.643
  21. ^ 日本ウイルス学会について”. 日本ウイルス学会ホームページ. 2020年4月6日閲覧。
  22. ^ 日本植物病理学会編 (1995). 植物病理学事典. 養賢堂. p. 91 
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  24. ^ a b c 細菌とウイルスとの違い? - 東邦微生物病研究所
  25. ^ Krupovic M, Koonin EV (February 2015). "Polintons: a hotbed of eukaryotic virus, transposon and plasmid evolution". Nat Rev Microbiol. 13 (2): 105–115. doi:10.1038/nrmicro3389. PMC 5898198. PMID 25534808. 2020年6月10日閲覧
  26. ^ 加藤茂孝『人類と感染症の歴史 未知なる恐怖を越えて』(丸善出版 平成25年3月30日発行)p.4
  27. ^ Wendell M. Stanley - Facts”. NobelPrize.org. 2020年4月6日閲覧。
  28. ^ ハーシーとチェイスの実験”. 生物分子科学科 > 高校生のための科学用語集 > 生物用語. 東邦大学理学部. 2013年5月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年4月6日閲覧。
  29. ^ 驚異のウイルスたち(3)「巨大」出現 新生命体へ進化?多数の遺伝子 揺らぐ定義日本経済新聞』朝刊2020年6月7日(サイエンス面)2020年6月10日閲覧
  30. ^ Coronavirus Resource Center” (英語). Harvard Health (2020年2月28日). 2022年6月12日閲覧。
  31. ^ 日本ウイルス療法学会が発足、理事長は東大医科研の藤堂具紀教授」日経バイオテク(2022年10月31日)2022年11月26日閲覧
  32. ^ 中屋敷均 2016, pp. 27–30.






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