抗GAD抗体陽性小脳失調症
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/07 14:33 UTC 版)
「自己免疫性小脳失調症」の記事における「抗GAD抗体陽性小脳失調症」の解説
グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)は興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸から抑制性伝達物質のGABAを合成する酵素である。GAD65とGAD67の2種類が存在し、抗GAD抗体はGAD65を認識する。抗GAD抗体は1型糖尿病と新規に診断される患者の80%に認められると報告されている。1型糖尿病患者に自己免疫性甲状腺疾患を合併した場合は多腺性自己免疫症候群の定義を満たすので注意が必要である。抗GAD抗体は1型糖尿病や多腺性自己免疫症候群などの内分泌疾患のみならずstiff-person症候群や小脳運動失調症、辺縁系脳炎、難治性てんかん、眼球運動障害などの神経疾患でも認められる。抗GAD抗体陽性小脳失調症は抗GAD抗体関連免疫性神経疾患のなかではstiff-person症候群についで2番めに多い。小脳性運動失調症は抗GAD抗体が高力価であるものと低力価であるものの2種類が知られている。 抗GAD抗体高力価型 抗GAD抗体を伴う小脳性運動失調症の症例は1988年のsolimenaによってはじめて記載され、1995年にHonnoratらによっても報告された。2001年にHonnoratらにより欧州での網羅的な調査で疾患概念は明確にされた。この調査は9000症例の血清を対称にし、レトロスペクティブな解析を行ったもので抗GAD抗体陽性小脳失調症が14症例存在した。14例中13例が女性であり小脳失調症の発症の中間値は51歳であった。10例で1型糖尿病を合併しその発症年齢の中央値は47歳であり小脳失調に先行した。臓器特異的な自己免疫性疾患を合併し(57%で慢性甲状腺炎、他に重症筋無力症や乾癬など)、43%で血縁者に自己免疫性疾患の既往が存在した。抗グリアジン抗体陽性例も14名中2名で認められた。小脳失調は歩行障害が顕著でありMRIでは小脳の軽度の萎縮を認めることが多く、脳幹の萎縮は認められなかった。抗GAD抗体は抗体価は1型糖尿病の抗体価と比べて著しく高値であり髄液にも抗GAD抗体が存在し、IgG indexの上昇があり、髄腔内抗体産出が示唆されている。その後の報告もほぼ同様の特徴を示していた。自己免疫性小脳失調症であるが治療効果は限定的である。ステロイド、免疫グロブリン療法の報告がある。また高力価型の抗GAD抗体陽性小脳失調症にstiff-person症候群を合併する例、末梢神経障害とこわばりを合併する例、重症筋無力症を合併する例の報告がある。原因不明のめまい、一過性の複視、一過性の構音障害、一過性の失調症状が小脳失調発症に先行してみられる例があり、早期診断のためにも前駆症状のみがみられる症例において抗GAD抗体を積極的に測定するよう推奨した報告もある。 剖検報告ではプルキンエ細胞の脱落、ベルグマングリアの増生が確認されているが炎症細胞の浸潤は認められなかった。 抗GAD抗体低力価型 2012年に東京医大の南里らが報告した疾患単位である。南里らは6症例をまとめてその特徴を以下のようにまとめている。抗GAD抗体高力価型との違いとしては、必ずしも1型糖尿病が先行しないこと、小脳失調の家族歴を示すことがあり遺伝性脊髄小脳変性症が鑑別になること、抗GAD抗体は血清で低力価陽性であり必ずしも髄腔内で産出されていないこと、治療効果は一過性であり治療を繰り返すうちに反応が乏しくなること、高力価型よりも進行が緩徐であり長期刑加齢でも良好の反応を示す例があることなどがしられている。6名中2名(33%)で小脳失調の家族歴があり遺伝子検索では脊髄小脳変性症と診断できなかった。また甲状腺自己抗体が6例中2例(33%)で陽性であった。
※この「抗GAD抗体陽性小脳失調症」の解説は、「自己免疫性小脳失調症」の解説の一部です。
「抗GAD抗体陽性小脳失調症」を含む「自己免疫性小脳失調症」の記事については、「自己免疫性小脳失調症」の概要を参照ください。
- 抗GAD抗体陽性小脳失調症のページへのリンク