表記法の原則に関する諸問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/09 18:15 UTC 版)
「朝鮮語のローマ字表記法」の記事における「表記法の原則に関する諸問題」の解説
1. 転写と翻字 ラテン文字表記法が朝鮮語の音を写す転写を目的とするのか、ハングルのつづりをラテン文字に置き換える翻字を目的とするのかにより、ラテン文字表記のあり方は大きく異なる。例えば、韓国の文化観光部2000年式を用いて転写と翻字を行うと、以下のような違いが生じる。 朝鮮語発音転写翻字읊는다(詠む) [ɯmnɯnda] eumneunda eulpneunda 넓겠는데(広そうだが) [nɔlkʼennɯnde] neolgenneunde neolbgessneunde ただし、実際には翻字は学問研究など特殊な場合で用いることが多いので、一般の使用においては音を転写する方式を通常用いる。 2. 異音の処理 M-R式では平音を有声音字と無声音字の2種類に使い分ける。これは、朝鮮語の平音が語中の有声音間で有声音化するのをラテン文字表記に反映させたものであるが、朝鮮語の平音において有声音/無声音は同一音素の異音であり、朝鮮語話者は同一の音と認識している。従って、例えば「사과(リンゴ)」を「sagwa」、「과일(果物)」を「kwail」表記するM-R式は、朝鮮語話者にとっては非常に混乱しやすい部分である。このような問題は、日本語のヘボン式ローマ字において、「ン」を「m,n」に使い分けるのと同じ問題をはらんでいる。 文化観光部2000年式では、初声(音節頭)の平音は常に有声音字で表記する。1つの音素を同一につづるのは理には叶っているが、語頭で無声音化する場合にも有声音字で表記するので、朝鮮語を母語としない話者にとっては違和感を受けることがある。例えば、「김포」(金浦)は実際には [kimpʰo] と発音されるが、文化観光部2000年式によるラテン文字表記は「Gimpo」である。 3. 音韻変化の処理 朝鮮語は音韻変化が多様であるが、転写の際にそれら音韻変化をどのように反映させるか否かによっても、表記には少なからぬ差が生じる。イェール式・福井玲式といった翻字法を除くその他の表記法では多かれ少なかれ音韻変化を表記に反映させているが、反映のさせ方は必ずしも一様ではない。 例えば、平音の濃音化について、M-R式では変化を反映させて無声音字を用いるのに対して(例:압구정 Apkujŏng。通常、語中の平音「ㄱ」は「g」と表記)、文化観光部2000年式では変化を反映させない(例:압구정 Apgujeong。仮に濃音で表記するならば「Apkkujeong」)。 4. 補助記号の使用 朝鮮語の単母音は7 - 8個であるが、ラテン文字の母音字は「a,e,i,o,u」の5個である。従って、文字が不足する2~3個の母音は何らかの方法で表記しなければならない。1つは、補助記号を用いて例えば「ㅓ,ㅡ」を「ŏ,ŭ」と表す方法(M-R式)があり、もう1つは2文字を用いて例えば「ㅓ,ㅡ」を「eo,eu」と表す方法(文化観光部2000年式)がある。前者は単母音がアルファベット1字に対応しているが、印刷時に活字が準備できないなどの場合がある。後者は既存の文字のみを使う利便性がある反面、「eu」を「エウ」と読むといった誤読の可能性をはらんでいる。 南では、コンピュータでラテン文字表記された朝鮮語を扱う機会の多い情報化社会に対処すべく、2000年式では一切の補助記号を用いない方式を採用したという。それに対して北の1992年式は補助記号を用いるが、新聞などで実際に用いられる表記は補助記号を省略した表記法である。従って、例えば「ㅓ」と「ㅗ」はともに「o」と表記され,区別がつかなくなるという不便がある。
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