短距離輸送
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/10 04:16 UTC 版)
ソース側から、師管を取り囲む数個の細胞を通って師管まで積み込む過程をソース内短距離転流という。師管から出た後、再びいくつかの細胞を通ってシンク側に運び出す過程はシンク内短距離転流という。 ソース内短距離転流の出発は、葉緑体内で合成された光合成初期産物(C3植物ではスクロース、C4植物ではリンゴ酸やアスパラギン酸などのC4ジカルボン酸)が葉緑体の包膜を通過して細胞質を出るところである。包膜は内外2枚あり、このうち透過する物質の選択は内膜が行う。C4植物の葉肉細胞葉緑体では内膜の内側に網上膜構造[ 英: peripheral reticulum: PR]が発達し、光合成初期産物の細胞質への輸送を促進している。PRは葉緑体内部のチラコイド膜と内膜に連絡しており、葉緑体内部と包膜の接触面積を拡大させているのである。一方、C3植物ではPRはほとんどない。 細胞質に出た後、光合成初期産物は細胞質対流に乗って移動する。この間、小胞体に取り込まれており、各種酵素から隔離されている。隣接細胞に移動する際、原形質連絡を通る。原形質連絡の出口は別の小胞体内部につながっており、運搬された物質は通過後に直ちに保護される。 師管へは、維管束を取り巻く維管束鞘細胞をシンプラスト経路で経由する。維管束鞘細胞には葉緑鞘細胞とメストム鞘細胞がある。葉緑鞘細胞はスクロースを合成しており、スクロース合成が師管のすぐそばで行われることにより光合成産物の短距離転流が促進されている。C4植物ではスクロース合成の基質となる二酸化炭素は、C4植物のソース内短距離転流の出発物質であるC4ジカルボン酸から生成されるため葉緑鞘細胞内に高濃度で存在する。一方、C3植物ではスクロース合成は葉肉細胞でも行われる。一般にスクロースはスクロースの濃度勾配に従って原形質連絡を通って輸送されるため、C3植物では葉緑鞘細胞のスクロース濃度を低く調節する必要がある。調節のため葉緑鞘細胞内のスクロースはそのままで液胞およびデンプンとして細胞質へ貯蔵される。それでも足りなければデンプンは葉緑体でも蓄えられる。 一部の植物(C3植物のイネ科全部とC4植物の一部)ではメストム鞘細胞があり、その細胞壁上の原形質連絡を通って師部柔細胞に流入する。メストム鞘細胞の細胞壁には水に対して不透過性のスベリン層があり、これは師部柔細胞へ流入後のスクロースが維管束の外へ逆流しないようにする役目がある。C4植物のある種の葉身では維管束が葉緑鞘細胞のみで囲まれており、その細胞壁にはスベリン層が発達している。葉緑鞘細胞でのスクロース合成のための二酸化炭素の基質となるC4ジカルボン酸は、スベリン層を貫通する原形質連絡を通過して葉緑鞘細胞に入るが、葉緑鞘細胞内の二酸化炭素はスベリン層によって封じ込められている。
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