カルティエ因子
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/05/27 08:51 UTC 版)
「因子 (代数幾何学)」の記事における「カルティエ因子」の解説
ヴェイユ因子は、代数多様体の付値論的な観点から見て自然な因子の取り扱いであり、その直感的な意味もとらえやすいが、正規スキームの上でしか上手く働かないこと、また、スキーム(代数多様体)の射に関する引き戻しが一般に定義できないなど不満足な点もある。これら欠点を補うのがカルティエ因子の概念である。 X を既約で被約な分離的スキームとする。X が既約かつ被約であることによりその関数体 k(X) が定義される。X のアフィン有限開被覆 X = ∪ Ui および 関数体の元 gi が与えられたとき、組 D = { ( U i , g i ) } i {\displaystyle {\mathcal {D}}=\{(U_{i},g_{i})\}_{i}} がカルティエ因子 (Cartier divisor) であるとは gi / gj が Ui ∩ Uj 上零点も極も持たない、すなわち、Ui ∩ Uj = Spec Aij と書いたとき、gi / gj が Aij の可逆元になることである。2つのカルティエ因子 {(Ui , gi)} , {(Vi , hi)} は Ui ∩ Vj 上 gi / hj が極も零点も持たないとき、これを同一視する。カルティエ因子 D = { ( U i , g i ) } i {\displaystyle {\mathcal {D}}=\{(U_{i},g_{i})\}_{i}} において、gi が正則であるとき、すなわち、gi ∈ Ai (ただし、Ui = Spec Ai)となるとき、有効 (effective) であるという。ある有理関数 g に対して {(Ui , g)} で定まるカルティエ因子を主因子 (principal divisor) といい、(g) で表す。カルティエ因子 D = { ( U i , g i ) } , E = { ( V j , h j ) } {\displaystyle {\mathcal {D}}=\{(U_{i},g_{i})\},\;{\mathcal {E}}=\{(V_{j},h_{j})\}} に対してその和や差 D ± E {\displaystyle {\mathcal {D}}\pm {\mathcal {E}}} を { ( U i ∩ V j , g i ⋅ h j ± 1 ) } {\displaystyle \{(U_{i}\cap V_{j},g_{i}\cdot h_{j}^{\pm 1})\}} で定義すれば、X 上のカルティエ因子全体 CDiv (X) は主因子 (1) を零元とするアーベル群になる。 2つのカルティエ因子 D , E {\displaystyle {\mathcal {D}},\;{\mathcal {E}}} はその差 D − E {\displaystyle {\mathcal {D}}-{\mathcal {E}}} が主因子になるとき線形同値 (linearly equivalent) であるといい、 D ∼ E {\displaystyle {\mathcal {D}}\sim {\mathcal {E}}} で表す。有効なカルティエ因子 D = { ( U i , g i ) } i {\displaystyle {\mathcal {D}}=\{(U_{i},g_{i})\}_{i}} に対して、 V ∩ U i = V ( g i ) {\displaystyle V\cap U_{i}=V(g_{i})} (giを含む素イデアル全体のなす閉集合)で定まる X の閉部分集合 V を D {\displaystyle {\mathcal {D}}} の台 (support) といい、 supp D {\displaystyle {\mbox{supp }}{\mathcal {D}}} で表す。任意のカルティエ因子 D {\displaystyle {\mathcal {D}}} は2つの有効なカルティエ因子 D 1 , D 2 {\displaystyle {\mathcal {D}}_{1},{\mathcal {D}}_{2}} の差 D = D 1 − D 2 {\displaystyle {\mathcal {D}}={\mathcal {D}}_{1}-{\mathcal {D}}_{2}} として一通りにかけるので、その台を supp D = supp D 1 ∪ supp D 2 {\displaystyle {\mbox{supp }}{\mathcal {D}}={\mbox{supp }}{\mathcal {D}}_{1}\cup {\mbox{supp }}{\mathcal {D}}_{2}} で定める。 f : Y → X をスキームの射とし、 D {\displaystyle {\mathcal {D}}} を X 上のカルティエ因子で、その台が f の像の閉包に含まれないものとするとき、Y 上の開被覆 {f -1(Ui)} の細分になるアフィン有限被覆 {Vj } を取るとき、Vj ⊂ f-1(Ui) なら h j = f ∗ ( g i ) | V j {\displaystyle h_{j}=f^{*}(g_{i})_{|V_{j}}} と置けば、 f ∗ D = { ( V j , h j ) } {\displaystyle f^{*}{\mathcal {D}}=\{(V_{j},h_{j})\}} で f による D {\displaystyle {\mathcal {D}}} の引き戻し (pull-back) が定義される。 さらに、X が既約で被約な正規分離的ネータースキームであるとする。X 上のカルティエ因子 D = { ( U i , g i ) } i {\displaystyle {\mathcal {D}}=\{(U_{i},g_{i})\}_{i}} に対して主因子 (gi) を考えると、カルティエ因子の定義から、Ui ∩ Uj 上で (gi) = (gj) が成り立つ。素因子 Z に対して Z ∩ Ui ≠ ∅ となる i を選んで v Z ( D ) = v Z ( g i ) {\displaystyle v_{Z}({\mathcal {D}})=v_{Z}(g_{i})} と定めるとこれは i の選び方によらないので、 D {\displaystyle {\mathcal {D}}} に対応するヴェイユ因子 D = ∑ v Z ( D ) ⋅ Z {\displaystyle D=\sum v_{Z}({\mathcal {D}})\cdot Z} が矛盾無く定義される。従って、既約かつ被約な分離的正規ネータースキーム上では、カルティエ因子は、ヴェイユ因子であって、任意の点の近傍で (有理関数) = 0 の形の単項な局所方程式を持つようなものと言い換えることができる。この対応で、カルティエ因子の和・差は対応するヴェイユ因子の和・差に対応する。 さらに、Xが局所分解的 (locally factorial)、すなわち、各点での局所環(座標環の任意の点に対応する素イデアルでの局所化)が素元分解整域になるようなスキームであるとする。素元分解整域上、高さが 1 の素イデアルは単項イデアルであるので、任意の素因子 Zi は各点の周りで、既約元 pi を使って (pi) の形に表される。従って、一般のヴェイユ因子 D = ∑ ai . Zi に対しては、アフィン開集合 U 上 g U = ∏ p i a i {\displaystyle g_{U}=\prod p_{i}^{a_{i}}} と定めれば U 上で D = (gU) となる。よって、X が局所分解的な場合はヴェイユ因子はカルティエ因子になる、すなわち、ヴェイユ因子とカルティエ因子の概念は同じものである。たとえば、X が非特異であるとき、定義により、各点の局所環は正則局所環であるが、正則局所環は素元分解整域であるから、非特異な被約で既約な分離的ネータースキーム上ではヴェイユ因子とカルティエ因子は等価である。 しかし、一般にはヴェイユ因子はカルティエ因子になるとは限らない。ヴェイユ因子(または Q-ヴェイユ因子) D に対して、十分大きな自然数 n を取ると nD がカルティエ因子になるとき、D は Q-カルティエ因子 (Q-Cartier divisor) であるという。任意のヴェイユ因子が Q-カルティエ因子になる代数多様体 X は Q-分解的 (Q-factorial) と呼ばれる。
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