法務省における事務次官
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 05:20 UTC 版)
法務省においては検察庁が本省を飲み込むような人事体系が取られている。その理由は、検察庁が最高裁判所を頂点とする司法権に対応する特殊な行政組織であるため、その人事体系も必然的に裁判所を見据えたものでなければならないという観点と、内閣の所轄の下にある通常の一般行政部門である法務省の本省機能とをひとつにまとめたことに起因すると考えられる(検察官の俸給体系が、法務省職員を含む一般職国家公務員のそれではなく裁判官の俸給体系に準拠した別個のものとなっているのは、その顕著な例であるといえる)。 最高裁判所判事及び高等裁判所長官はいずれも認証官とされており、最高検察庁の最高幹部である検事総長、次長検事ならびに高等検察庁の長である検事長についても、裁判所の最高幹部の地位に準拠させ、認証官とされている(検察庁法第15条第1項。なお最高裁判所長官は内閣総理大臣と同様に天皇によって任命されるが、これは最高裁判所長官が三権の長であることに由来するためである(日本国憲法第7条第2項、裁判所法第39条第1項))。 それに対し、事務次官は各省における事務方のトップではあるものの認証官ではない。他省の人事体系との均衡の必要性から、法務事務次官だけを認証の有無や俸給の額などの扱いにおいて別個に扱うことは難しい。 この異質な両者をひとつにまとめた結果、(検察庁等を含む広義の)法務省内において、法務事務次官を検事総長、次長検事、検事長の実質的下位に位置させる必要が生じるのである。それは同時に法務事務次官もこの人事ピラミッドにおける「通過点」とならざるを得ないということであり、その結果、慣例的に検察官の経歴を有する者が就任するポストとなっている。ただし、法務事務次官は検察官とは別の官であり、法務事務次官在任中は、検察官ではない。この点、法務省の局長課長の多くが検察官の身分のままの充て職であることとは状況が異なる。検察官の経歴を有する者以外の者が法務事務次官になる場合もあり得るが、その者が一級の検事となる資格を有しないものである場合は、検察庁法の規定により、検事総長・次長検事・検事長となる道そのものが閉ざされている(検察庁法第15条第1項、第19条)。そのような制度的事情から、法務省・検察庁の幹部人事調整の必要性にかんがみ、一級の検事となる資格を有しないものが法務事務次官に就任するケースは、1952年(昭和27年)8月1日の行政機構改革により、法務府が法務省と改称され、法務事務次官職が設けられて以来、皆無である。 一方で、事務次官経験者が東京高等検察庁検事長・大阪高等検察庁検事長といった主要都市に置かれる高等検察庁の検事長ポストに昇格する例が多々あり、これをもって事務次官の地位を主要都市以外に置かれる高等検察庁の検事長よりも実質的に上位にあるとする考え方がある。しかし、法務省は上記のように「一般の行政権」と「検察権」という異質な行政権をまとめて担っており、検察官の地位と法務事務次官の地位を一元的に体系づけることには無理があると思われる。
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