現生人類との混血
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/03 00:02 UTC 版)
「ネアンデルタール人」の記事における「現生人類との混血」の解説
2010年5月7日の『サイエンス』誌に、アフリカのネグロイドを除く現生人類の核遺伝子には絶滅したネアンデルタール人類特有の遺伝子が 1~4 %混入しているとの研究結果が発表された。これは、現生人類の直系祖先が出アフリカした直後、すなわち 約12万〜約5万年前の中東地域にすでに居住していたネアンデルタール人類と接触し混血したこと、その後ヨーロッパやアジアなど世界中に拡がった現生人類は約3万年前に絶滅したネアンデルタール人の血を数パーセント受け継いだことが明らかになった。 さらに2014年の研究では、現生人類がネアンデルタール人と中東地域で混血したのは今から6万年くらい前のこととしている。ネアンデルタール人からの混入遺伝子は、現生人類の皮膚・爪・髪の形成など繁殖に重要でない遺伝子部分に細分化されて多く残っており、白っぽい皮膚、金髪や赤毛、青い目などといったいくつかのコーカソイド的特徴や、インフルエンザウィルス耐性などは、ネアンデルタール人から受け継いだ可能性が高いとしている。 混血の子供は現生人類集団のみが育てたのか、すなわち絶滅してしまったネアンデルタール人に対する現生人類遺伝子の混入もあったのかどうか。これについては、ネアンデルタール人集団が短期間に消滅したためにあまり分かっていないが、アルタイ山脈で発見され、2014年に解析されていたネアンデルタール人女性の再分析でそのDNAに現生人類のDNAが混入していたという2016年の発表もある。また、ネアンデルタール人女性が交配して遺伝子が移入した場合はネアンデルタール人男性が交配した場合と違ってX染色体が他の染色体と大体同様の比率で移入するはずであるが(女性がXXで男性がXYであるため)、そうなっていないため、ネアンデルタール人の男性と現生人類の女性の混血が多かったと想定されている。もっとも、現代に伝わるだけ大規模な混血であるので、数人規模の混血ではない。 また、アルタイ山脈のデニソワ洞窟遺跡で発見されたデニソワ人はネアンデルタール人の兄弟種にあたり、現生のアジア民族、特にポリネシア人やメラネシア人にはデニソワ人遺伝子も混入しているとの研究が、2010年12月に発表されている。ただし、この洞窟ではネアンデルタール人の骨も発見されているため、別系統の人類とネアンデルタール人の混血の可能性を指摘する声もあることに留意すべきである。また、2018年8月22日に科学誌『ネイチャー』に発表されたデニソワ洞窟で見つかった約9万年前の少女の骨のDNA分析結果は、この少女の母はネアンデルタール人で父はデニソワ人であるとしている。ネアンデルタール人・デニソワ人・現生人類の間のこのような遺伝子交換現象からは、兄弟種間の混血が通常の行為であった可能性も考えられる。 それまでアフリカ人のDNAにはネアンデルタール人の遺伝子は含まれていないとされてきたが、アフリカ人のDNAにもネアンデルタール人の痕跡がわずかに残っているとする研究論文が2020年1月30日刊行の学術誌に掲載された。発表した米プリンストン大学の研究者らは新たな計算手法に基づき、アフリカの現生人類もネアンデルタール人のDNAをわずかに保有しているとの結論を導き出した。これで地球上のすべての地域の現生人類からネアンデルタール人のDNAが見つかったこととなり、アフリカを起源とする現生人類が世界の他地域へ一方的に伝播していったとする従来の学説に疑問符が付く可能性が出てきた。「出アフリカ」と呼ばれるこの移動は6〜8万年前に起きたとされるが、研究を主導したプリンストン大学のジョシュア・エイキー教授は、それよりもずっと以前の20万年近く前にもアフリカを離れた現生人類がおり、欧州でネアンデルタール人と交わったのちこのグループがアフリカに帰ったことで、ネアンデルタール人の痕跡がアフリカ人にもたらされたのではないかとの見解を示した。
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