氷河の命名
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/15 05:49 UTC 版)
1980年代末に氷河が形成され流下しているのが観測されて以降、山中で活動していたほとんどの科学者は、これを非公式に“クレーター氷河”と呼んでいた。氷河の形成から20年の間(少なくとも氷河の存在に気づいていた人々の間では)、この名前は公に広く用いられていた。そして複数の科学出版物にも記載されていた。この氷河に関する研究で、現在までにほぼ完全に公表された唯一の学術論文では、これを“Amphitheater glacier”と表記していたが、他に使用例はない。 1990年代末から2000年代初頭にかけて、氷河の成長について数多くの報告と公表が行われたが、2004年末に火山活動が再開し新たな溶岩ドームが氷河を分離し始めるまで、この氷河に恒久的かつ正式な命名を行おうとする動きは起きなかった。この時点で、カウリッツ族(英語版)からカウリッツ語(英語版)で「氷」を意味する言葉を使った "Tulutson 氷河" という名称が提案された。2005年3月、ワシントン州地名委員会は他の3つの提案("Crater"、"Spirit"、"Tamanawas")を退け、"Tulutson" を名称として採択した 。そして、“Tulutson 氷河”が事実上の名称となった。 しかしながら、この時点でアメリカ地名委員会は、全米で有効となる公式な結論を下していなかった。この氷河の名称候補として、“Tulutson 氷河”、および“クレーター氷河”、そして“クラフト氷河”(1991年に火砕流により死亡した著名な火山学者であったクラフト夫妻に敬意を表した提案)の3つが提出された。2006年6月、地名委員会は、"Tulutson" を推すワシントン州とアメリカ合衆国林野局(英語版)の反対を退け、20年に渡って広く用いられてきた前例を優先し、「クレーター氷河」を採択した。アメリカ地質調査所カスケード火山観測所の科学者は「クレーター氷河」という名称を強く支持しており、“Tulutson”については、「火山がカウリッツ族の居住域よりも内陸の、シャハプティン語(英語版)を話すシャハプティン族(英語版)の居住域に位置する以上、適切な名称ではない」との声明を提出している。 決定が下された後、地元誌の社説に抗議の反論が掲載され、論争を引き起こした。またワシントン州当局は「もし危惧されるように氷河がすぐ溶けてしまえば関心は薄れてしまうだろうが、“Tulutson 氷河”という名称は州内の産物で使用され続けるだろう」と声明を発した。こういった抗議にかかわらず、氷河の公式名称は「クレーター氷河」のままにおかれた。しかし、2006年6月の決定からさほど時期を置くことなく、氷河の東西をそれぞれ「イースト・クレーター氷河」、「ウェスト・クレーター氷河」とする再提案が行われた。その時点で溶岩ドームを形成する噴火活動が、氷河を東西に分割する可能性があったからだ。しかし、委員会は動かず、その後1980年の溶岩ドームの北側で氷河が合流したことで、提案の必要性自体が消えてしまった。
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