臨界前核実験
別名:未臨界核実験
英語:subcritical experiment
核物質を臨界状態に達しない「未臨界」の状態で、核実験を行うこと。
臨界前核実験では、核爆発が発生する前段階までを実験対象とする。核爆発を伴わないため、爆発の衝撃や放射能などによる環境への影響・汚染がない。臨界前核実験の観測データをコンピュータで再現すれば兵器開発が可能であるとされる。
米国は1990年代、2000年代を通じて二十数回の臨界前核実験を実施している。米国は核軍縮を表明する一方で、臨界前核実験を引き続き行っていく姿勢も見せている。ちなみに、核実験を禁止する「包括的核実験禁止条約」(CBTB)において未臨界核実験は核爆発を伴わないため禁止対象から外れている。
臨界前核実験(りんかいまえかくじっけん)
臨界に至らない少量の核物質を瞬間的に圧縮し、その核物質がどのような挙動を示すかを実験する。連鎖反応によって核爆発が起こる寸前の状態を作り出すもの。未臨界実験ともいう。
核兵器用のプルトニウムは、冷戦時代に大量に蓄えられ、今でも核弾頭の中に残すなどして保管されている。年数の経過による劣化の可能性があることから、保有する核兵器の安全性と信頼性を確保するという名目で臨界前核実験が行われるようになった。
衝撃波でプルトニウムなどが飛び散る様子を調べておくと、核爆発そのものをほぼ正確にコンピュータ上でシミュレーションできる。したがって、新しい核兵器の開発につながるのではないかと見る向きも決して否定できない。
アメリカは、1997年から計15回の臨界前核実験をしたことを公表している。また、ロシアは、1998年から15回実施した。今回のイギリスの実験参加は、1958年に結ばれた米英相互防衛協定に基づくもので、臨界前核実験の経験国は3国となる。
包括的核実験禁止条約 (CTBT) では、核爆発に至らない実験は禁止されていない。今回の実験は、CTBTの死文化をねらうアメリカの政治的な思惑もあるのではないかと考えられている。
▲関連キーワード「包括的核実験禁止条約(CTBT)」
▲関連キーワード「核拡散防止条約(NPT)」
(2002.02.15更新)
臨界前核実験
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/01 17:49 UTC 版)
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臨界前核実験(りんかいまえかくじっけん、りんかいぜんかくじっけん、英: subcritical experiment)あるいは未臨界核実験(みりんかいかくじっけん)は、核物質を臨界状態に至らない条件に設定して行う核実験。核兵器の新たな開発や性能維持のために行われる。アメリカ合衆国やロシアやパキスタン[要出典]など、過去の核実験のデータを蓄積した核保有国において行われている。
核物質の高性能爆薬による爆破・圧縮や大出力レーザーの照射によって行われ、主に物性変化を観察することが目的である。実験結果はコンピュータ・シミュレーションの基礎データなどに利用される。核物質が臨界に達する前の段階で実験は終了するため、通常の核実験で起こるような、閃光・熱・爆風を伴う核爆発は発生せず、環境に対する汚染もない。
包括的核実験禁止条約 (CTBT) は、第一条において核爆発の実施を禁止対象としているが、臨界前核実験は核爆発を伴うものでないため、CTBTの禁止対象とはなっていない[1][2]。
アメリカの状況
米国では冷戦終結後、1992年以来新しい核兵器は開発されておらず、既存の核兵器も製造後20年以上経過し経年変化が進んでいる。このような状況下での核兵器の性能及び安全性確保のために、エネルギー省 (DOE) は核兵器備蓄性能維持計画 (Stockpile Stewardship Program)[3][4] を策定し、2000年にこれを執行する機関として国家核安全保障局 (NNSA : National Nuclear Security Administration) という外局を設置している。NNSAからはローレンスリバモア国立研究所、ロスアラモス国立研究所、サンディア国立研究所などの機関に多額の資金が供給されている。
臨界前核実験はNNSAの統制下で、ネバダ核実験場 (現在の正式名称は「ネバダ国家安全保障施設」) の Area 1(第1地区)に設けられた U1a複合施設 (U1a Complex) と呼ばれる地下実験施設においてロスアラモス国立研究所が主体となって実施している。U1a施設の主要な部分は963フィート(約289m)地下に掘られた複数の水平トンネルから成り、その総延長は1.4マイルである[5][6][7]。
また、サンディア国立研究所の核融合実験装置/X線発生装置であるZマシンを用いた、爆薬を必要とせず核爆発も伴わないプルトニウムの試験が行われている。これはマスメディアなどでは一応臨界前核実験とは区別して「新型核実験」と呼ばれている[8][9]。
核兵器備蓄性能維持計画は、これらの実験とスーパーコンピューターを用いた詳細なシミュレーションにより実施されるとされている[10]。
米国に関しては、情報公開法に基き公開されているが、核保有のその他の国については公開されていない(ロシア、中華人民共和国、フランス、イギリス等)。
基本的には、スーパーコンピュータと臨界前核実験の併用により開発が続いていると考えられている。
その理由としては、双方共に実験の秘匿性が高いという事と核兵器の製造の容易さによるものと考えられる。
脚注
- ^ 斎藤直樹. “包括的核実験禁止条約の意義とその問題点”. 2016年7月10日閲覧。
- ^ 日本政府(内閣総理大臣 橋本龍太郎) (1998年6月30日). “参議院議員矢田部理君外二名提出政府の非核政策に関する質問に対する答弁書”. 参議院. 2016年7月10日閲覧。
- ^ 剱持 暢子, 「米国の備蓄核兵器に関する一考察」, 防衛研究所紀要第13 巻第2号(2011年1月)
- ^ Office of Stockpile Stewardship - NNSA
- ^ Underground Facility at Nevada National Security Site (U1a) - NNSA
- ^ The New World of the Nevada Test Site - Los Alamos Science Number 28 2003
- ^ About U1a Facility
- ^ 米、新型の核実験 プルトニウム少量使用 「臨界前を補完」- 中国新聞、2011年5月24日
- ^ 米、5回目の新型核実験 - 中国新聞、2012年9月20日
- ^ Office of Advanced Simulation and Computing - NNSA
臨界前核実験
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 19:13 UTC 版)
アメリカ合衆国では1990年代から臨界に至らない「臨界前核実験」という核兵器の開発法が導入され、核兵器の能力と精度の向上とすでにある核兵器の信頼性の検証をしている。
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