膜翅目の真社会性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/06/22 16:16 UTC 版)
社会性昆虫には、繁殖をせず利他行動に専念する個体(ワーカー、不妊カースト)が含まれる。とくに膜翅目(ハチやアリ)では何度も真社会性が進化しており、生物学者の興味を引いてきた。 ハミルトンの血縁度4分の3仮説は、膜翅目における真社会性の進化を、半倍数性性決定と結びつけた。このシステムでは、雌は受精卵から産まれる2倍体だが、雄は未受精卵から産まれる1倍体である。したがって、血縁度の計算が2倍体の場合とは異なる。とくに重要なのが姉妹間の血縁度である。ある雌の持つ稀な遺伝子が母親由来である確率は0.5で、その場合に母親がある姉妹にもその遺伝子を渡している確率は0.5なので、母親由来で共有する確率は0.5×0.5=0.25となる。ここまでは2倍体の場合と同じだが、父親由来の確率が違ってくる。同様にある遺伝子が父親由来である確率は0.5だが、父親はゲノムを1セットしか持たず、減数分裂なしに精子を作ってすべての遺伝子を娘に伝えるので、確実に妹にもその遺伝子を渡している。したがって父親経由で共有する確率は0.5であり、姉妹間の血縁度は0.25+0.5=0.75(4分の3)となる。これは母親からみた子の血縁度0.5よりも高い。姉妹間の血縁度が高いために、雌はワーカーになると考えられる。 この仮説の弱点の1つは、雌からみた弟の血縁度が0.25と低いことである。そのため、もし性比(厳密には、投資量でみた性投資比)が1:1ならば、雌からみた弟妹の平均血縁度は0.5となり、2倍体生物のものと変わらない。トリヴァースとヘアはこの点に着目し、もし真社会性がワーカーの包括適応度を最大化するものであるならば、ワーカーは性投資比を操作し、繁殖個体への性投資比は雄1に対し雌3となるはずだと予測した。彼らは多数の単女王性のアリについてデータを集め、このことを支持するデータを得た。この研究に対しては批判もあるが、後に行われた研究も、概してトリヴァースとヘアの仮説を支持している。 アリの性比研究が進む中で、巣によって性比が大きくばらつくことがわかってきた。この分断性比を血縁淘汰の観点から説明したのがボームスマとグラフェンの理論である。彼らの理論によると、同種内に1匹の雄のみと交尾した女王と、複数の雄と交尾した女王が混在しているとき、前者のコロニーでは雌、後者では雄が多く生産されると予測される。この予測はサンドストロームによるケズネアカヤマアリの研究で見事に実証され、血縁選択説を支持する強い根拠となった。 もう1つの問題は、女王が複数回交尾すれば、姉妹間の血縁度は低くなってしまうということだ。これに対しては、膜翅目の真社会性が進化したときには女王は単婚であったと推定されることから、複数回の交尾は真社会性が発達してから二次的に進化したものだと説明されている。一度真社会性が進化したあとで血縁度が下がると、裏切って自ら産卵しようとする他のワーカーの産卵を阻止する行動(ポリシング)が進化し、結果として真社会性は維持される。1つの巣に複数の女王がいること(多女王)による平均血縁度の低下も、同様に理解できる。
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