黒海海洋境界画定事件
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/10 11:51 UTC 版)
「ズミイヌイ島」の記事における「黒海海洋境界画定事件」の解説
ルーマニア・ウクライナ両国は、1997年に善隣協力条約を結んだ。ズミイヌイ島を含めた陸上の国境については、ソ連時代の国境を承認することでルーマニア側が妥協した。またウクライナ側も、積極的な武力を配備しないこと、さらに島を「無人」と見なすことに合意した。これは、国連海洋法条約の下では、ウクライナが島の周りの排他的経済水域(EEZ)を要求できないことを意味する。 両国はその後速やかに海洋境界の画定交渉を開始したが、2004年まで34回もの交渉にもかかわらず合意に至らず、ルーマニアは2004年9月16日に国際司法裁判所(ICJ)に訴訟を提起した。これは、2003年に結ばれた国境レジームに関する条約を条件に、境界確定の問題をICJによる解決に委ねるとする事前の両国の取り決めに基づくものであった。 裁判をめぐっては、ズミイヌイ島の法的地位が焦点となった。ルーマニアは、この島は国連海洋法条約上の「岩」であり、3海里の領海を形成するに過ぎないと主張し、一方でウクライナは、人間生活や経済活動の可能な「島」であると主張し、周辺の排他的経済水域や大陸棚がウクライナに帰属するとの立場をとった。この間ウクライナは、島にヘリコプターで水を輸送し、本土と島の間に定期船を運航し、さらに郵便局や銀行支店、ホテルを建設するなどして、島の居住可能性を主張した。 2009年の判決では、まず両国間のEEZおよび大陸棚の境界を規定する有効な合意がこれまで存在しないことを確認したうえで、EEZと大陸棚に関わる権利を生み出す「海岸線」の長さにズミイヌイ島は含まれないと結論付け、これをもとにした等距離線に従って境界を画定した。すなわち裁判所は、この島が島であるか岩であるかという国際海洋法条約上の解釈には踏み込まず、実質的にはルーマニアの主張通り同島を岩と扱うことで事件を解決した。 結果としてルーマニアは、350億ドル相当の海底資源が眠る海域を手に入れることとなった。近年の海底探査では、その5~6倍の資産価値が見込まれるともルーマニア外交官のダン・アウレスクが述べている。
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