文書提出命令
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/15 13:11 UTC 版)
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文書提出命令(ぶんしょていしゅつめいれい)は、民事訴訟手続において、裁判所が、本案訴訟の一方当事者の申立てに基づき、相手方又は第三者の所持する文書の提出を求める裁判上の開示請求手続のひとつ。民事訴訟法の開示請求手続にはこの他、証拠保全、当事者照会、文書送付の嘱託などがある。
申立て
文書提出命令の申立てをするには、文書の表示、文書の趣旨、文書の所持者、文書により証明する事実、提出義務の原因を明記して、書面によりしなければならない(民事訴訟法221条1項、民事訴訟規則140条1項)。
文書提出義務
現在の民事訴訟法では、文書提出義務は一般義務(除外事由がない限り一般的に提出義務が課せられる)とされ、当事者の引用文書、申立人が引渡し又は閲覧請求権を有する文書、申立人にとっての利益文書・法律関係文書のほか、一般義務文書が対象となる。公務秘密文書、自己利用文書、刑事・少年事件記録については提出義務がないが、それに当たるか否かの審理はインカメラ(in camera. イン・カメラ。「密室」を意味するラテン語。ここでは非公開の秘密審理手続の意味。)で裁判所が当該文書を提示させて判断することができる。
各種手続
命令が出ない場合
文書提出命令の申立てがあると、裁判所はその判断をしなければならない(最判昭30年3月24日民集9巻3号357頁)。裁判は決定でなされ、決定に不服のある所持者である当事者若しくは第三者又は命令の申立人は即時抗告をすることが可能である。
ただし裁判所は、たとえ文書提出義務(民事訴訟法第220条)のある証拠に関する申立てであっても、証拠調べの必要性がないことを理由として申立てを棄却することができる。さらに最高裁判所は2000年、証拠調べの必要性がないことを理由としてした棄却決定に対する抗告を認めないことを判例の傍論として示した[1]。証拠を確かめないまま証拠調べの必要性がないと判断された場合に抗告が出来ないことは当事者の権利の侵害であるとして判例違憲訴訟(特別抗告)が申し立てられることがある[2]。
日本国憲法は、少なくとも二審制、あるいは三審制を保障していると言われているが、判例のみを見ても、「証拠調べの必要性がない」として抗告を認めなかった事例は複数存在する。
第1審で証拠調べの必要性が無いことを理由に却下したのと同様の申立てを続審である控訴審で申し立てたり、控訴審が証拠調べの必要性を認めなかった判断については上告審で原審の証拠調べ採否に関する裁量権逸脱を法令違反として上告受理申立て理由(高裁への上告の場合は上告理由)として主張することで争うことが考えられる。
命令が出た場合
当事者が文書提出命令に従わないとき、裁判所は申立人の主張を真実とみなすことができる(民事訴訟法224条1項)。第三者に対して文書提出命令を発するには審尋が必要であり、従わない場合は20万円以下の過料に処する決定をする。
脚注
- ^ 平成11年(許)第20号 文書提出命令申立て却下決定に対する許可抗告事件決定。 最高裁判所第一小法廷 平成12年3月10日。
- ^ 民訴法第220条判例違憲訴訟。
参考文献
- 法律
- 当事者照会 - 民事訴訟法第163条
- 文書送付の嘱託 - 民事訴訟法第226条
- 文書の留置 - 民事訴訟法第227条
- (韓国)民事訴訟等における電子文書利用等に関する法律(2010年)
- 行政文書
- 内閣府: 文書提出命令に係る特則規定について
- 法務省: 文書提出命令制度研究会議事録等(1996年-95年)[1]
- 判例
- 文書提出命令申立の却下決定に対する抗告を制限した決定: 最高裁判所第一小法廷平成12年3月10日決定。最高裁判所平成11年(許)第20号文書提出命令申立て却下決定に対する許可抗告事件。裁判長裁判官井嶋一友、裁判官小野幹雄、遠藤光男、藤井正雄、大出峻郎。2000年。
- 文書提出命令申立を却下した裁判例 平成18年(行ク)第245号文書提出命令申立事件。基本事件は不当労働行為再審査申立棄却命令取消請求事件。全石油昭和シェル労働組合 - 国。2006年。
- 命令申立却下決定に対する抗告を却下した裁判例 文書提出命令申立却下決定に対する抗告事件。全石油昭和シェル労働組合 - 国。2006年。
関連項目
文書提出命令
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捜査の際に違法があったとして国家賠償請求訴訟を提起した場合、令状または令状請求書を文書提出命令によって捜査機関に出させることができるか。令状も令状請求書も民事訴訟法第220条3号(法律関係文書)に該当する。刑事訴訟法第47条但書きの「公益上の必要その他の事由」に公正な民事裁判の実現が該当すると考えると、その提出が「相当と認められる場合」とは何かが問題である。 最高裁第三小法廷決定平成16年5月25日は、その一般的な判断基準として 刑訴法47条所定の「訴訟に関する書類」に該当する文書について文書提出命令の申立てがされた場合であっても,当該文書が民訴法220条3号所定の法律関係文書に該当し,かつ,当該文書の保管者によるその提出の拒否が,民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無,程度,当該文書が開示されることによる被告人,被疑者等の名誉,プライバシーの侵害等の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし,当該保管者の有する裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用するものであるときは,裁判所は,その提出を命ずることができる。 とした。 では令状または令状請求書についてはどうかというと、最高裁第二小法廷決定平成17年7月22日は、 民訴法220条3号所定の法律関係文書に該当することを理由としてされた捜索差押許可状の文書提出命令の申立てに対して,刑訴法47条に基づきその提出を拒否した所持者の判断は,本案訴訟において同許可状を証拠として取り調べる必要性が認められ,同許可状が開示されたとしても今後の捜査,公判に悪影響が生ずるとは考え難いなど判示の事情の下では,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものというべきである。 民訴法220条3号所定の法律関係文書に該当することを理由としてされた捜索差押令状請求書の文書提出命令の申立てに対して,刑訴法47条に基づきその提出を拒否した所持者の判断は,本案訴訟において同請求書を証拠として取り調べる必要性は認められるものの,被疑事件につき,いまだ被疑者の検挙に至っておらず,現在も捜査が継続中であって,同請求書には捜査の秘密にかかわる事項や被害者等のプライバシーに属する事項が記載されている蓋然性が高いなど,同請求書を開示することによって,被疑事件の今後の捜査及び公判に悪影響が生じたり,関係者のプライバシーが侵害されたりする具体的なおそれが存するという事情の下では,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとはいえない。 とした。
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