空売りの利点と問題点
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/08 15:39 UTC 版)
原義的には空売りとは自らが経済的持分として現有しない株式を公開市場で売却する意志を提示し約定をとりつける行為であり、決済期日(T+3ルール)までに調達しなければ契約不履行という異常事態におちいる。また意図的に現金決済をもくろみ契約不履行やむなしの約定行為は現物取引市場においては禁止されている。これは現金による差金決裁を前提とするデリバティブ市場とはことなり、現実に株式(実物)を手交することを前提とした市場において、実際には現物が確保できない可能性があることを知りながら売買を確約することが市場の信頼性を著しく損ない、場合によっては詐欺罪に該当するためである。 一般投資家が制度信用取引を利用することで「借り受け売り」の売りポジションをもつことに対して、空売りの制度上の問題点が指摘されることはない。一方で「借り受け売り」の基礎となる株券を担保とした金銭消費貸借契約は本来は提出された株券を担保として金銭を貸し出す契約であって、借主の債務不履行がない限り担保権の執行が行えない前提であるところ、株式消費貸借契約の場合では金銭消費貸借の借主側の債務不履行を前提とせず担保株式の処分を可能とする契約であるため当該企業の主要株主(オーナー株主や経営陣など)が株式消費貸借契約を申し込んできているという特筆事由を材料に事実上のインサイダー取引が可能になる点が問題となり空売り規制の対象とされることがある。 また空議決権行使(経済的持分なしに議決権を行使すること)あるいは持分の隠蔽(経済的持分を持ちながら議決権を持たない状態であること)の問題がある。これら経済的持分と議決権の不一致の問題は株券貸借や株式デリバティブ(金融派生商品)を用いて比較的容易に作りだせる。前者は株主総会の基準日を越えて借株を持ち越せばよく、後者はトータルリターンスワップ契約(約定利息を支払う代わりに配当金・株価上昇した場合の上昇差益を得る権利を取得する契約)を行えばよい。いずれも正当な契約であるが、自らに都合のよい採択がなされるように空議決権を行使したり大量保有報告書に登記されることを隠蔽しながら実質的な買い進めをおこない突然大株主として浮上し会社に圧力をかける手段として利用される可能性がある。 大型の公募増資(PO)においては、インサイダー情報を入手するなどして株式価値の希薄化をあてこんで、投機的な空売り行うことで企業の資金調達を妨害し市場を撹乱させることがある。とくに増資規模が大きい場合、有力な引受先を探す目的もあって事前におこなわれる聞き取り調査(プレ・ヒアリング)から情報が漏れることがあり、これがしばしば増資公表前の不正な株価急落(および空売りによる利益の獲得)事例を招いている。あるいは価格決定日まえに大量に空売りを仕掛け相場を押し下げることでPO株を安く買うことができる。 アメリカでは1997年にレギュレーションMを導入し、発行価格決定の5営業日前以降に空売りを実施した投資家について増資で発行される新株を購入することを禁止した。日本でも金融庁が2011年度上期に関連政府令を改正して同様の空売り規制を行う方針を明らかにしている。
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