アカハライモリ 分布

アカハライモリ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/16 09:07 UTC 版)

分布

日本の固有種本州四国九州とその周囲の島嶼に分布する[2]、当該地域に分布するイモリとしては唯一の種でもある。島嶼では佐渡島隠岐諸島壱岐島五島列島大隅諸島まで分布するが、対馬島には分布していない。大隅諸島では近年、生息の確認は無い。北海道伊豆諸島などには本来分布していなかったが、人為的に移入されたものが増えており問題となっている。

なお、奄美大島から沖縄本島にはシリケンイモリイボイモリが分布する。

形態

全長は10cm前後で、2対4本の短い前足及び2対5本の後ろ足と長い尾を持つ。サンショウウオ類と異なり皮膚がザラザラしている。背中側は黒-茶褐色で、腹は赤地に黒の斑点模様になっている。赤みや斑点模様は地域差や個体差があり、ほとんど黒いものや全く斑点が無いもの、逆に背中まで赤いものもいる。

フグと同じテトロドトキシンという毒があり、腹の赤黒の斑点模様は毒を持つことを他の動物に知らせる警戒色になっていると考えられている。陸上で強い物理刺激を受けると横に倒れて体を反らせ、赤い腹を見せる動作を行う。

(動画) アカハライモリ

再生

イモリは脊椎動物としては、特に再生能力が高いことでも知られている。たとえば、を切ったとしても本種では完全に骨まで再生するほか、また四肢を肩の関節より先で切断しても指先まで完全に再生し、さらにはのレンズも再生することができる[3]。この性質は教科書にも記載されている。多くの脊椎動物ではこれらの部位は再生できない。ちなみに、尾を自切して再生することが知られているトカゲでも、尾骨までは再生しない。

イモリの再生能力は、ヒトの皮膚治療など再生医学への応用を視野に入れた研究対象になっている[4]

なお、この再生能力の高さは、生態学的研究の立場からは障害になる場合がある。個体識別をするためのマーキングが困難となるためである。一般に小型の両生類や爬虫類では様々なパターンで足指を切ってマーキングしたり個体識別(トークリッピング)を行うが、イモリの場合には簡単に再生してしまう。尾に切れ込みを入れても、傷が浅ければすぐに再生する。さらに札などを縫いつけても、やはり皮膚が切れて外れやすく、その傷もすぐに癒えてしまう。

生態

水田の淀みなど流れのない淡水中に生息する。繁殖期以外は水辺の近くの林や、クズなどの茂る草地の水気の多い枯れ草の下などに潜むことが多い。本種の成体は繁殖期以外も水中で生活することが多い。ただしの日には水から出て移動することもある。冬は水路の落ち葉の下や水辺近くの石の下などで冬眠する。

ユスリカミズムシ類などの昆虫を中心に、他の両生類の卵や幼生といった小型生物を捕食する[5]モリアオガエルアベサンショウウオなど、希少な両生類の生息地では厄介者とされる[6]

和名の「井守」は、野井戸の中にも生息するので「井戸を守る」に由来するという説や、井は田んぼを意味し、水田に生息することから「田を守る」との意味に由来するという説がある。

名前がヤモリと似ている。しかし、ヤモリは爬虫類であること、人家の外壁などに生息し一生を通じて水中に入ることがないこと、変態をしないことなどが、イモリとの相違点である。

繁殖行動

春になり気温が上昇し始めると、成体が水中に姿を現す。オスがメスの行く先に回り込み、紫色の婚姻色を呈した尾を身体の横まで曲げて小刻みに振るわせるなど複雑な求愛行動を行う[7]。このときにオスが分泌するフェロモンであるソデフリン(sodefrin、額田王の短歌「茜さす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」にちなむ)が、脊椎動物初のペプチドフェロモンとして報告されている。メスが受け入れる態勢になると、メスはオスの後ろについて歩き、オスの尾に触れる合図を送ると、オスが精子嚢を落としメスが総排出腔から取り込む。その際にオスの求愛行動に地域差があり、地域が異なる個体間では交配が成立しにくいといわれる。

生活史

メスは、寒天質に包まれた受精卵を水中の水草の葉にくるむように1つずつ産卵する。流水に産卵する種類がいるサンショウウオ類に対し、アカハライモリは水たまり、池、川の淀みなど流れの無い止水域で産卵・発生する。

卵から孵った幼生はアホロートルのような外(えら)があり、さらにバランサーという突起をもつ。幼生ははじめのうちは足も生えていないが、やがて前後の脚が生える。ただしカエルオタマジャクシ)はまず後脚から生えるが、イモリは前脚が先に生える。外鰓があるうちは水中で小動物を食べて成長するが、口に入りそうな動くものには何にでも食いつくため、共食いすることもある。

幼生は十分成長すると、外鰓が消えて成体と同じような形の幼体となり、上陸する。幼生の皮膚は滑らかだが、幼体の皮膚は成体と同じくざらざらしており、乾燥には幾分抵抗性がある。そのため、上陸した幼体を無理に水に戻すと、皮膚が水をはじいて気泡がまとわりつき、銀色に見えることがある。幼体は、森林内などで小さな昆虫や陸棲貝類、ミミズなどの土壌動物を捕食して3-5年かけて成長し、成熟すると再び水域に戻ってくる。


  1. ^ Yoshio Kaneko, Masafumi Matsui 2004. Cynops pyrrhogaster. The IUCN Red List of Threatened Species. Version 2014.3. <www.iucnredlist.org>. Downloaded on 06 May 2015.
  2. ^ a b 蓮沼至 (2018). “アカハライモリ”. 比較内分泌学 (日本比較内分泌学会) 44 (163): 12–14. doi:10.5983/nl2008jsce.44.12. ISSN 1882-6636. https://doi.org/10.5983/nl2008jsce.44.12. 
  3. ^ 山舗直子, 小櫃諒子「アカハライモリCynopus pyrrhogaster成体における尾の再生」『酪農学園大学紀要 自然科学編』第1巻第39号、酪農学園大学、2014年10月、81-86頁。 
  4. ^ 【NextTech2050】イモリの高い再生能力に学ぶ 傷痕のない皮膚治療めざす日経産業新聞』2022年2月18日イノベーション面(2022年4月28日閲覧)
  5. ^ 中川光,草野保「東京都八王子市南大沢におけるアカハライモリ (Cynops pyrrhogaster) の食性」『爬虫両生類学会報』第1巻第2007号、日本爬虫両棲類学会、2007年、1-5頁、doi:10.14880/hrghsj1999.2007.1 
  6. ^ 希少なアカハライモリとモリアオガエルの保全活動について~中部横断横断道の取組~”. 国土交通省関東地方整備局甲府河川国道事務所. 2020年4月3日閲覧。
  7. ^ 蓮沼至, 豊田ふみよ, 山本和俊 ほか「プロラクチンおよびアルギニンバソトシンによるアカハライモリ求愛行動発現機構」『C比較内分泌学』第37巻第141号、2011年、81–85頁、doi:10.5983/nl2008jsce.37.81ISSN 1882-6636 
  8. ^ 環境省
  9. ^ 『商売打明話 : 家庭の経済知識』 (時事新報社経済部編、宝文館、昭和4年)p.112
  10. ^ 蠑螈の黑燒『自然之友. 苐五巻 自然界の迷信』 (開発社, 1901年)





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