枝角
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/26 14:57 UTC 版)

枝角(えだつの、Antler)またはアントラーは、シカ科の角である。骨、軟骨、線維組織、皮膚、神経、血管で構成される単一の構造で、一般的にオスにのみに見られる(トナカイ [1]を除く)。枝角は毎年落ちて再成長し、主に性的ディスプレイとして、またハーレムを制御するためのオス間の戦いの武器として用いられる。
構造

枝角はシカに固有のものである。枝角は、角座骨(pedicle)と呼ばれる頭蓋骨の先端から成長する。枝角が成長している間、それはベルベットと呼ばれる血管の多い皮膚で覆われ、成長している骨に酸素と栄養素を供給する[2]。枝角は、動物界で雄の第二次性徴の最も誇張されたケースの1つと見なされており[3]、他の哺乳類の骨よりも速く成長する[4]。成長は先端で起こり、最初は軟骨であり、後に骨組織に置き換わる。枝角がフルサイズに達すると、ベルベットが失われ、枝角の骨が死ぬ。この死んだ骨の構造が成熟した枝角である。ほとんどの場合、根元の骨は破骨細胞によって破壊され、枝角はある時点で脱落する[2]。ほとんどの北極および温帯の種では、枝角の成長と脱落は一年生であり、日光の長さによって制御される。枝角は毎年再成長するが、そのサイズは多くの種で、齢によって異なり、最大サイズに達するまでは数年にわたって毎年増加する。熱帯の種では、枝角は一年中生え換わる可能性があり、サンバーなどの一部の種では、枝角は複数の要因に応じて一年の異なる時期に生え換わる。赤道域に分布する一部のシカは、枝角が生え換わらない。枝角は、支配と性的ディスプレイとして機能し、オス間の闘争の武器として、時には相手に深刻な傷を負わせることもある[4]。
機能
- 性選択
- ほとんどの種で、枝角の進化の主な手段は性淘汰であり、これは雄同士の競争(行動的、生理学的)と雌の配偶者選択という2つのメカニズムを介して機能する[3]。
- 外敵からの防御
- イエローストーン国立公園のオオカミは、枝角のないオスのヘラジカ、または少なくとも1匹のオスが枝角のないヘラジカの群れを攻撃する可能性が3.6倍高いという結果がある[5]。
- 雪かき
- トナカイは、枝角を使用して雪を取り除き、下の植生を食べることができる。これは、トナカイの雌が角を進化させた理由の一つとされる[2]。
- 聴覚アンテナ
- ヘラジカでは、枝角は大きな補聴器として機能する場合がある[6]。
多様性
枝角、体の大きさ、牙の多様化は、生息地と行動(戦いと交尾)の変化に強く影響されてきた[7]。
シカ亜科
-
アカシカ(ベルベット付)
オジロジカ亜科
-
オジロジカ
枝の相同性と進化

現在発見されている最古の枝角の化石記録は、約1,700万年前の中新世初期である。初期の枝角は小さく、2分岐であった[8] 。枝角が進化するにつれて、長くなり、多くの枝を獲得し、より複雑になっていった[8]。枝の相同性は1900年代以前から議論されている[9][10][11]が、最近、枝の分岐構造と相同性を記述する新たな方法が考案された[12]。
枝角と動物や人間の関わり
- 動物
- 生え落ちた角にはカルシウム、リン、その他のミネラルが含まれているため、リス、ヤマアラシ、ウサギ、マウスなどの小動物が摂取する。特にミネラルが土壌に少ない場所では顕著である[13]。
- 人間
- 生え落ちる角を犬を使って探索したり、餌と網などを使った罠で収集したりする[14]。また、奈良公園では人間や他の鹿に怪我をさせないよう、一年に一度切り落としを行う[15]。それとは別に、トロフィーハンティングとして鹿を仕留めた景品として切り落とされる。
- 人間が手に入れた角は、道具、武器、装飾品、おもちゃを作るための材料とされる[18]。ヨーロッパの後期旧石器時代の歴史資料として発見され、後の時代には象牙の代替品として利用された。
関連項目
脚注
- ^ “Arctic Wildlife - Arctic Studies Center”. naturalhistory.si.edu. 2018年5月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年5月1日閲覧。
- ^ a b c Hall, Brian K. (2005). “Antlers”. Bones and Cartilage: Developmental and Evolutionary Skeletal Biology. Academic Press. pp. 103–114. ISBN 0-12-319060-6 2010年11月8日閲覧。
- ^ a b Malo, A. F.; Roldan, E. R. S.; Garde, J.; Soler, A. J.; Gomendio, M. (2005). “Antlers honestly advertise sperm production and quality”. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences 272 (1559): 149–57. doi:10.1098/rspb.2004.2933. PMC 1634960. PMID 15695205 .
- ^ a b Whitaker, John O.; Hamilton, William J., Jr. (1998). Mammals of the Eastern United States. Cornell University Press. p. 517. ISBN 0-8014-3475-0 2010年11月8日閲覧。
- ^ Metz, Matthew C.; Emlen, Douglas J.; Stahler, Daniel R.; MacNulty, Daniel R.; Smith, Douglas W. (2018-09-03). “Predation shapes the evolutionary traits of cervid weapons”. Nature Ecology & Evolution 2 (10): 1619–1625. doi:10.1038/s41559-018-0657-5. PMID 30177803.
- ^ Bubenik, George A.; Bubenik, Peter G. (2008). “Palmated antlers of moose may serve as a parabolic reflector of sounds”. European Journal of Wildlife Research 54 (3): 533–5. doi:10.1007/s10344-007-0165-4 .
- ^ Gilbert, Clément; Ropiquet, Anne; Hassanin, Alexandre (2006). “Mitochondrial and nuclear phylogenies of Cervidae (Mammalia, Ruminantia): Systematics, morphology, and biogeography”. Molecular Phylogenetics and Evolution 40 (1): 101–17. doi:10.1016/j.ympev.2006.02.017. PMID 16584894.
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- ^ Garrod, A. Notes on the visceral anatomy and osteology of the ruminants, with a suggestion regarding a method of expressing the relations of species by means of formulae. Proceedings of the Zoological Society of London, 2–18 (1877).
- ^ Brooke, V. On the classification of the Cervidæ, with a synopsis of the existing Species. Journal of Zoology 46, 883–928 (1878).
- ^ Pocock, R. The Homologies between the Branches of the Antlers of the Cervidae based on the Theory of Dichotomous Growth. Journal of Zoology 103, 377–406 (1933).
- ^ Samejima, Y., Matsuoka, H. A new viewpoint on antlers reveals the evolutionary history of deer (Cervidae, Mammalia). Sci Rep 10, 8910 (2020). https://doi.org/10.1038/s41598-020-64555-7
- ^ Dennis Walrod (2010). Antlers: A Guide to Collecting, Scoring, Mounting, and Carving. Stackpole Books. p. 46. ISBN 978-0-8117-0596-7
- ^ Dennis Walrod (2010). Antlers: A Guide to Collecting, Scoring, Mounting, and Carving. Stackpole Books. pp. 44–52. ISBN 978-0-8117-0596-7
- ^ 奈良)鹿の角きり始まる 追い込む姿に歓声も 朝日新聞 更新日:2018年10月7日
- ^ Dennis Walrod (2010). Antlers: A Guide to Collecting, Scoring, Mounting, and Carving. Stackpole Books. pp. 46–47. ISBN 978-0-8117-0596-7
- ^ Susan Quinlan (2011年11月18日). “Parks Canada reminds visitors you can look, but don't touch”. Prairie Post West: p. 3. オリジナルの2015年2月6日時点におけるアーカイブ。 2011年12月5日閲覧。
- ^ Bauer, Erwin A.; Bauer, Peggy (2000). Antlers: Nature's Majestic Crown. Voyageur Press. p. 7. ISBN 978-1-61060-343-0
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- ^ McCrory, P (2006). “Smelling Salts”. British Journal of Sports Medicine 40 (8): 659–660. doi:10.1136/bjsm.2006.029710. PMC 2579444. PMID 16864561 2009年1月3日閲覧。.
枝角(シカ科)
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シカ科(ニホンジカやトナカイ、ヘラジカやシフゾウなど)の角は、枝分かれすることから枝角と呼ばれる。英語ではAntler(アントラー。対をなすことから通常はアントラーズ)と呼ばれる。毎年生え替わり、通常、オスにのみ生える(トナカイはオスにもメスにも生える)。頭の上に毛皮をかぶったこぶとして発生し(袋角という)、伸び出して中に骨が作られると、毛皮が剥がれて角が姿を現わす。季節がすぎると、角は根元から外れて落ちる。角を合わせて戦うことは少なく、むしろ角の立派さで地位を決めている種が多い。これらの角は枝分かれしているものが多いが、高齢や栄養状態の良い個体程枝が多く立派なものを持つ。
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「枝角」の例文・使い方・用例・文例
- その種の鹿の枝角があるさまは、森の王と呼ぶにふさわしい。
- 枝角に似た大きな枝分かれするサンゴ
- 枝角があるさま
- 枝角に似ているさま
- 前翅の白い枝角のようなマークを持つ、ヨーロッパの蛾
- オスが固い脱落性の枝角を持つ点でウシ科と区別される
- 12以上の枝に分かれた枝角を持つ雄鹿
- 枝が3本の枝角を持つ南アジアの鹿
- 非常に多く枝分かれした大きな枝角を有する北米産の大鹿
- 僅かに2又に分かれる枝角を有する日本産の小型の鹿
- 2つに突出した枝角を有する北米西部産の長い耳の鹿
- 巨大な平らな枝角がオスにある大きな北の鹿
- 2又の小さな枝角を有するユーラシアの森林地域にすむ優雅な小型の鹿
- 雄雌両性とも大きな枝角を持つ北極鹿
- 枝分かれしてない枝角を持つ南米産の小型の鹿
- フォーク、三つまたまたは枝角のとがった先
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