教育界の動向
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/03 21:34 UTC 版)
6月、法典論争の行方が混沌とする中、大日本教育会は評議員杉浦重剛の発案により法典と倫理の関係を調査したが、二派の主張に分かれた。 能勢栄(米国留学、在野教育者)は、細目に渉る法律で規律するのはかえって倫理の荒廃を招くとし、各論賛成・総論反対の延期論。法と道徳のバランスをどこで取るか、法治主義に対する道徳優越論の立場である。 結論…目下我国民衆の需要に応ずべきものは、新法典の如き細密なるものにあらずして、唯其の大綱を掲げたる簡略の…ものならざるべからず、法典は国家百世の大事なり、軽忽に之を実施すべきもにあらざるなり。 — 能勢栄「法典ト倫理トノ関係」 一方の元良勇次郎(同志社中退、米国留学、東大心理学教授)は、旧民法はキリスト教風俗の移植だとか、個人主義に過ぎるとの「法典実施延期意見」の主張を逐一反駁したものとみられていたが(平野・我妻・星野・青山)、法治協会の「弁妄」をまとめた部分を元良自身の見解と混同した誤読であり、元良説は法典の是非には及んでいないとの批判(手塚)がある(青山も同意し改説)。 結論…実施論者は元より答弁の地位に居るものにして其答弁悉く当を得たるや否やは吾人の明言し能はざる所なり。愚考する所によれば延期論者が新法典は倫常を壊乱するとなすの理由とする所は皆社会学上及び倫理学上未定の問題なり…吾人元より修正論及び実施論を是非するに非ず…然りと雖も…最下等の倫理標準たる二三の法文の為めに人民は倫理的感情を失…ふが如き…は独断的確定に過ぎざるなり。 — 元良勇次郎「新法典ト倫理トノ関係ニ付キ調査報告」 両者とも江木ほか延期意見書の倫常攪乱論を否定する点では共通である(手塚)。 前者の見解を修正して最終意見とされたが、大正・昭和の家族法論争で教育者が一方の主役を担ったのに比べると、姿勢も影響力も弱かった。 そのほか、有力教育雑誌『教育時論』は英法派の延期論を支持、『教育報知』『国家教育』は大木文相の天賦人権論に反発している。
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