期待リターンのクロスセクション構造
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 04:16 UTC 版)
「金融経済学」の記事における「期待リターンのクロスセクション構造」の解説
1950年代から1960年代にかけて発展したCAPMは期待リターンのクロスセクション構造を分析するにあたってのベースラインモデルとなった。1970年代までにおいてCAPMは概ね成立しているとの結果が得られていたが、1970年代の終わりからCAPMの実証方法に対する批判やCAPMで説明できないアノマリーが多く発見されるようになる。このようなアノマリーの例として時価総額が小さい株式の方が高い期待リターンを得られるという小型株効果や、簿価時価比率(PBRの逆数)が高い割安株の方が高い期待リターンを得られるというバリュー株効果などがある。 1992年にユージン・ファーマとKenneth French(英語版)は米国株式市場のクロスセクション分析を行い、時価総額、簿価時価比率、レバレッジ比率、E/P(PERの逆数)の当時認識されていた4つのアノマリー要因は時価総額と簿価時価比率の2つに集約されることを統計的に実証した論文を発表した。彼らは同論文でRay Ball(英語版)が1978年の論文で述べた仮説に同意し、時価総額と簿価時価比率のアノマリーはCAPMで説明できない投資家のリスクファクターから生じているという仮説を立てている。さらに彼らはこの研究を発展させ、1993年の論文においてファーマ=フレンチ3ファクターモデルと呼ばれる期待リターンの決定モデルを提示した。ファーマ=フレンチ3ファクターモデルにおいては期待リターンのクロスセクションの決定要因としてCAPMで取り入れられていた市場ポートフォリオのリスクプレミアムに加え、時価総額が捉えるリスクの代理指数としてのSMB(small-minus-big)と簿価時価比率が捉えるリスクの代理指数としてのHML(high-minus-low)が含まれている。 このようなリスクファクターとしての解釈が難しいアノマリーとしてモメンタム効果がある。モメンタム効果とは過去に高いリターンを得られた金融資産は将来も高いリターンが得られ、逆に過去にリターンが低かった金融資産は将来のリターンも低くなるという効果である。Narasimhan Jegadeesh とSheridan Titman(英語版)はクロスセクション分析により、米国の株式市場に短期から中期にかけてのモメンタム効果が存在することを実証した論文を1993年に発表した。さらにモメンタム効果はファーマ=フレンチ3ファクターモデルでは説明されない。その後、1997年にはファーマ=フレンチ3ファクターモデルにJegadeesh とTitman のモメンタム効果を捉えるファクターを追加したCarhartの4ファクターモデルが発表されている。 ユージン・ファーマとロバート・シラーは2013年に資産価格の実証分析についての貢献からノーベル経済学賞を受賞した。
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