社会性の進化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/16 05:54 UTC 版)
詳細は「社会生物学」および「血縁選択説」を参照 社会性昆虫の扱いについては、チャールズ・ダーウィン自身がその説明に困っていた。働きバチは子を産まず、子を産まなければその形質が子孫に伝わらないからである。 これを説明する方法として、まず考えられたのが、“女王による操作”説である。これは、女王がフェロモンで子供を働きバチにしている、その方が子育てがしやすく、多くの子を残せるからで、この、“自分の子を働きバチにする”という形質が女王を通じて選択されたのだ、とする考え方である。しかし、この説では、働きバチの方で反乱を起こす可能性が否定できない。つまり、働きバチの方に、女王の支配を受け付けないような突然変異が起きたとすれば、勝手に自分の子をもうけるのを止められないわけである。 この状況を打破したのが、ハミルトンによる血縁選択説である。この説は、まず、自然選択において、選択されるのが個体ではなく、個体の持つ表現形であるという発想から始まる。ある個体が生き延びたのは、ある性質を持っていたからで、その性質の元になる遺伝子が選ばれたのだと考えるのである。そこで、個々の遺伝子の立場で、血縁度というものを見る。 ヒトの例で説明する。親と子がある場合、親の側から見ると、自分の子には自分の遺伝子の半分が入っている。一方兄弟姉妹の関係を考えると一方の遺伝子が他方に存在する確率も1/2であって、自分の子供の世話をする遺伝子も自分の兄弟姉妹の世話をする遺伝子も同様に成功する可能性があることがわかる。 さらに、アリやミツバチ(膜翅目)のように受精卵がメスになり、未受精卵がオスになるような昆虫では、同じ両親から生まれた姉妹間で一方の遺伝子が他方に存在する確率は3/4となり、自分の娘の世話をする遺伝子よりも自分の妹の世話をする遺伝子の方がコピーを後の世代に残しやすくなる。 このように考えれば、膜翅目であれ通常の性決定システムを持つ動物であれ、血縁関係の深い集団では、自分は子を持たず親を助けて兄弟を増やすやり方も、自分の遺伝子を残す目的に合致すると言える。もしも、自分の子供を作らずに、親を助けて子育てをする行動を取らせる遺伝子があれば、その行動によって、自分の子供を作る以上に遺伝子を残せる可能性があり、もしそれに成功すれば、その遺伝子は自然選択によって勝ち残るわけである。 このようにして、社会性昆虫における働きバチのようなあり方が、自然選択説で説明できることになった。そして、このことは、社会性昆虫の特徴が、不妊の階層の存在にある、という考えをもたらすことになった。 なお、血縁選択説は、社会生物学の発展の基盤をなすものともなった。
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