用語の移り変わり
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/26 22:11 UTC 版)
この種の長期欠席のことを「不登校」と呼び慣わすようになるまでには、さまざまないきさつがあった。ごく初期では、「学校嫌い」や「学校恐怖症」という言葉であらわされていた。しかし、それらはその言葉では片付けられない問題との認識が広がり、包括的な「不登校」という言葉が用いられるようになった。 また一時期、「登校拒否」という言葉がよく用いられていたが、現実的には学校に行くのを拒否するというよりも、様々な理由により「行けない」という心身的な不調状態であることも多く、登校を拒否しているわけではないとして「登校拒否」という言葉は不適切とされ、現在では「不登校」という言葉がより適切な表現として主に用いられるようになった。しかし、旧来の「登校拒否」のさすものをそのまま「不登校」に言い換えてしまった例も多く、定義の混乱が生じてしまっている。 そもそも「登校拒否 school refusal」という概念の由来は、英米の専門家らによる無断欠席児童の研究を通じて、学校に行かないのではなく、「学校に行こう(行かなければ)と思いつつも(そう思えば思うほど)行けない」などと本人が訴えて、強い不安をともなう広い意味での神経症的反応を示す一群の子ども達が発見され、「学校恐怖症 school phobia(のちに分離不安と言い換えられた)」と名づけられたことによってはじまる。 日本でも精神医学や臨床心理学の文脈で登校拒否という語が用いられている場合には、このような学術的な定義および学説の変遷に基づいていることが多い。そのため、厳密な意味での登校拒否は、一般に幅広い意味合いで用いられている広義の登校拒否と区別して狭義の登校拒否と表現されたり、日本では神経症的登校拒否と言い換えられている場合もある。 とはいえ、それが精神医学上で用いられる本来の意味での登校拒否なのであり、いわゆる怠学(遊び・非行型)などと呼ばれることもある無断欠席児童とは識別されていることに注意しておく必要があるだろう。「不登校 non-attendance at school」と訳されている用語も、日本の専門家(特に精神科医や臨床心理士)の間では、基本的に上述した脈絡での「登校拒否 school refusal」の用法を引き継いでいることが多い点にも注意すべきであろう。 政府やマスメディアなどにおいて、言葉が、文字通りの意味で使われていないので、英語と比較すると理解しやすい。現在、政府の公式定義の「不登校」は英語では「school refusal 」や「refusal to go to school」と訳されている。これを日本語に直訳すれば「学校拒絶」や「通学の拒絶」である。また、この語は「登校拒否」の英訳とまったく同じであり、このことからも、文部科学省やマスメディアで多用される用語「不登校」は、「登校拒否」とほぼ同じ意味で用いられていることが分かる。なお、「不登校」または「欠席」を英語に直訳すると「school non-attendance」(学校非出席)となる。なお「怠学」は「truancy」であるが、これは日英とも否定的意味合いがふくまれる。 こういった経緯もあって、本来広い範囲をさす「不登校」という言葉を、従来「登校拒否」と呼んでいた現象の言いかえとして現在使用されているため、字面だけで判断すると誤解しやすい。このように、「広義の不登校」の中に長期欠席(狭義の不登校)があり、さらにその中の一部が公式的に「不登校」と呼ばれているという三重の構造となっている。
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