続篇の構想
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作者自身による前書きにもあるとおり、当初の構想では、この小説は、それぞれ独立したものとしても読める二部によって構成されるものであった。しかし、作者の死によって、第二部(第一部の13年後の物語)は書かれることなく中絶した。続編に関しては、創作ノートなどの資料がほとんど残っておらず、友人や知人に宛てた手紙に、物語のわずかな断片が記されているのみである。ドストエフスキー本人は、続編執筆への意欲を手紙に書き表していたが、その3日後に病に倒れた。残された知人宛への手紙では、「リーザとの愛に疲れたアリョーシャがテロリストとなり、テロ事件の嫌疑をかけられて、絞首台へのぼる」というようなあらすじが記されてあったらしいが、異説も出されている。この説を裏付ける要素として、ドストエフスキーが序文で、アリョーシャを本編から受ける印象とは全く異なる「奇人とも呼べる変わり者の活動家」と評していることが挙げられる。 この評は、1866年4月4日に起きた皇帝アレクサンドル2世暗殺未遂事件の犯人ドミトリイ・カラコーゾフ(ロシア語版、英語版)に一致する。革命家ピョートル・クロポトキンは、拷問を受けた体で絞首台に上ろうとするカラコーゾフの凄惨な姿を、現場に居合わせた知人からの伝聞として回想録の中で強い印象をもって記している。カラコーゾフは、出版直後のニコライ・チェルヌイシェフスキーの長編小説「何をなすべきか(ロシア語版、英語版)」の影響を受けていた。この事件は「ヴ・ナロード運動」の先駆「土地と自由(ロシア語版、英語版)」に影響を与え、ピョートル・ラヴロフらの機関紙『前進 Вперёд』の宣伝で勢力を拡大し、1879年に組織化されて「人民の意志」が結成されると、1881年3月13日に党員イグナツィ・フリニェヴィエツキ(英語版)によって、アレクサンドル2世は暗殺された。 一方で、亀山郁夫もその著書『「カラマーゾフの兄弟」続編を空想する』の中で、アレクセイにその将来を心配されたコーリャ少年が成人して思想家的テロリストとなり、皇帝暗殺を謀り、その嫌疑をアレクセイが受けるというものではないかと推測している。 いずれにせよ、実際に書かれることのなかった続編の内容を我々が知ることは不可能である。それでも、20世紀の日本を代表する文芸評論家の小林秀雄もこの小説を「およそ続編というようなものがまったく考えられぬほど完璧な作品」と評している。
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