抗GAD抗体の病因的な役割
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/07 14:33 UTC 版)
「自己免疫性小脳失調症」の記事における「抗GAD抗体の病因的な役割」の解説
抗GAD抗体に関しては以下の2点に関して議論が知られている。まず第一に抗GAD抗体は標的抗原を機能的あるいは器質的に障害するのか、すなわち病因となりうるかという点である。そして第二にどのようなメカニズムによって様々な神経疾患病型をとるのかという点である。 抗GAD抗体は病因なのか? 臨床観察では、抗GAD抗体関連神経疾患の多くが免疫治療に抵抗性を示すこと、血清の抗体価も髄液の抗体価も疾患重症度に関連性がないことが知られていた。また実験医学的にはGADは細胞質蛋白質であるため、抗体が抗原に結合することが困難と考えられたため抗GAD抗体に病因的な役割がないと予想されていた。しかし三苫らは二重染色による免疫組織化学法を用いて、髄液の抗体がプルキンエ細胞に投射する抑制性神経細胞の終末部に結合していることを明らかにし、さらにスライス標本に対してパッチクランプ法を用いて抗GAD抗体が抑制性神経細胞の終末部に作用してGABAの放出を阻害することを明らかにした。これらによってpathogenic actionが証明された。さらに2007年にMantoらは患者髄液をラットの小脳内に注入すると、小脳刺激によって生じる大脳運動野に対する抑制が阻害されることから抗体の投与で症状が再現されpassive transferが証明された。そして抗GAD抗原エピトープはシナプス小胞が開口放出する際に一過性に細胞表面に露出するため抗体と反応するといった考え方、ラット小脳器官培養実験において、免疫グロブリンがプルキンエ細胞に取り込まれること、抗GAD抗体陽性のstiff-person症候群患者のIgGがin vitroでGAD酵素活性を阻害することなどからaccessibilityの証明もされつつある。以上からaccessibilityの証明、pathogenic actionの証明、passive transferの証明がすべて満たされ病因として確立したという意見もある。しかし抗GAD抗体関連免疫性疾患では細胞表面抗原に対する自己抗体が共存することがある。細胞表面抗原に対する自己抗体を有する疾患では免疫治療に反応性がよい例が多く、自己抗体が病因的な役割を果たす可能性が高い。それを踏まえて抗GAD抗体関連疾患においても、抗GAD抗体自身ではなく、共存する神経細胞表面抗原に対する自己抗体が病因的な役割をはたすのではないかという考え方も出てきているが、確定的な実験的証拠はない。 様々な神経疾患病型をとるメカニズム 同じ抗GAD抗体陽性であっても糖尿病、stiff-person症候群、小脳運動失調症と症状が異なる理由は抗体のGADの認識部位の違いと考えられている。神経症状を発症する抗体はGADのC末端を認識する。stiff-person症候群ではGADの酵素活性を抑制し、小脳失調症ではGABAの放出を抑制する。一方で糖尿病で認められる抗体はGADのmiddle portionを認識する。ポリクローナルに産出される抗GAD抗体のサブタイプの割合によって臨床症状が異なると考えられている。
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