想定外の浸水
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/29 17:44 UTC 版)
函館湾は、函館港口から見て、右側が、青函トンネル(事故当時未完成)の北海道側坑口に近い矢越岬付近を見通す真方位217度の線、左側が同トンネル青森側坑口近くの竜飛埼を見通す205度の線の間、この南西方向へのわずか12度の開度で日本海に向け直接開いている。台風はこの函館湾の開口方向線の約100キロ西を平行に進行したため、函館湾には台風による強い南西風が吹き込み、日本海から津軽海峡に至るその長い吹走距離と、連吹時間により生じた異常な高波が函館湾を直撃した。洞爺丸はその強風と高波をかわすため、函館湾に錨泊した。こうすれば船首は風上を向き、横波を受けて横転する危険は避けられる。さらに錨ごと流される走錨を防ぐため、両舷の主機械を運転して船位を維持した。この態勢をとれば、風下側の船尾開口部から、車両甲板上に海水が大量に浸入することはない、とそれまでの経験から、当時の関係者は考えていた。 しかし、当夜の函館湾の高波は、波高6m、波周期9秒、波長は約120mと推定され、洞爺丸の水線長115.5mよりわずかに長かった。このような条件下では、前方から来た波に船首が持ち上げられたとき、下がった船尾は波の谷間の向こう側の斜面、つまり、その前に通り過ぎた波の斜面に深く突っ込んでしまい、その勢いで海水が車両甲板船尾の一段低くなったエプロン上にまくれ込んで車両甲板に流入、船尾が上がると、その海水は船首方向へ流れ込み、次に船尾が下がっても、この海水は前回と同様のメカニズムで船尾から流入する海水と衝突して流出できず、やがて車両甲板上に海水が滞留してしまうことが、事故後の模型実験で判明した。そして、波周期が9秒より短くても長くても、車両甲板への海水流入量は急激に少なくなること、波周期が9秒でも、波高4m未満であれば、海水流入のないことも判明した。 洞爺丸のような船内軌道2線の車載客船では、車両格納所の幅が車両甲板幅の約半分と狭く、車両甲板船尾開口部から大量の海水が流入しても、その滞留量は250トンとも360トンともいわれるが、車両甲板両舷側が船室のため、自由水が舷側まで移動できず、この程度の滞留量では転覆することはない、とされた。しかし、洞爺丸は石炭焚き蒸気船で、石炭積込口など、車両甲板から機関室(ボイラー室、機械室)への開口部が多数あり、これらの閉鎖は不完全で、滞留した海水が機関室へ流れ込み、主機械停止に至って操船不能となり、走錨もあって、船首を風上に向けることができなくなった。
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