絶対反応速度論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/23 08:57 UTC 版)
「アイリングの式」も参照 遷移状態理論のモデルに基づいて、ハンガリー生まれのマイケル・ポランニーとイギリスのエヴァンス (M. G. Evans) あるいはハンガリー生まれのユージン・ウィグナーとアメリカのヘンリー・アイリングは反応速度論を発展させた。特にアイリングは1935年に、反応速度の絶対値が理論的に求められる反応速度論であることから絶対反応速度論(theory of absolute reaction rates)と呼んだ遷移状態理論で体系付けた。今日の分子動力学はアイリングの絶対反応速度論にその源流を求めることができる。 今、つぎの反応 A + B C ⟶ A B + C {\displaystyle {\rm {A+BC\longrightarrow AB+C}}} について考えるとき、絶対反応速度論では反応速度v は反応座標系で活性錯合体(遷移状態)を通過する頻度νと活性錯合体のモル濃度[A…B…C*]の積で定義される。アイリングは原系(A + BC)と活性錯合体(A…B…C*)はどの反応座標を通過するかの自由度は持つものの原系とは化学平衡の状態にあると仮定する。その場合、頻度νは遷移状態を通過する平均速度で表すことができる。 ν = k B T / h {\displaystyle \nu =k_{\mathrm {B} }{T}/h} したがって反応速度k は次のように表現される: k = κ ν K ‡ {\displaystyle k=\kappa \nu K^{\ddagger }} ここで、κは透過因子(補正係数)である。速度係数 K ‡ {\displaystyle K^{\ddagger }} は化学平衡式より K ‡ = [ A ⋯ B ⋯ C ∗ ] [ A ] [ B C ] {\displaystyle K^{\ddagger }={\frac {[{\rm {A}}\cdots {\rm {B}}\cdots {\rm {C}}^{*}]}{[{\rm {A}}][{\rm {BC}}]}}} の関係にあり熱力学の化学平衡とギブスエネルギーの関係式より次のように展開される。 k = κ ( k B T h ) K ‡ = κ ( k B T h ) exp ( − Δ G ‡ R T ) = κ ( k B T h ) exp ( − Δ H ‡ R T ) exp ( Δ S ‡ R ) {\displaystyle {\begin{aligned}k&=\kappa \left(k_{B}{\frac {T}{h}}\right)K^{\ddagger }\\&=\kappa \left(k_{B}{\frac {T}{h}}\right)\exp \left(-{\frac {\Delta G^{\ddagger }}{RT}}\right)\\&=\kappa \left(k_{B}{\frac {T}{h}}\right)\exp \left(-{\frac {\Delta H^{\ddagger }}{RT}}\right)\exp \left({\frac {\Delta S^{\ddagger }}{R}}\right)\end{aligned}}} ここで、 Δ G ‡ {\displaystyle \Delta G^{\ddagger }} : 活性化自由エネルギー Δ H ‡ {\displaystyle \Delta H^{\ddagger }} : 活性化エンタルピー Δ S ‡ {\displaystyle \Delta S^{\ddagger }} : 活性化エントロピー である。アイリングの絶対反応速度論は改良が試みられて、一般化した遷移状態理論(いっぱんかしたせんいじょうたいりろん、generalized transition state theory)とも呼ばれる。たとえば、 透過係数 κ はアイリングは特に言及せず一般的には κ ≃ 1 {\displaystyle \kappa \simeq 1} としたが、今日では量子化学的に解釈されトンネル効果の補正や一旦ポテンシャルエネルギー極大を超えた後に原系に戻る頻度を表している。 アイリングは原系の状態とポテンシャルエネルギー曲面とは無関係と考えたが、実際には原系のエネルギー状態により遷移状態(ポテンシャルエネルギー極大点)の曲面上の位置が変化する。 原系のエネルギーが大きくなると、遷移状態付近の曲率が小さくなり(ボトルネックが広くなる)ので、極大を超えた後に原系に戻る頻度が増大する。 などの点がアイリングの論とは異なる。
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