新株発行の差止
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/02/14 14:40 UTC 版)
会社が新たに株式を発行する(新株発行)に際しても、株主には差止請求が認められている。すなわち、会社が法令もしくは定款に違反、または著しく不公正な方法によって株式を発行することによって株主が不利益を受けるおそれがある場合、株主はその新株発行について差止を請求できる(210条)。この請求は訴訟を提起せずに行うこともできるが、通常は新株発行差止めの訴えを提起することによって行われる。訴えによって請求を行う場合には、発行差止の仮処分を申請することもできる。この仮処分に違反して行われた新株発行は新株発行無効の訴えによって無効とすることができる(最高裁判所平成5年12月16日第一小法廷判決 民集47巻10号5423頁)。 新株発行に際し、金融商品取引法により有価証券届出書を提出する義務のある会社においては、払込み期日の25日前までに届出義務が、その他の公開会社においては、2週間前までに通知または公告義務(201条3項・4項)があり、公開会社でない会社においては、株主総会における議決が必要なこと(199条2項)から、このことによって、株主に対する新株発行の差止めの訴え及び仮処分を提起する機会が与えられる。 なお、新株予約権および新株予約権付社債の発行についても同様の差止請求が可能である(247条)。 前述の取締役による違法行為等に対する差止請求権が会社の利益を守るための制度であるのに対し、新株発行の差止は株主の個人的利益を守るための制度である。そのことは前者においては「会社」に損害が生じるおそれのあることを要件としているのに対し、後者においては「株主」が不利益を受けるおそれを要件としている点によく表れている。 「著しく不公正な方法」の具体的な内容について会社法は言及しておらず、解釈に委ねられている。裁判例を見ると、資金調達以外の目的、すなわち特定の株主の持株比率を低下させ、現在の支配権を維持することを主要な目的としてなされた新株発行が「著しく不公正な方法」による新株発行に該当するとして差止の仮処分を認めたものがある(「忠実屋・いなげや事件」東京地方裁判所平成1年7月25日決定 判例時報1317号28頁)。その判決ではたとえ支配権維持が主要な目的でないとしても特定の株主の持株比率低下を認識しつつ行った新株発行にそれを正当化するだけの理由がなければやはり「著しく不公正な方法」として差止の対象になるとしている。 新株発行の「主要な目的」がなんであるかによって「著しく不公正な方法」にあたるか否かを判断する判決が昭和40年代後半以降に多く出された。その一方で、具体的な資金調達目的があれば差止の対象とならないとした判決もある(大坂地方裁判所平成2年7月12日決定 判例時報1364号104頁)。 新株が株主以外の第三者に対し、特に有利な発行価額によって割り当てる場合(有利発行という)には、公開会社でない会社であっても株主総会における特別決議が必要である(199条3項、201条1項)。それを経ないで行われた新株発行は法令に違反することになるため、新株発行の差止め請求をすることができる。
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