UPシリーズにおける観察者効果の問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/11 04:15 UTC 版)
「UPシリーズ」の記事における「UPシリーズにおける観察者効果の問題」の解説
観察者効果とは、例えば、顕微鏡で物質を観察する際に、観察対象物質にライトを当てると、その光線や熱の影響で物質に変化が生じてしまう、といった効果をさす。これと同じような効果(変化)が、カメラが介在することで取材対象者の上にも生じるのは当然で、盗撮作品を除く全てのドキュメンタリー作品は、観察者効果をどう処理するかという問題から逃れることができない。 さて、UPシリーズ制作当初のテーマは、前述のとおり、「英国社会における階級格差存在の証明」であったわけだが、シリーズが進むにつれて、より大きな問題として浮上してきたのが、この観察者効果の問題である。 言うまでもなく、このシリーズの出演者たちは、7年ごとに英国内はもちろん、世界中にその顔や発言が晒されることになる。当然彼らの人生は、7年ごとにやってくるカメラを意識したものにならざるをえない。また、彼らは、自分の足跡・変化を、このシリーズの視聴を通じて確認しながらその人生を歩むことになる。他の出演者たちの人生との差異や類似性も、7年ごとに確認・計量することを強いられる。 こうしたことで、取材対象者に現れる観察者効果は非常に大きい。つまり、観察者効果が大きく作用することで、取材対象者たちは、自らの人生を常人とは比較にならないくらい意識的に生きるようになってしまう。これにより、番組制作開始時に意図されたテーマは、純粋には成立しにくくなっていると言えよう。出演者たちはもはや「典型的な各階級の代表者」ですらないのである。 この問題について、当事者であるアプテッドは、「当然、番組の存在が彼らの人生に大きな影響を与えている。Tonyのようにそれを肯定的に受け止める出演者もいれば、出演を拒否したり、自分の子供には絶対こういう思いをさせたくない、と公言する出演者もいる。しかし既にこの番組は、階級格差の存在を確認するためのものではなくなっている。1960年代から現在に至る、英国社会の変容や自分や家族の歴史を、彼らの人生を通じて振り返るための番組になっていると言える。」と述べている。 アプテッドは、「私が死んだ後に、私が人々の記憶に残るとすれば、それは間違いなく『UPシリーズの制作者』としてであり、このシリーズこそが私の代表作である」と、シリーズへの思い入れの深さを表明している。彼はこの作品の出演者たちを「家族のような存在」であるとし、「このドキュメンタリーの中で彼らの死を取り扱いたくはない。願わくは、私が最初に逝く者でありたい」と、15歳年下の取材対象者たちへの想いをも語っている。
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