ウイルス 発見

ウイルス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/22 23:46 UTC 版)

発見

微生物学の歴史は、1674年オランダレーヴェンフックが顕微鏡観察によって細菌を見出したことに始まり、その後1860年フランスルイ・パスツール生物学や醸造学における意義を、1876年ドイツロベルト・コッホが医学における意義を明らかにしたことで大きく展開した。特にコッホが発見し提唱した「感染症が病原性細菌によって起きる」という考えが医学に与えた影響は大きく、それ以降、感染症の原因は寄生虫を除いて全て細菌によるものだと考えられていた。

1892年ロシアドミトリー・イワノフスキーは、タバコモザイク病の病原が細菌濾過器を通過しても感染性を失わないことを発見、それが細菌よりも微小な、光学顕微鏡では観察できない存在であることを報告した。またこの研究とは別に、1898年にドイツのフリードリヒ・レフラーパウル・フロッシュ口蹄疫の病原体の分離を試み、これが同様の存在であることを突き止め、「filterable virus(濾過性病原体)」と呼称した。同年にオランダのマルティヌス・ベイエリンクはイワノフスキーと同様の研究を行って、同じように見出された未知の性質を持つ病原体を「Contagium vivum fluidum(生命を持った感染性の液体)」と呼んだ。

レフラーは濾過性病原体を小さな細菌と考えていたが、ベイエリンクは分子であると考え、これが細胞に感染して増殖すると主張した。彼の主張はすぐには受け入れられなかったが、同様の性質をもった病原体やファージが発見されていくことで、一般にもウイルスの存在が信じられるようになった。その後、物理化学的な性質が徐々に解明され、ウイルスはタンパク質からできていると考えられた。1935年アメリカウェンデル・スタンリーがタバコモザイクウイルスの結晶化に成功し、これによってはじめてウイルスは電子顕微鏡によって可視化されることとなった[16]。また彼の発見したこの結晶は、感染能を持っていることを示し、化学物質のように結晶化できる生物の存在は生物学・科学界に衝撃を与えた。彼はこの業績により、1946年ノーベル化学賞を受賞した[17]。スタンリーはウイルスが自己触媒能をもつ巨大なタンパク質であるとしたが、翌年に少量のRNAが含まれることが示された。当時は遺伝子の正体は未解明であり、遺伝子タンパク質説が有力とされていた。当時は、病原体は能動的に病気を引き起こすと考えられていたので、分子ロボット(今で言うナノマシン)のようなもので人が病気になるということに当時の科学者たちは驚いた。それでも当時はまだ、病原体であるには細菌ほどの複雑な構造、少なくとも自己のタンパク質をコードする遺伝子ぐらいは最低限持っていなくては病原体になりえない、と思われていた。

1952年に行われたハーシーとチェイスの実験は、バクテリオファージにおいてDNAが遺伝子の役割を持つことを明らかにし[18]、これを契機にウイルスの繁殖、ひいてはウイルスの性質そのものの研究が進むようになった。同時に、この実験は生物の遺伝子がDNAであることを示したものと解せられた。




注釈

  1. ^ 日本細菌学会が意訳。中国語に取り入れられ、現在でも使用されている。
  2. ^ 労働安全衛生規則(昭和四十七年労働省令第三十二号)第61条第1項第1号”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局. 2019年12月17日閲覧。に「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者」とあるが、この場合の伝染性疾患とは結核を指すとされている(労働安全衛生規則等の一部を改正する省令の施行について 平成12年3月30日・基発第207号より)。すなわち、この場合の病毒はウイルスではなく、細菌である結核菌を指す。

出典

  1. ^ 森安史典『あなたの医学書 C型肝炎・肝がん』株式会社誠文堂新光社、2009年、17ページ、ISBN 978-4-416-80933-4
  2. ^ Definition of "virus" > Translations for 'virus' (Collins English Dictionary)
  3. ^ William T. Stearn: Botanical Latin. History, Grammar, Syntax, Terminology and Vocabulary. Third edition, David & Charles, 1983. 「Virus: virus (s.n. II), gen. sing. viri, nom. pl. vira, gen. pl. vīrorum (to be distinguished from virorum, of men).」
  4. ^ Pons: virus
  5. ^ e.g. Michael Worboys: Cambridge History of Medicine: Spreading Germs: Disease Theories and Medical Practice in Britain, 1865-1900, Cambridge University Press, 2000, p. 204
  6. ^ e.g. Karsten Buschard & Rikke Thon: Diabetic Animal Models. In: Handbook of Laboratory Animal Science. Second Edition. Volume II: Animal Models, edited by Jann Hau & Gerald L. Van Hoosier Jr., CRC Press, 2003, p. 163 & 166
  7. ^ 文章表現辞典(東京堂出版 1965年) p.48
  8. ^ 野田省吾、「学術集談会演説要旨」 実験医学雑誌 1937年 21巻 4号 p.385-388, doi:10.3412/jsb1917.21.4_38
  9. ^ 遠藤保太郎、「植物のヷイラス病」 蠶絲學雜誌 7(3): 195-207(1935), hdl:10091/6066
  10. ^ 深井孝之助,土佐英輔,西義美、「インフルエンザ・ヴイールスの赤血球による收着」 VIRUS., 1951年 1巻 2号 p.135-140, doi:10.2222/jsv1951.1.135
  11. ^ 波多野基一、「日本脳炎ウイールスの赤血球凝集反応 (第1報)」 VIRUS., 1952年 2巻 3号 p.187-194, doi:10.2222/jsv1951.2.187
  12. ^ 田久保茂樹,川久保義典、「家兎ニヨル發疹チフス病毒ノ實驗的研究」 細菌學雜誌 1930年 1930巻 416号 p.643-652, doi:10.14828/jsb1895.1930.643
  13. ^ 日本ウイルス学会について”. 日本ウイルス学会ホームページ. 2020年4月6日閲覧。
  14. ^ 日本植物病理学会編 (1995). 植物病理学事典. 養賢堂. p. 91 
  15. ^ マシューズ、ホルダ、アハーン『カラー生化学』西村書店刊、2003年5月15日発行(16ページ)
  16. ^ 「人類と感染症の歴史 未知なる恐怖を越えて」p4 加藤茂孝 丸善出版 平成25年3月30日発行
  17. ^ Wendell M. Stanley - Facts”. NobelPrize.org. 2020年4月6日閲覧。
  18. ^ ハーシーとチェイスの実験”. 生物分子科学科 > 高校生のための科学用語集 > 生物用語. 東邦大学理学部. 2013年5月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年4月6日閲覧。





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