一意分解環
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/11 00:13 UTC 版)
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数学における一意分解環(いちいぶんかいかん、英: unique factorization domain, UFD; 一意分解整域)あるいは素元分解環(そげんぶんかいかん)は、大雑把に言えば整数に対する算術の基本定理の如くに(特別の例外を除く)各元が素元(あるいは既約元)の積に一意に表せる可換環のことである。ブルバキの語法に従ってしばしば分解環 (anneau factriel) とも呼ばれる。
環のクラスの中で、一意分解環は以下のような包含関係に位置するものである。
一意分解環の概念は非可換環に対して拡張できる[1][注 1]。
定義
- x = p1 p2 … pn
のように R の有限個の既約元の積として書くことができて、その表示が一意であるとき R は一意分解環であるという。ここで表示が一意であるとは、x が R の既約元 q1, …, qm によって再び
- x = q1 q2 … qm,
のようにも表せたとするならば、m = n であって、番号の適当な並べ替えを行う全単射 φ: {1, …, n} → {1, …, m} を与えると、pi と qφ(i) とが i = 1, …, n のそれぞれについて同伴 (associated) となるようにできるということを意味する。
一意性の部分の検証は一般には困難であることがしばしばであって、次の同値な条件への言い換えは有用である:整域が一意分解環となるのは、その零元でも単元でもない任意の元が R の素元の積の形に書けるときである。
一意分解環の例
初等的な数学で目にする環の多くが UFD である:
- 単項イデアル整域 (PID), したがって任意のユークリッド環は UFD である。特に、有理整数環 Z(算術の基本定理を参照)、ガウス整数環 Z[i] やアイゼンシュタイン整数環 Z[ω] もこの仲間である。
- 体は零元でない任意の元が単元となる環であるので、自明な意味で UFD である。有理数体、実数体、複素数体などがこの範疇に含まれる。
- R が一意分解環なら、R に係数を持つ多項式環 R[x] もまた UFD である。この特別の場合として、係数環が体 K である場合の多項式環 K[x] も(K[x] は単項イデアル整域 (PID) となるので最初の例の特別の場合でもあるが)もちろん UFD になる。
もう少し一般に、以下のような例を与えることができる:
- 形式的冪級数環 K[[X1, …, Xn]] は、K が体(あるいはもっと一般に主イデアル整域)ならば UFD である(K が UFD であっても、冪級数環が必ずしも UFD とならないことに注意)。
- 決まった数の複素変数を持つ、原点で正則な函数全体の成す環は UFD である。
- 一変数多項式環の場合から帰納的に、有理整数環 Z【あるいは、体 K】 上の多変数多項式環 Z[X1, …, Xn]【あるいは K[X1, …, Xn] 】は UFD となることが分かる。多変数の多項式環は PID ではない UFD の簡単な例である。
分解が一意とならない例
- a, b を整数として
素元分解整域
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/15 02:42 UTC 版)
詳細は「素元分解整域」を参照 環 R の元を既約元の積に表すことを既約元分解、素元の積に表すことを素元分解という。既約元分解が一意であるような環を素元分解整域もしくは一意分解環という(任意の元が素元の積に表せるなら、その表し方は一意である)。有理整数全体の成す環 Z や体上の多項式環 K[x] などは素元分解整域である(高校数学でいう多項式の“因数分解”とは、通常有理数体 Q 上の一変数多項式環における素元分解のことである)。これらの環はユークリッド整域にもなっているが、一般にユークリッド整域は単項イデアル整域であり、単項イデアル整域は素元分解整域になる。 素元分解整域でない例として有理数体 Q に方程式 x2 + 5 = 0 の根を添加した代数体 Q(√−5) の整数環 Z[√−5] で 6 を既約分解することを考えてみる。整数 Z の範囲では 2 × 3(と同値なもの)のみであるが、Z[√−5] の範囲では 6 = 2 × 3 = (1 + √−5)(1 − √−5) と本質的に異なる2通りに既約分解される。したがって Z[√−5] は素元分解整域ではない。しかし、イデアルとしては (2), (3) や (1 ± √−5) はさらに分解できて、素イデアルの積としては一意に (6) = (2, 1 + √−5)2(3, 1 + √−5)(3, 1 − √−5) と分解される。一般に、代数体の整数環はデデキント環であり、素イデアルの積に一意的に分解する。 このような考察はクンマーの理想数の理論に始まると考えられる。クンマー以降、デデキントのイデアル論などを経て代数的整数論の基盤となっている。
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