いすゞ自動車 概要

いすゞ自動車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/05 03:21 UTC 版)

概要

中国公安に採用されているいすゞ・エルフ
五十鈴」(五十铃)の文字が読み取れる

「いすゞ」の名は、伊勢神宮(三重県伊勢市)の境内に沿って流れ、神宮における潔斎の場ともなる五十鈴川に由来する[2][5][10][注釈 2]。元は商工省標準形式自動車として、前身となったメーカー各社と当時の鉄道省によって1933年昭和8年)に共同開発された大型自動車(のちのいすゞ・TXBX系各車の原型)に翌1934年(昭和9年)に付けられた車名である[2][5][10]。以後、合併や社名変更などの変遷を経ながら、太平洋戦争直前から戦時中にかけ、大型車両とこれに搭載する高速ディーゼルエンジンの分野で、国策企業として開発をリードした。

太平洋戦争後トラックバスなど、大型ディーゼル自動車の生産で日本を代表するメーカーとなった。1953年(昭和28年)以降はイギリス車のヒルマンノックダウン乗用車生産にも進出し、総合自動車メーカーを目指した。

かつてはトヨタ自動車日産自動車とともに日本自動車業界の御三家とも言われていたが[11]、乗用車部門は長らく不振であり、1990年代から経営危機に陥りリストラを繰り返すようになった。

1993年平成5年)にはワンボックスカー[注釈 3]SUVを除く乗用車の自社開発・生産から撤退し、日本国内では本田技研工業(ホンダ)などからOEM供給を受けて販売を続けた。これは乗用車用ディーゼルエンジンやSUV[注釈 4]、ミニバン[注釈 5]についてはホンダと相互協力関係にあったためで、2002年(平成14年)に自社生産していたビッグホーンウィザードなどのSUVを含む乗用車の販売から撤退するまで、ホンダからのOEM供給を受けていた(ただし、撤退後も販売していた初代コモワゴンは8人/10人乗りの乗用車として販売された)。

また、関連企業との合併による拠点の集約などを行う一方、1万人規模となる極めて大規模な人員削減などを行った。株価が一時、自動車メーカーとしては最低の31円まで落ち込むなど事態は極めて深刻であったが、みずほ銀行ゼネラルモーターズ(GM)の大掛かりな支援があり[12]、加えてディーゼル自動車排気ガス規制強化(いわゆるNOx規制など)を発端とする商用車トラックバスなど)の買い換え特需もあり、再建に成功することができた。

米国ではGMからSUVとピックアップトラックのOEM供給を受けて販売を続けていたが、2009年(平成21年)1月31日をもって販売を終了した。その結果、販売ディーラーは既存ユーザーのためのアフターケア・サポート事業のみ存続していくことになった。現在[いつ?]、主に個人向けとして販売が行われている車種には、東南アジア南アフリカなど向けのピックアップトラックとSUVに加え、東南アジアとインド専売のMPVがある。

1971年(昭和46年)から2006年(平成18年)まで米国・ゼネラルモーターズ(GM)が一部のいすゞ株を保有しており、GMの関連会社であったが、同年4月にGMとの資本関係を解消した。

GMとの資本提携解消後は、同年11月7日にトヨタ自動車と資本・業務提携を行うことを発表した。すでにトヨタグループ入りしていた日野自動車とはバス事業を統合してジェイ・バス株式会社の発足を行っており、今後については乗用車用ディーゼルエンジンの開発や環境技術での連携(景気後退により一時凍結[13])、トラック部門での連携強化の可能性が考えられていたが、2018年(平成30年)8月にトヨタとの資本・業務提携を解消した[注釈 6]。しかし今後のトラックの電動化を視野に入れて、2021年令和3年)3月24日に、トヨタ自動車と再度資本・業務提携することが発表された[14]

2019年(令和元年)12月、ボルボ・グループ(以下、ボルボ)と商用車分野での戦略的提携に向けて覚書を締結し、ボルボ子会社UDトラックスの全株と、UDブランドで展開する海外事業を取得すると発表した[15]2020年(令和2年)10月30日には戦略的提携に関する基本契約を正式に締結し、UDトラックスを2,430億円で買収することを発表[16]。2021年(令和3年)4月1日までに取得手続きを完了し[17]、UDトラックスはいすゞグループ企業となった。

2022年(令和4年)5月9日には、東京都品川区南大井大森ベルポートA館から、神奈川県横浜市西区高島にある横濱ゲートタワーに本社や関連会社などを移転した[18][19][20][21][22][23]。なお、近隣にはUDトラックスの元親会社だった日産自動車日産グローバル本社)、および有力取引先の京浜急行電鉄京浜急行バス京急グループ本社)が本社を構えている。

みずほ銀行をメインバンクとする大企業のうち、旧第一勧業銀行の融資系列に属する企業で構成する三金会に参加する[24]。なお、UDトラックスの元親会社だった日産は、旧富士銀行の融資系列である芙蓉会に参加している。


注釈

  1. ^ これは、書家・永坂石埭の書風である。
  2. ^ 「キミの名は」(朝日新聞2014年8月23日)によれば、一般公募したが決まらず、「いすゞ」になったが、必ずしも明確ではなく、前身メーカーが製造していたトラックの車名が「スミダ」で、川つながりなどと諸説あり、同社は「記録がなく、よく分かりません」とのこと。
  3. ^ 該当車種はいすゞ・ファーゴ
  4. ^ 該当車種はいすゞ・ビッグホーンホンダ・ホライゾンいすゞ・ミューホンダ・ジャズ
  5. ^ 該当車種はホンダ・オデッセイいすゞ・オアシス
  6. ^ 現在は国内トラックメーカー4社(いすゞ・日野三菱ふそうUDトラックス)のうち、唯一国内外の他の自動車メーカーの系列に属さない独立系の会社である。

出典

  1. ^ いすゞ自動車株式会社 定款 第1章第1条
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ISUZU:沿革:創業~1979”. いすゞ自動車. 2020年9月6日閲覧。
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  5. ^ a b c d “いすゞ 名称統一、「五十鈴川」にちなむ” (jp). 毎日新聞. (2017年8月6日). https://mainichi.jp/articles/20170806/ddm/008/020/099000c 2020年9月6日閲覧。 
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  12. ^ 自己満足だった指導法 部下に考えさせ意識改革 いすゞ自動車 片山正則社長”. NIKKEI STYLE (2017年8月20日). 2018年7月23日閲覧。
  13. ^ いすゞ、トヨタとのディーゼルエンジン共同開発計画を凍結 - Response. 2008年12月16日(火) 16時43分版
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  15. ^ a b いすゞとボルボ・グループ、商用車分野での戦略的提携に関する覚書を締結”. いすゞ自動車、ボルボ・グループ (2019年12月18日). 2020年4月8日閲覧。
  16. ^ a b いすゞとボルボが提携契約 いすゞ傘下にUDトラックス 共同購買で相乗効果 先進領域での開発加速”. 日刊自動車新聞 電子版 (2020年11月2日). 2020年11月3日閲覧。
  17. ^ a b いすゞとボルボ・グループ、戦略的提携を本格的に開始”. いすゞ自動車、ボルボ・グループ (2021年4月1日). 2021年4月5日閲覧。
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  19. ^ いすゞ自動車株式会社 横浜・みなとみらい21地区に本社移転を決定!横浜市経済局 令和元年 (2019年) 12月24日)
  20. ^ 横浜市が「横濱ゲートタワープロジェクト」の事業計画を認定ヨコハマ経済新聞 2021年4月30日)
  21. ^ いすゞ、22年「創業の地」から横浜に本社移転 次の100年へ心機一転(一般社団法人日本自動車会議所:自動車産業インフォメーション 2021年9月7日)
  22. ^ a b いすゞ、橫浜に本社移転 5月9日に業務開始日刊自動車新聞電子版 2022年4月27日)
  23. ^ a b いすゞ、横浜に本社移転 創業の地の大森から(日本経済新聞 2022年5月9日)
  24. ^ 田中彰六大企業集団の無機能化: ポストバブル期における企業間ネットワークのオーガナイジング」『同志社商学』 2013年 64巻 5号 p.330-351, doi:10.14988/pa.2017.0000013201
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