SIRモデルとは? わかりやすく解説

SIRモデル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/15 02:15 UTC 版)

SIRモデル(エスアイアールモデル)は、感染症の短期的な流行過程を決定論的に記述する古典的なモデル方程式である。名称はモデルが対象とする、感受性保持者(Susceptible)、感染者(Infected)、免疫保持者(Recovered、あるいは隔離者 Removed)の頭文字にちなむ。原型となるモデルは、W・O・カーマック英語版A・G・マッケンドリック英語版の1927年の論文で提案された[1]。単純なSIRモデルであっても、1905–06年のボンベイにおけるペスト流行のデータをうまく再現することが知られている。

概要

SIRモデルの解の挙動例。縦軸は人数、横軸は時間で、青=S, 緑=I, 赤=Rである。
SIRモデルの相平面上の軌道 (S, I)。簡単のため ρ = γ/β とおくと、I + Sρ ln S = const. が成り立ち、IS = ρ のとき最大値 Imax = I0 + S0ρ ln S0ρ + ρ ln ρ をとる。
感染人口密度 I/N の時間変化と βN/γ の値の関係。

SIRモデルにおいて、全人口は感受性保持者・感染者・免疫保持者の3つへ分割され、感受性保持者Sは感受性保持者Sと感染者Iの積に比例して定率で感染者Iに移行し、感染者Iは定率で免疫保持者Rに移行する(感染期間は指数分布に従う)と仮定される。この時間発展を非線形常微分方程式で記述される連続力学系として表せば、

となる。ただし、β > 0 は感染率、γ > 0 は回復率(隔離率)を表す(逆数 1/γ は平均感染期間を表す)。これをフローチャート

のように表すこともある。

上記の3式の和を取れば、

であり、これは総人口 N(t) = S(t) + I(t) + R(t) が一定値をとる保存則(閉鎖人口の仮定)

に対応している。この保存則により、本質的に2変数の方程式である[2]

簡単のため初期値I0 = I(0) > 0, S0 = S(0) > 0 とおくと

のとき、すなわち

のとき流行が発生する(閾値現象)。この無次元量 R0基本再生産数と呼ばれる。上のような最も単純なモデルでは が成り立ち、エンデミック定常状態や周期的な流行といった現象は説明できない。

派生モデル

SIRモデルにおいて、出生・死亡などによる人口変動を考慮したモデルや、マスター方程式による確率的モデルが存在する。また、免疫獲得を考慮しないSISモデルや潜伏期間を考慮したSEIRモデルなど色々な区画モデルが知られている。他にも、感染年齢を考慮した偏微分方程式によるモデル(カーマック・マッケンドリック理論)がある。

脚注

  1. ^ W. O. Kermack and A. G. McKendrick (1927). “A Contribution to the Mathematical Theory of Epidemics”. Proc. Roy. Soc. of London. Series A 115 (772): 700-721. doi:10.1098/rspa.1927.0118.  JFM 53.0517.01
  2. ^ さらに、変数変換 s = S/N, i = I/N, τ = γt により無次元化することで、本質的に係数の個数は1つに減らすことができる。無次元化された方程式は無次元量 βN/γ の値にのみ依存する。

参考文献

  • 佐藤總夫『自然の数理と社会の数理 2』日本評論社、1984年。 ISBN 978-4535603028 
  • 稲葉寿『感染症の数理モデル』培風館、2008年。 ISBN 978-4563011376 
    • 観音幸雄 (2009), “稲葉寿編著, 感染症の数理モデル, 培風館, 2008年”, 応用数理 19 (2): 126–127, doi:10.11540/bjsiam.19.2_126 (書評)

関連項目


SIRモデル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/07 14:13 UTC 版)

疫学における区画モデル」の記事における「SIRモデル」の解説

詳細は「SIRモデル」を参照 SIRモデルは最も単純な区画モデル1つであり、多くモデルはこの基本形から派生している。本モデル3つの区画構成されている。 S 感受性susceptible個体の数。感受性個体感染個体が「感染性接触」すると、感受性個体病気感染し感染性区画移行する。 I 感染(infectious)個体数のこと。感染した個体であり、感受性個体感染させる可能性がある。 R 隔離removed)(免疫のある)個体、または死亡した個体の数。これらは、感染から回復して隔離区画入った個体、または死亡した個体である。死亡者数総人口に対して無視できるほどの数であると仮定している。この区画を「回復recovered)」または「抵抗性resistant)」と呼ぶこともある。 このモデルは、麻疹おたふくかぜ風疹といった、回復持続的な抵抗性もたらしヒトからヒト感染する感染症について合理的に予測可能である[要出典]。 これらの変数(S、I、R)は、特定の時間各区画にいる人の数を表す。感受性個体感染個体隔離個体の数が(総人口サイズ一定であっても時間とともに変化する可能性があることを表すために、正確な数をt(時間)の関数S(t)、I(t)、R(t) とする。特定の集団における特定の疾患については、これらの関数は、可能性のあるアウトブレイク予測し、それらを制御下に置くために働くかもしれない[要出典]。

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「SIRモデル」を含む「疫学における区画モデル」の記事については、「疫学における区画モデル」の概要を参照ください。

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