張線の利用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/16 03:27 UTC 版)
誘導抗力低減のために機体重量に対して翼幅の大きな主翼を持つことが人力飛行機の特徴であるが、主桁などの機体内部の構造だけでは十分な強度、剛性を得られない場合がある。張線の利用は主要構造に掛かる負荷の一部を張線に分担させることで長大な構造を実現するものである。ただし、張線は機体外部に露出するため空気抵抗の増大に繋がる。初期の人力飛行機は重量が重く必然的に比較的速い飛行速度で設計されていたため、張線の空気抵抗を嫌い採用例は少なかった。しかし、ゴッサマー・コンドル、ゴッサマー・アルバトロスの成功によりその利点が広く認められるようになった。材料の進歩によって張線なしでも長大な翼を製作することが可能となったが、主桁の負担する荷重を減らして主桁の軽量化を図る目的で利用される。 現在においても、長距離飛行向けの機体では長い主桁を軽量に仕上げるために張線を用いる場合があり、多くはダイダロスに倣い上下一対の張線を用いる。上側の張線を着陸張線(グラウンドワイヤー/ランディングワイヤー)、下側の張線を飛行張線(フライングワイヤー/リフトワイヤー)と呼び、それぞれ着陸時、飛行時に荷重を分担する。素材にはピアノ線、ステンレスワイヤー、ポリアミド繊維などの高強度材料が用いられる。着陸張線は機体中心の主翼上にほぼ直立したキングポストと呼ばれる柱で支えられており、キングポストを中心に左右の主翼上面にワイヤーが張られる。飛行張線はほぼ主翼直下に位置するコクピット下部から左右の主翼下面にワイヤーが張られる。 飛行時、長い主翼のあらゆるところで生じる揚力により主桁を上へ曲げようとする荷重が掛かる。この荷重は胴体と接続される翼根部に近づくにつれて急激に増大する。この荷重に対し、主桁のみで負担させる設計では翼根部の重量が増してしまうため、翼の中ほどから飛行張線を張り、荷重の一部を負担することで主桁の軽量化を図る。飛行張線が切れてしまうと、ワイヤーが負担していた荷重が全て主桁にかかり、多くの場合主桁の許容荷重を超えてしまい主桁が折損、主翼が破壊されてしまう。また、飛行張線はコクピット最下部に取り付けられることが多いため、踏みつける危険性があり、飛行張線が張られているときは常に注意を払う必要がある。着陸張線は地上で主翼が大きく垂れ下がることを防ぎ、離着陸時に慣性によって大きく主翼が下向きに撓んだ際に主桁が破壊されることを防ぐ役割がある。前述の通り、いずれの張線も主桁の軽量化に役立つ一方で空気抵抗を生じるため、軽量化による必要出力の低減と空気抵抗による必要出力の増加を天秤にかける必要がある。空気抵抗のうち形状抗力は速度の2乗に比例するため、一般的に巡航速度の大きな高速飛行向けの機体では採用されない傾向にある。また、張線を持つ機体では上反角を調整するために張線の長さを変更する方法が採用されることがある。
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