果実の収穫適期の拡大と保存性の向上
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/15 16:18 UTC 版)
「遺伝子組み換え作物」の記事における「果実の収穫適期の拡大と保存性の向上」の解説
果実等の中には収穫適期が非常に短いものがある。特に、生食用のトマトなどでは色づき始めたらすぐに収穫して流通に乗せる必要性が高い。そうしないと店頭に並ぶころには過熟状態になったり、ケチャップやピューレなどへの工業的加工過程に入る前に傷口から腐敗したりして商品価値が低下することが多くなるためである。そこで、熟しても果皮が柔らかくならないように細胞間を充填しているペクチン (pectin) の分解が抑制された遺伝子組換えトマトが開発された。また、ペクチンの分解は果実が熟するときに誘導されるため、ペクチンの分解抑制ではなく熟期を遅らせることで柔らかくならないようにされたトマトやメロンも開発された。それらの手法は3種類知られている。 ペクチンを分解する酵素ポリガラクチュロナーゼの生産抑制 ポリガラクチュロナーゼの生産をアンチセンスRNA法などのRNAiの技法で直接抑制したFlavr Savrなどのトマトが開発された。その結果、熟しても果皮などはあまり柔らかくならない。 果実の成熟の制御(エチレン生合成酵素の抑制) 果実が熟する過程でポリガラクチュロナーゼの発現が誘導されるため、果実の熟する過程を制御する方向の研究が進んでいる。果実の熟する過程には、植物ホルモンの一種であるエチレンが関与している。そこで、エチレンの生合成を抑制する研究が進んだ。エチレンの生合成系は、次の二過程からなる。ACC合成酵素の作用により、S-アデノシル-L-メチオニン (S-adenosyl-L-methionine: SAM) から、1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸 (1-amino cyclopropane-1-carbonic acid: ACC) が合成される。 ACC酸化酵素(アミノシクロプロパンカルボン酸オキシダーゼ)によって、ACCがエチレンに変換される。 そこで、この過程に関与するACC合成酵素やACC酸化酵素をアンチセンスRNA法やコサプレッション法などのRNAiの技法で抑制すれば、エチレンの生合成が抑制されるわけである。ACC合成酵素を抑制したトマト 1345-4がDNA Plant Technology Corporation社により開発された。 果実の成熟の制御(エチレン生合成中間体の分解) エチレン生合成中間体であるACCを分解することでエチレン生産を抑制する。土壌細菌Pseudomonas chlororaphis由来のACCデアミナーゼ遺伝子の導入によって、ACCを2-オキソ酪酸 (2-oxobutyrate) とアンモニアに加水分解することによってエチレン生合成が抑制されたトマトも開発されている。ACCデアミナーゼ遺伝子が導入されたトマトは室温で収穫後121日放置しても瑞々しい状態であった。モンサント社のトマト CGN-89322-3 (8338)はACCデアミナーゼ遺伝子が導入されたものである。 エチレン生合成の出発物質であるSAMを加水分解して減少させ、結果としてエチレン合成量を減らす。SAM加水分解酵素遺伝子の導入によって達成された。Agritope Inc.の開発したトマト品種35 1 Nやメロン品種AとBの例がある。 エチレン生合成が抑制されたトマト果実は出荷前に倉庫でエチレン処理をすると正常に熟しはじめる。エチレンによる果実の追熟は多くの果実で取り入れられている。たとえばバナナやマンゴーなどの熱帯輸入果実は、害虫移入防止のため未熟果実を輸入しエチレンによって追熟されている。エチレン合成抑制による収穫適期拡大手法ではそのための設備を利用できる。
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