翼型と揚力の関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/03 05:13 UTC 版)
前述の通り、レイノルズ数が小さい領域では薄板状の翼型が最適となる。翼型に対してレイノルズ数の影響が大きく、紙飛行機に適した翼型は昆虫の場合とほぼ同じ薄板状になる。 シュミッツの実験によると、レイノルズ数104では、厚みのある翼型よりは薄い平板、さらにそれらよりも薄い板を曲げたもののほうが揚抗比に優れる。翼のサイズによっては、涙滴形状よりも単なる平板の方が大きな揚力を発生させることがあるという。 レイノルズ数が少し大きくなると、鳥の飛行の領域になる。前縁が丸く、全体に湾曲した薄い翼型が最適なものとなる。初期の飛行機は鳥によく似た翼型を持っていたが、これは初期に作られた小型風洞で扱えるレイノルズ数が鳥の領域とほぼ同等であったためである。 さらに、レイノルズ数が大きくなると、飛行機の領域になり、後に示すような曲がった涙滴型が最適となる。 後述するように、翼は上面が重要な意味を持ち、クローズホールドからウィンドアビームの状態のヨット等の帆、パラグライダーの翼は、「風をはらんだ」時に、通常の翼型の上面と同じような形状になる。平板になるのは無風の時と使用していない時である。さらに、最適な翼型に近づけるため、上下2枚の布からなり、前から間に空気を入れてふくらむ構造を持つパラグライダーの翼もある。 航空機の主翼はある程度の強度が必要であるため、一定以上の厚みを持たせる必要がある。航空機において必要な強度を確保する厚さをとって平板とした場合、当然ながら空気抵抗が大きくなる。結果として、いわゆる一般的な翼型では前縁が曲線的で後縁が鋭くとがった涙滴形状になっている。このような形状の翼であれば、気流が翼の表面を沿って流れるため、空気抵抗は非常に小さくなる(理由は下記参照)。そしてそのような状態で若干の迎角をつければ揚力が生じる事になる。翼の下面において気流が押し下げられているのは当然だが、翼の上面においても気流が翼面に沿って流れる性質によって気流が下方向に曲げられており、その双方で揚力を発生している。 なお、迎角をつければ揚力が増すが、迎角が大きくなると気流が翼表面から剥離しやすくなる。剝離すると急激に空気抵抗が増大し、揚力は下がる。この状態を失速という。翼型には、迎角をより大きくとれる対失速性能が求められる場合がある。 対失速性能を向上させる工夫のひとつは、翼弦を湾曲させる事である。すると迎角が大きいときに翼の前側での剥離を抑えられる。このような翼型は、現代より低速であった初期の航空機に例が多い。(高速域では揚力過剰となり、抵抗も大きい)。現代航空機では、フラップという翼形を一時的に変化させる装置があり、離着陸時など低速時に作動し、翼面積とキャンバおよび迎角を増大させる。 また、翼型は上下対称ではなく、上面のほうが下面に比べて若干膨らみが大きいものが多い。翼の後縁部では、上面を沿った気流が下向きに、下面を沿った気流は上向きになるが、上面の膨らみが大きければ下向きの気流のほうが上向きの気流よりも、角度が大きくなる。つまりこういった翼型であれば、翼自体の迎角はゼロであっても、若干の迎角をつけたのと等しい効果がある。あるいは上記の翼型を湾曲させた形状に対し、翼の上面の膨らみをそのままに、下面のみ凹みを埋めたもの、とも解釈できる。実際、航空機の主翼形式が複葉機から単葉機に移行した際には、主翼の厚みを大きくして構造を強化しているが、その際には翼型が湾曲してかつ薄い形状から、上面が膨らみを持った形状へと移行している。
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