構造・組成・放射能
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/17 05:19 UTC 版)
「セシウムボール」の記事における「構造・組成・放射能」の解説
セシウムボールは通常なめらかな球形をなし、粒径は10マイクロメートル (μm) 以下で、多くは2マイクロメートル程度、すなわち小さな細菌と同程度の大きさであり、詳細に観察するためには電子顕微鏡を必要とする。大きさの下限は明らかではなく、粒径0.5マイクロメートルに満たないものも見出だされている。ありふれたケイ酸塩ガラスを基質に酸化した鉄、亜鉛を含み、その他いくらかの塩素、マンガンなどを有する。特異的に粒子中の放射性セシウムの割合が高く、重量パーセントで数パーセントにのぼる。 スプリング8を用いた詳細な放射光源蛍光X線分析からは、この他、炉の構成物質とともに核分裂生成物と思われる多様な元素(ルビジウム、ジルコニウム、モリブデン、スズ、アンチモン、テルル、バリウム)が検出された。さらに微量のウランも認められ、これらから粒子が核燃料の重大な損傷によるものであると確認された。ただしガンマ線を出す核種に関しては2016年現在、セシウム以外検出されていない。 超薄切片のX線分析から、これらの物質は粒子内でおおむね一様に分布しているが、多くの粒子でセシウムは周辺よりに分布し、また10ナノメートル(10 nm=1/100マイクロメートル)未満のスケールで子細に観察すると酸化した鉄・亜鉛、および塩化セシウム (CsCl) や水酸化セシウム (CsOH) から構成された微小な粒子が形成されていることが判明した。また、樹木の葉から採取されたセシウムボールには表層に薄いアルカリ欠乏層があり、酸性の環境ではアルカリ金属のセシウムが数十年の期間をかけ環境中に浸出することを示していた。さらに2020年になって、奥村大河らによるX線吸収端近傍構造分析やエネルギー分散型X線分析を用いた分析によって、従来から知られた塩素だけでなくナトリウムも豊富に含まれていること、また、セシウムボール中心部での鉄は2価であることが報告され、セシウムボールの形成は炉心への海水注入後であり、また従来考えられていたよりも還元的な雰囲気のもとであったことが示唆された。 セシウムボールひとつあたりのセシウム137による放射能は数ベクレル (Bq) 程度であるが、質量あたりの放射能は1000億ベクレル毎グラム (1011 Bq/g) を超え、これまでの核爆発や原子力関連事故にともない環境を汚染した放射性降下物と比して類例がないほど高い。
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